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三章 勇者と偽勇者と恩人勇者。

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「ハチャメチャで問題あんのかよ」

「いえ。仕事の進みがとんでもないのでそれはよろしいのですが、なぜ膝抱っこなのかが私といたしましては大問題でしてね」


 死んだ魚、いや死んだ不死鳥という矛盾顔で俺たちを見るライゼンさん。

 現在の俺たちの状態は、書斎机で席につくアゼルの膝に俺が乗って書類を作ったり確認したりしている状態である。

 なのでアゼルは俺の腰に抱きつきながらグルルと甘えつつ、サインをしたり書類を読んでから魔力でハンコを浮かせてポンポン決裁していた。

 いろいろ迷った結果、これが最善かつ仕事効率が良かったんだ。

 頬を染めながら俺を抱きしめるのに忙しそうなアゼルだが、目はスルスルと速読しているし、集中が散漫することなく魔力を操って書類を捌くからな。

 恐らく過去無頼で仕事を一人でこなしていたから書類の処理はお手の物なんだろう。

 それにしたってまるで手足のような魔力操作だ。つくづく魔法関係をセンスで乗りこなしてきた男である。


「はぁ……最近の魔王様は全く自重なさいませんね……敬愛するあなた様が突然勇者を飼うなんて言い出したあの夜が懐かしいくらいです……気がついたらその勇者と恋人になっていたことをごく最近知った私に、この状況をどうしろと……?」

「慣れろ。別に珍しくもねぇだろ? 過去にもいたらしいじゃねえか迷い込んだ人間の男に惚れ込んで寵愛してた魔王とか。俺もそれだ」

「シャルさんは迷子になってましたが迷い込んでませんよね? あなた様を殺しに来たのですよね? それに過去の寵愛児たちは大人しく愛されてくれていますッ! 誘拐されかけて剣振り回したりそんなやたら慣れた手つきで魔王の執務を補佐したりしませんッ!」

「ははは。前の世界でな、俺はしがないリーマン……企業戦士だったんだ。人手が足りなくて他部署の応援にもよく駆り出されていたから事務仕事には慣れている」

「そうでしょうね。シャルさんのおかげでティータイム後の魔王様の執務がものの二時間ほどで毎日片付きます。でもお膝で抱っこはいらないと思います」

「なに言ってやがる。抱っこが仕事だろうが、俺の。せっかく俺のアレが来てんのに仕事より執務優先なんてよくもそんな酷いこと俺にさせやがるな。鬼かよライゼン」

「魔王様の仕事は執務ですし俺の恋人だと照れずに言えないからってアレ呼ばわりする姿は見たくなかったですよっ!」

「こんな感じでしょんぼりされたから、根負けしてこうしているんだ。なぜかアゼルがベストパフォーマンスを発揮する形態でな……」

「まったく他者を気にしなくなった上に唯一を見つけた魔王様は本当にブレないですね。私オンリーいたたまれない」


 そう言ってライゼンさんはパチパチッ! と火花を散らした。

 彼はここのところずっと俺とアゼルのイチャイチャを見せられているから、ついに黙っていられなくなったのだろう。ため息混じりに呆れている。

 一応最初は俺も恥ずかしかったんだぞ? けれどこうしないと、アゼルがしょげるんだ。

 俺に触りたくてうずうずしながらちまちまお菓子を食べつつしょげかえって仕事に戻るので庇護欲を煽り、キュンキュンとなんだかもう、俺が駄目だった。

 こう「別に俺は寂しくねぇし仕事しないとだし、シャルは好きなだけそこでのんびりしてろよ。俺は別に。……うぐぅ……っ」と口以外わかりやすく落ち込まれると、俺としてはな。

 カリカリと書類を作りつつ、くっと悔しい表情になる。
 俺の魔王がかわいすぎる。




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