職業賢者、魔法はまだない ~サバイバルから始まる異世界生活~

渡琉兎

文字の大きさ
15 / 56
第1章:異世界転生

現地人

しおりを挟む
 俺は咄嗟にナイフを構えて森の方から視線を離すことなく見つめ続ける。
 未知の動物や魔族だったとしても、間に湖を挟んでいるからいきなり襲われるということはないはず。
 姿を現して倒せそうなら戦うが、無理そうだったらこの場を放棄して逃げの一手だ。
 本音を言えば拠点を失うのは痛いが、命を守るためならば仕方がない。

「……頼む、でか兎かでか豚であってくれ」

 物音はだんだんと近づいて来る。そして現れたのは──

「きゃあっ!」
「……に、人間?」

 茂みに足を取られたのか、飛び出してきた物音の正体だろう女性がぬかるんだ地面に顔から突っ込んだ。
 これは助けるべきだろうか、そんなことを考えていると別の物音が近づいていることに気がついた。

「もしかして、何かから逃げてたのか?」

 彼女はおそらく現地人だろう。
 現地人が逃げるような相手ということは、おそらく動物ではないかもしれない。
 そうなると考えられるのは魔族ということになるが……。

「……いや、考えている場合じゃないか」

 異世界に来て初めての現地人である。
 色々と聞きたいこともあるし、それに目の前で襲われている女性を見殺しにはできない。
 ……何より、誰かと喋りたいのである。

「あのー! 大丈夫ですかー!」
「……えっ?」

 どうやら俺の存在に気づいていなかったようだ。
 まあ、必死に逃げてきて顔面から地面に突っ込んだんだから、こっちを見ている余裕なんてないわな。

「……ど、どうして、ここに人間が?」
「えっ? なんか言いましたかー?」
「……あ、あなた、どうやってこの森に入ってきたのですか!」

 ……あれ、なんか、怒られてる?
 ちょっと予想外の展開だったのだが、とりあえず近くに行ってみようかな。
 何か現れた時も、その方が助けやすいし。

「そっちに行くので、待っててくださいねー!」
「く、来るな──死ぬぞ!」
「……死ぬ?」

 それは近づいて来る別の物音の正体がヤバい奴ということだろうか。
 もしそうなら行くしかないだろう。
 俺が死ぬということは、女性も殺されるかもしれないということだしな!

 時間が惜しい、俺は快速スキルを発動させて少しでも早く女性の下に辿り着こうと走り出す。
 元々の速さが低いので極端に速くなるということはないが、それでも数秒は短縮することができるだろう。

「な、何で来るのよ!」
「何か危ない奴が来てるんでしょう! 力になります!」
「人間では倒せないわ! 来てるのは──魔族なのよ!」

 ……あー、やっぱり魔族でしたか。
 こんな森深く……ここが深い森かは分からんが、一人でこんなところまで来る人だし、それないに強い人なのかもしれない。
 そんな人が動物に後れを取るとは考えにくいし、そう考えるとやはり相手は魔族となる。
 下級魔族だったらゲビレットと同程度、瞬歩などのスキルがある今ならもう少しうまくやれる自信はあるけど、それ以上となればヤバいかもなぁ。
 ……だが、それでも俺は止まることはせずにそのまま走り続けた。

「……女性を見捨てて逃げるなんて、嫌なんですよ」

 そして、そんなことを言いながら女性の下に到着したのだ。

「……あんた、バカなんじゃないの? 魔族が来るって言ったでしょう!」
「まあ、やれることはやりましょう」

 その魔族とやらは、俺の気配察知にも引っかかっている。
 こいつは……初めての気配だ。間違いなくゲビレットではない。
 というか、魔族って同じ種類がいるのかも分からないけど。

「あなたは戦えるんですか?」
「……これでも、上級冒険者よ」
「それって凄いんですか?」
「す、凄いわよ! あんた、何を言ってる……の?」

 ……ん? 何だかいきなり声が小さくなったような?

「……あの、どうしたんですか?」
「……」
「……あのー、もしもーし」
「ふえ? ……あっ! な、なんでもないわよ! そ、それよりも──来るわよ!」

 気になる反応をしている女性が気になるのだが、今は迫る危険を振り払わなければならない。
 俺は腰に差していたナイフを抜き放ち逆手に構えて意識を集中させる。
 快速の制限時間は残り七分程度。
 蹴歩はまだ使える。
 ナイフ術のスキルレベルは2。
 大丈夫、やれるさ。
 そして、姿を現した魔族は──

『──ゲルルルルゥゥ』
「で、でかいし、首が二つ!?」
「オルトロスよ!」

 四肢で立った時の高さは俺と同じくらいか。
 だが、二つに分かれた首には鋭い牙が並び、合計四つの赤眼が俺たちを睨みつけている。

「……おぉ、これは、死んだか?」
「だ、だから言ったじゃないのよ!」

 今にも泣き出しそうな声で俺にツッコミを入れている女性冒険者だったが、上級というだけのことはあり泣きながらも腰に下げていた武器を構えた。

「えっ? 武器って、鞭?」
「鞭で悪いって言うの! 男は剣やら槍やらナイフやら、意味もなく近づいて斬ることにばっかり執着するんだから、本当に嫌になっちゃうわよ! だからあいつらも噛み殺されたわけだし? 言い寄られ来ただけだから別に構わないけど、巻き込まないでって感じなのよね!」
「……えっと、なんかごめんなさ──」
「避けて!」

 俺が謝っている途中で怒声にも似た指示が飛ぶ。
 直後──俺の目の前には炎が迫っていた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~

枯井戸
ファンタジー
力も強くない、足も速くない、魔法も使えないし、頭も大してよくない、どこにでもいるちょっとオタク趣味の主人公・東雲真緒が白雉国に勇者として転生する。 同期の勇者はそれぞれ力が強かったり、魔法が使えたり、回復ができたりと各々の才能を開花させ頭角を現していくのだが、真緒に与えられた才能は異世界転生モノでよく見る〝ステータスオープン〟のみだった。 仲間には使えないと蔑まれ、ギルドには落第勇者の烙印を押され、現地人には殺害されかけ、挙句の果てに大事な人を亡くし、見ず知らずの土地の最底辺で生きていくことになった真緒だったが、彼女はまだ〝ステータスオープン〟の可能性に気づいていないだけだった。 ───────────── ※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。 ※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。 ※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

社畜サラリーマン、異世界でパンと魔法の経営革命

遊鷹太
ファンタジー
過労死寸前の30代サラリーマン・佐藤健は、気づけば中世ヨーロッパ風の異世界に転生していた。与えられたのは「発酵魔法」という謎のスキルと、前世の経営知識。転生先は辺境の寒村ベルガルド――飢えと貧困にあえぐ、希望のない場所。「この世界にパンがない…だと?」健は決意する。美味しいパンで、人々を笑顔にしよう。ブラック企業で培った根性と、発酵魔法の可能性。そして何より、人を幸せにしたいという純粋な想い。小さなパン屋から始まった"食の革命"は、やがて王国を、大陸を、世界を変えていく――。笑いあり、涙あり、そして温かい人間ドラマ。仲間たちとの絆、恋の芽生え、強大な敵との戦い。パン一つで世界を救う、心温まる異世界経営ファンタジー。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚

熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。 しかし職業は最強!? 自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!? ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。

異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~

ヘッドホン侍
ファンタジー
◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆ ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。

桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。 だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。 そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。 異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。 チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!? “真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

処理中です...