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魔法競技会

王都観光②

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 アルは店内を見て回るためにラジェットに断りを入れて歩き出す。
 最初に目を向けたのは、剣が並んでいる一角。
 アルディソードがあるので購入することはないにしても、魔法師が最上とされている世界において、このように剣が並んでいる光景を目にしていることに感動していた。

「……魔法国家と言われていても、こうして剣は売られているんだな」

 剣術が過去の産物と言われた時は絶望したのだが、それでも希望を見い出して頑張ってここまできた。
 この光景を見れただけでも報われた気持ちになるが、アルが目指しているのは剣を見ることではない。
 剣術を極めることが最終目標なので、感動はすれど安堵はしなかった。

「アルも何か買うつもりなの?」

 そこへ声を掛けてきたのはシエラだ。
 ジャミールはすでに別行動をとっており、自分では使わないだろう大剣が並ぶ一角を眺めている。

「いいや、俺は買わないよ。ただ、魔法師が偉いとされているカーザリアで、剣が並ぶ光景を見れるとは思わなかったからな」
「……王都は違うけど、他の都市では鍛冶屋自体が少ないからね」
「そういえば、ユージュラッドでは見てないような」

 アルもユージュラッドの全ての区画を見たわけではないが、それでも鍛冶屋を目にした記憶がなかった。
 実際にはあるのだが、それでも数店舗ほどであり、カーザリアのように何軒も鍛冶屋が並んでいるということはない。

「シエラは何か買うつもりなのか?」
「えぇ。これを買うわ」

 そう言って見せてきたのは、シンプルな作りのナイフ。
 しかし、その作りはとても丁寧であり、シエラが持ってきた一本を見ただけでもラジェットの腕前を称賛することができる。

「これだけのものがあるなら、俺も一本くらいは買っておいてもいいか?」
「うふふ、もっとしっかりと見てみたらいいんじゃないのかしら?」

 現状、アルの装備はアルディソードとオールブラックの魔法装具に、チグサから貰った斬鉄の三つ。
 その場で金属を金属性で加工して武器として使用することもできるが、それはあくまでも非常時の方法だ。
 そういった非常時にもう一本、自信をもって振れる剣があるのは良いことではないだろうか。

「……そうだな。一緒に見てもらえるか?」
「もちろんよ。長さはアルディソードと同じくらい?」
「あぁ。俺にはあの長さがちょうどいいんだ」
「そうねぇ……なら、あっちの剣はどうかしら?」

 並んでいる剣を眺めていたシエラだが、指差された場所は剣が並ぶ一角とは別の棚。
 そこにはガラスケースがあり、いくつかの武器が立て掛けられている。
 その中に一本だけ剣も並んでいた。

「……これは、すごいなぁ」
「アルもそう思う?」
「あぁ。剣から放たれる迫力が、あっちに並んでいるものとは桁違いだ。これは、素材が関係してるのか? それとも、作者の腕なのか?」

 アルとシエラが並んでガラスケースの剣を眺めていると、そこへラジェットが声を掛けてきた。

「その剣は、Aランク相当の魔獣の素材を使って作られた剣だよ」
「Aランク相当ってことは、オークロードと同等か」
「オークロードって……アル様は戦ったことがあるのですか?」
「氷雷山に行った時に一度」
「Sランク相当のフェルモニアを単独討伐したアルには、驚きでも何でもないってことね」
「フェ、フェルモニアを単独討伐ですか!?」

 軽く話したアルとシエラだったが、ラジェットは声をあげて驚いてしまった。

「……あっ! も、申し訳ありません!」
「いいや、気にしないでください。確かに、Sランク相当の魔獣を単独討伐なんて、普通は聞かないことですからね」
「アルが普通ではないって言っているようなものだけどね」
「シエラだって強いだろうに」
「あら? あなたに比べたらゴミみたいなものよ」
「ゴ、ゴミって」

 普通に会話をしている二人なのだが、その内容が普通ではない。
 ラジェットは苦笑いを浮かべることしかできず、であればとガラスケースに入れていた剣を取り出した。

「これは、ベビードラゴンの鱗を使った剣です」
「ドラゴン! ……まさか、ベビーとはいえドラゴンの素材を使った剣を見れるとは思わなかったわ」
「珍しいのか?」
「はい。ドラゴン自体が珍しく、そのほとんどがSランク以上の実力を持っています。ベビードラゴンは赤子だということでAランク相当になっていますが、それでも珍しい素材に変わりはありません」
「オークロードと比べてもか?」
「もちろんよ。単純な実力で見ても、ベビードラゴンの方が圧倒的に上だわ」

 放たれている迫力がドラゴンという上位の魔獣の素材だからと言われれば、納得するしかない。

「そんな素材を加工できる腕を持っているラジェットさんは、素晴らしい職人ということですね」
「あはは。自分はまだまだですよ」

 謙遜しているが、アルはその言葉を素直に信じることはできない。
 何故なら、目の前にあるラジェット渾身の一振りから目を離すことができなくなっているからだ。

「……これの買い手は決まっているんですか?」
「まだです。……まあ、30万ゼルドと高額ですからね」
「さ、30万ゼルドですか……」

 さすがに手が出ないと思ったアルだが、王都にいる間だけでも冒険者として活動するのも悪くないという考えが頭をよぎる。

「……すぐには、無理ですね」
「ですよね。まあ、すぐには買い手も決まらないと思いますので、機会があればまたいらっしゃってください」
「私はこれを購入するわ」
「ありがとうございます」

 ラジェットは剣をガラスケースに戻して、ナイフの会計のためにシエラと共にカウンターへ向かう。
 アルはその場に留まり、会計が終わる間もずっと剣を見つめていたのだった。
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