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第18話:キリカの過去と大きな感謝
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「……こんなことを言うと荒唐無稽だと思われるかもしれませんが、今から五年ほど前です。夢の中に何者かが現れて、機構装具の知識を私に授けてくれたんです」
キリカの話は、とても真実とは思えないような、彼女の言う通り荒唐無稽な内容だった。
夢の中に光を帯びた何者かが現れ、その者から機構装具の作り方を教えてもらったのだと語る。
知識は作り方だけに留まらず、どのように使うのか、どのような効果を発揮するのか、世界を救うこともあれば、滅ぼすこともあるなど、恐ろしい知識も含まれた。
夢から覚めたキリカは、最初こそ何が起きたのか理解できなかった。
当然だ。寝て起きたら、機構装具についての知識を持っている現実と向き合わなければならなかったのだから。
「世界を救うだけならまだしも、滅ぼすこともあると分かっているからこそ、私は恐怖しました」
「五年ほど前ってことは、まだ子供だろう? そりゃ当然だ」
苦笑いのキリカに対して、バジリオは優しい声で同調した。
「……ですが、後にこのことを私は感謝しました」
「感謝?」
「はい。私が機構装具の知識を得た時期と同時期に、バジリオ様が左腕と右足を失ったのだと、風の噂で聞きました」
キリカが何を言いたいのか、バジリオも理解した。
だが、それとこれとは別だろうと彼を思う。
「俺のためだって言いたいのか?」
「その通りです」
「たまたま時期が同じだっただけで、それは違うだろう」
「どうしてそう思われるのですか?」
「キリカの機構装具は、すごい技術だ。俺だけじゃなく、もっと多くの人間を助け、導ける力を持っている。違うか?」
バジリオの言葉に、キリカは逡巡のあと、小さく頷く。
慢心ではない。彼女は機構装具が秘める力を、十全に理解しているからこそ、頷くことができた。
「だからこそ、俺のためだけで終わらせちゃダメなんだ」
「それは……はい。その通りだと思います」
「なあ、キリカ。英雄って、誰が決めると思う?」
するとここで、バジリオから突拍子もない質問が口にされた。
「英雄を決める、ですか? ……いいえ、分かりません」
「俺は突然、英雄になった。キリカが語ってくれたようなことが、俺にも起きたんだ」
「え? そ、そうだったんですか?」
まさかの事実に、キリカは驚きの声を上げた。
「あぁ。ってことはだ、キリカ。お前も俺と同じで、英雄になったってことじゃないか?」
「……私が、英雄に?」
思いがけない言葉に、キリカは困惑を隠せない。
「まあ、最初は困惑するよな。だが、キリカのような、他の英雄や人間を支える英雄がいても、俺はおかしくないと思っているんだ」
「それは、どうしてでしょうか?」
「英雄とは、人族を助け、その光になるべきだと、俺は思っているんだ」
「……人族を助け、その光になる」
バジリオの言葉を繰り返しながら、キリカは心の中で何度も復唱する。
「傷物英雄の俺が、こうしてまた剣を持てるようになったのは、キリカのおかげだ。俺はもう、キリカに助けられているんだ。英雄を助けられる英雄なんて、そう多くはないぜ?」
「そんな。助けられたのはこちらです」
「そんじゃあ……持ちつ持たれつってことでいいんじゃないか? まあ、それは置いておくとしてだ。キリカが俺を助けてくれたから、俺はまた他の誰か助けることができる。それは間接的に、キリカが多くの人族を助けたことになるだろう?」
自分が多くの人族を助けたことになると言われたものの、キリカはまだ理解できない。
「……すみません。分かりません。私自身が戦えるわけじゃないんですよ?」
「だとしてもだ。今はまだ分からなくてもいい。だけど、少なくても俺は、キリカに大きな感謝をしている。そのことだけは、知っていてほしい」
そう口にしたバジリオは、柔和な笑みをキリカに向ける。
その笑顔がキリカには眩しく映り、思わず自身も笑みを返す。
「俺はこれから、もう一度英雄として活動してみようと思っている」
「そ、それは本当ですか、バジリオ様!」
「あぁ、本当だ。機構装具が壊れるまでって、限定的なもんだがな」
笑いながらバジリオは、左腕を軽く持ち上げた。
「壊すつもりはさらさらないが、英雄をやるってんなら何が起きるか分からない。それに、こいつが壊れる時ってなれば、俺が死ぬときかもしれない」
バジリオの言葉に、キリカはやや悲しそうな表情を浮かべる。
「傷物のレッテルは大きいだろうから、最初はラビクの里みたいな、過去に俺が手助けできたところを回っていこうと思う。……本当にありがとな、キリカ」
最後にそう口にしたバジリオは、機構義手である左手で彼女の頭を優しく撫でた。
それから二人は遅くまで語らい、途中からハヅキも加わり、楽しい宴の時間を過ごしていったのだった。
キリカの話は、とても真実とは思えないような、彼女の言う通り荒唐無稽な内容だった。
夢の中に光を帯びた何者かが現れ、その者から機構装具の作り方を教えてもらったのだと語る。
知識は作り方だけに留まらず、どのように使うのか、どのような効果を発揮するのか、世界を救うこともあれば、滅ぼすこともあるなど、恐ろしい知識も含まれた。
夢から覚めたキリカは、最初こそ何が起きたのか理解できなかった。
当然だ。寝て起きたら、機構装具についての知識を持っている現実と向き合わなければならなかったのだから。
「世界を救うだけならまだしも、滅ぼすこともあると分かっているからこそ、私は恐怖しました」
「五年ほど前ってことは、まだ子供だろう? そりゃ当然だ」
苦笑いのキリカに対して、バジリオは優しい声で同調した。
「……ですが、後にこのことを私は感謝しました」
「感謝?」
「はい。私が機構装具の知識を得た時期と同時期に、バジリオ様が左腕と右足を失ったのだと、風の噂で聞きました」
キリカが何を言いたいのか、バジリオも理解した。
だが、それとこれとは別だろうと彼を思う。
「俺のためだって言いたいのか?」
「その通りです」
「たまたま時期が同じだっただけで、それは違うだろう」
「どうしてそう思われるのですか?」
「キリカの機構装具は、すごい技術だ。俺だけじゃなく、もっと多くの人間を助け、導ける力を持っている。違うか?」
バジリオの言葉に、キリカは逡巡のあと、小さく頷く。
慢心ではない。彼女は機構装具が秘める力を、十全に理解しているからこそ、頷くことができた。
「だからこそ、俺のためだけで終わらせちゃダメなんだ」
「それは……はい。その通りだと思います」
「なあ、キリカ。英雄って、誰が決めると思う?」
するとここで、バジリオから突拍子もない質問が口にされた。
「英雄を決める、ですか? ……いいえ、分かりません」
「俺は突然、英雄になった。キリカが語ってくれたようなことが、俺にも起きたんだ」
「え? そ、そうだったんですか?」
まさかの事実に、キリカは驚きの声を上げた。
「あぁ。ってことはだ、キリカ。お前も俺と同じで、英雄になったってことじゃないか?」
「……私が、英雄に?」
思いがけない言葉に、キリカは困惑を隠せない。
「まあ、最初は困惑するよな。だが、キリカのような、他の英雄や人間を支える英雄がいても、俺はおかしくないと思っているんだ」
「それは、どうしてでしょうか?」
「英雄とは、人族を助け、その光になるべきだと、俺は思っているんだ」
「……人族を助け、その光になる」
バジリオの言葉を繰り返しながら、キリカは心の中で何度も復唱する。
「傷物英雄の俺が、こうしてまた剣を持てるようになったのは、キリカのおかげだ。俺はもう、キリカに助けられているんだ。英雄を助けられる英雄なんて、そう多くはないぜ?」
「そんな。助けられたのはこちらです」
「そんじゃあ……持ちつ持たれつってことでいいんじゃないか? まあ、それは置いておくとしてだ。キリカが俺を助けてくれたから、俺はまた他の誰か助けることができる。それは間接的に、キリカが多くの人族を助けたことになるだろう?」
自分が多くの人族を助けたことになると言われたものの、キリカはまだ理解できない。
「……すみません。分かりません。私自身が戦えるわけじゃないんですよ?」
「だとしてもだ。今はまだ分からなくてもいい。だけど、少なくても俺は、キリカに大きな感謝をしている。そのことだけは、知っていてほしい」
そう口にしたバジリオは、柔和な笑みをキリカに向ける。
その笑顔がキリカには眩しく映り、思わず自身も笑みを返す。
「俺はこれから、もう一度英雄として活動してみようと思っている」
「そ、それは本当ですか、バジリオ様!」
「あぁ、本当だ。機構装具が壊れるまでって、限定的なもんだがな」
笑いながらバジリオは、左腕を軽く持ち上げた。
「壊すつもりはさらさらないが、英雄をやるってんなら何が起きるか分からない。それに、こいつが壊れる時ってなれば、俺が死ぬときかもしれない」
バジリオの言葉に、キリカはやや悲しそうな表情を浮かべる。
「傷物のレッテルは大きいだろうから、最初はラビクの里みたいな、過去に俺が手助けできたところを回っていこうと思う。……本当にありがとな、キリカ」
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