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一章 魔王城、意外と居心地がいい気がする。

08

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 俺は次にアゼルと会ったら誤解を解いておこう、と決心する。

 変質者疑惑は困る。赤っ恥を後悔している俺は今、ある意味無敵だ。うんうんと唸る俺に好き勝手に纏わりついているガドがついに俺の体を抱き上げてペロペロと胸元を舐め始めても、知ったこっちゃない。

 まぁ魔族にとって人間はちょっとした珍味だからだろうが、それにしたって舐めすぎだ。


「汗かいてっし血ィ吸われたあとだから、お前スゲェイイニオイすんなァ。俺は吸血趣味じゃねぇけど、うまそうってのはわかる」

「やめろ。くすぐったい」

「んー……口以外でも抵抗したほうがいいぜ?」


 素直にやめろと言ってみると、もがきもせず抱かれている俺に、ガドは子どもでも見るような眼差しで少し心配そうに見つめてきた。やめろその顔。

 ……まぁガドの言い分には一理あるな。
 ことなかれ主義の流され気質というのは、自覚のある短所である。

 居心地の悪そうな俺を降ろして、ガドは父親のような顔でよしよしと俺の頭をなで繰り回す。


「ダメだぞ~。そんなんじゃァすぐ悪い魔族につれてかれんぜ? まず窓から入ってくるやつは、すぐに追い出せよ。俺以外な」

「お前はいいのか」

「俺はいたいところにいたい時に来るかんなァ」


 クシシシ、と笑って言ってのける言葉は傲慢なイメージがある。だけどたぶん、ガドは素でマイペースなだけなんだろうな。この短時間でわかったことだ。

 ふう、とため息混じりに笑って、頭をガシガシなでる手をきゅっと掴み、自分の頭から降ろさせる。


「ン?」


 首を傾げたガドを見上げて、ピースしてやった。


「抵抗だ」
「マジか」


 きょとんとするガドは少しかわいかった。
 面白いので反撃でも、とパチンッとデコピンをかましてみるがガドは微動だにしない。

 そして頭固いな。
 指のほうがちょっと痛い。強い。


「うおぉ」


 しかしすぐに攻勢に出られ、俺はあえなくガシッと抱き上げられる。幼児のように脇に手を入れられ、くるくると振り回されてしまった。


「あっは愉快! お前、楽しいなァ!」


 グルンッグルンッ! と容赦なく回転しながらむふむふ機嫌のいいガドだが、俺はたまったもんじゃない。やめろ。内臓が。


「抵抗してみろよォ~」

「ぐ、ごご、うぶぇ」


 抵抗以前に。内臓が。

 下半身が千切れてどこかに飛んでいきそうな感覚に耐えながらなんとか言葉を発しようとするが、この無邪気な遠心力装置はちっとも人の話を聞かない。そして話ができない。

 ──上位魔族の浮かれ回転がどれほどの速度かなんて知りたくなかったし、知る予定もなかったぞ……!

 結局、俺が遠心力装置から解放されたのは、それからしばらく経ってガドが「やべ、ちょっと酔った」と呟いてからだった。

 魔王城二度目の死ぬかと思った、だ。
 もうゴメンである。




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