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魔法競技会
夢の中で
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眠りについたアルだったが、夢の中で驚きの相手と対面することになった。
「──アル様」
目を覚ましたアルは、自分が純白の空間にいることに気づき、そこがアルベルトが死んだ直後に訪れた場所だとすぐに気づいた。
「まさか、ヴァリアンテ様!」
「えぇ、その通りです」
声の方へ振り返ると、そこには出会った時と同じで右手に金色の錫杖を持ったヴァリアンテが微笑みを浮かべて立っていた。
ヴァリアンテのことを敬愛しているアルはすぐに片膝を付き、頭を下げる。
「うふふ。立ってください、アル様」
「いえ! 俺は、あなたを満足させる成果をいまだに出すことができておりません!」
「何を言うのですか。あなたは、ユージュラッドをその剣で守り抜きました。十分な成果を上げているのですよ?」
アルが頭を下げているからか、ヴァリアンテはやや表情を崩して顔を引きつらせている。
偉ぶるような口調で話しているが、スタンピードの行軍が加速したのが自分のせいだと分かっているので、申し訳ない気持ちが表情に表れているのだ。
「……分かりました。ありがとうございます」
ヴァリアンテの言葉を受けて、アルはゆっくりと立ち上がる。
そのまま顔が正面を向く前に、ヴァリアンテも表情を整えた。
「いつも私の神像に向かって祈りを捧げていただいていますね」
「もちろんです! 剣術の神であるヴァリアンテ様に祈りを捧げない日など、あってはなりませんから!」
「……あ、あぁ、そうですか。あははー」
あまりに自分を敬愛しているのだと驚いたヴァリアンテはわずかに素が出てしまったが、アルは全く気づくそぶりを見せない。
一度咳払いをしたヴァリアンテは、今回接触を図った理由を口にした。
「今回のスタンピードですが……申し訳ありません」
「ど、どうしたのですか?」
「魔獣の行軍速度が上がってしまったのは、私が原因なのです」
ここでヴァリアンテが説明した内容は、神力によって魔獣の行軍速度が上がったというものだった。
自分が寝ていたことは上手く隠し、やや下を向くことで申し訳なさを演出している。
「──……ですから、私の神力が漏れてしまったことで、魔獣の行軍速度が上がってしまったのです」
説明を終えたヴァリアンテが顔を上げると、アルが驚きの表情を浮かべている。
だが、その驚きの向き方は、ヴァリアンテの予想外の方向だったが。
「……さ、さすがはヴァリアンテ様です!」
「……えっ?」
「魔獣をも引き寄せてしまう程に、その神力という力は強いものなんですね! それだけ、神様の中でも位が高いということでしょうか!」
「……えぇ~? いや、そういうわけじゃないんだけど」
「ご謙遜されるなんて! あぁ、さすがは剣術の神だ! 自分に驕ることなく、他者を敬っているのですね!」
「そ、そういうわけじゃないんだけどなぁ~」
「剣術を極めるために転生させていただきましたが、この世界で名を残すため、全力を尽くしたいと思います! まずは魔法競技会での優勝を目指したいと思います!」
「……そ、そう? それじゃあ、頑張ってね?」
「もちろんです!」
満面の笑みを浮かべているアルとは対照的に、ヴァリアンテは苦笑いを浮かべている。
思い込みの力がこれほど強いものなのかと、ヴァリアンテは驚いているところだった。
「で、では、私はそろそろ戻りたいと思います。ゆっくり休んで、明日に備えてくださいね」
「ありがとうございます!」
苦笑いのままで姿を消したヴァリアンテ。
直後から純白の世界が崩れていき、アルの意識も深い眠りに誘われていく。
「……あれ? そういえば、なんか話し方が気安かったような?」
そんなことを考えたアルだったが、話し方よりもヴァリアンテを敬愛する想いの方が前面に出てしまい、駄女神だということに気づく機会を逸してしまった。
「……いや、それよりも、俺は俺のできることをやらないとな! まずは魔法競技会の優勝! そして、冒険者としてこの世界で名を残すんだ!」
アルとヴァリアンテのすれ違いから生まれたアルの決意だが、それが良い方向に向いているのだから構わないかと、ヴァリアンテは溜息を付きながら考えていた。
「──アル様」
目を覚ましたアルは、自分が純白の空間にいることに気づき、そこがアルベルトが死んだ直後に訪れた場所だとすぐに気づいた。
「まさか、ヴァリアンテ様!」
「えぇ、その通りです」
声の方へ振り返ると、そこには出会った時と同じで右手に金色の錫杖を持ったヴァリアンテが微笑みを浮かべて立っていた。
ヴァリアンテのことを敬愛しているアルはすぐに片膝を付き、頭を下げる。
「うふふ。立ってください、アル様」
「いえ! 俺は、あなたを満足させる成果をいまだに出すことができておりません!」
「何を言うのですか。あなたは、ユージュラッドをその剣で守り抜きました。十分な成果を上げているのですよ?」
アルが頭を下げているからか、ヴァリアンテはやや表情を崩して顔を引きつらせている。
偉ぶるような口調で話しているが、スタンピードの行軍が加速したのが自分のせいだと分かっているので、申し訳ない気持ちが表情に表れているのだ。
「……分かりました。ありがとうございます」
ヴァリアンテの言葉を受けて、アルはゆっくりと立ち上がる。
そのまま顔が正面を向く前に、ヴァリアンテも表情を整えた。
「いつも私の神像に向かって祈りを捧げていただいていますね」
「もちろんです! 剣術の神であるヴァリアンテ様に祈りを捧げない日など、あってはなりませんから!」
「……あ、あぁ、そうですか。あははー」
あまりに自分を敬愛しているのだと驚いたヴァリアンテはわずかに素が出てしまったが、アルは全く気づくそぶりを見せない。
一度咳払いをしたヴァリアンテは、今回接触を図った理由を口にした。
「今回のスタンピードですが……申し訳ありません」
「ど、どうしたのですか?」
「魔獣の行軍速度が上がってしまったのは、私が原因なのです」
ここでヴァリアンテが説明した内容は、神力によって魔獣の行軍速度が上がったというものだった。
自分が寝ていたことは上手く隠し、やや下を向くことで申し訳なさを演出している。
「──……ですから、私の神力が漏れてしまったことで、魔獣の行軍速度が上がってしまったのです」
説明を終えたヴァリアンテが顔を上げると、アルが驚きの表情を浮かべている。
だが、その驚きの向き方は、ヴァリアンテの予想外の方向だったが。
「……さ、さすがはヴァリアンテ様です!」
「……えっ?」
「魔獣をも引き寄せてしまう程に、その神力という力は強いものなんですね! それだけ、神様の中でも位が高いということでしょうか!」
「……えぇ~? いや、そういうわけじゃないんだけど」
「ご謙遜されるなんて! あぁ、さすがは剣術の神だ! 自分に驕ることなく、他者を敬っているのですね!」
「そ、そういうわけじゃないんだけどなぁ~」
「剣術を極めるために転生させていただきましたが、この世界で名を残すため、全力を尽くしたいと思います! まずは魔法競技会での優勝を目指したいと思います!」
「……そ、そう? それじゃあ、頑張ってね?」
「もちろんです!」
満面の笑みを浮かべているアルとは対照的に、ヴァリアンテは苦笑いを浮かべている。
思い込みの力がこれほど強いものなのかと、ヴァリアンテは驚いているところだった。
「で、では、私はそろそろ戻りたいと思います。ゆっくり休んで、明日に備えてくださいね」
「ありがとうございます!」
苦笑いのままで姿を消したヴァリアンテ。
直後から純白の世界が崩れていき、アルの意識も深い眠りに誘われていく。
「……あれ? そういえば、なんか話し方が気安かったような?」
そんなことを考えたアルだったが、話し方よりもヴァリアンテを敬愛する想いの方が前面に出てしまい、駄女神だということに気づく機会を逸してしまった。
「……いや、それよりも、俺は俺のできることをやらないとな! まずは魔法競技会の優勝! そして、冒険者としてこの世界で名を残すんだ!」
アルとヴァリアンテのすれ違いから生まれたアルの決意だが、それが良い方向に向いているのだから構わないかと、ヴァリアンテは溜息を付きながら考えていた。
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