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一皿目 おはようからおやすみまで、暮らしを見つめる魔王です

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 小さいテーブルいっぱいに広がる朝食に舌鼓をうちながら、アゼルと他愛のない話をする。

「今日はお菓子屋さんのメニュー、くるみのキャラメルタルトだぞ」
「んっ、そうかよ」

 サプライズしたい時以外は、いつもアゼルにだけ先に教えてあげるお菓子の内容。

 今日のメニューを聞くとアゼルは素っ気ない返事をしたが、わかりやすく嬉しげにソワソワし始める。

 アゼルはくるみが好物らしい。

 嫌いじゃないと言われていたが、魔王城宰相であるライゼンさんに大好物だと教えてもらった。
 ナッツ系の物が好きなのだ。

 俺の稼ぎが全く必要のないほど収入のあるアゼルだが、穀潰しはよろしくないので、俺は中庭の専用厨房でお菓子屋さんをしている。

 それがこの数カ月ですっかり魔王城の人間に嫌悪感のない魔族達に親しまれてしまい、手売りで広大な城を周る俺の配達が全く追いつかない。

 なので顧客とのお喋りもそこそこに奔走する俺を見かねて、今はお菓子を無料にする代わりに、有志のカプバット達が運んでくれるようになった。

 一人でお菓子を作るだけでも半日近く使ってしまう為、どうしても配達が急ぎ足。

 慌てる俺に、マルオを筆頭にした彼らが手助けを申し出てくれたのだ。

 カプバットはあの通り空を飛べるので素早く、従魔である彼らは連携も取れている。

 きちんと配達先のみんなには配達が委託になってしまうことの許可を貰っているぞ。

 そんなに需要があるなら城下や城の中の食堂に卸せばいいんだとユリスは言っていたが、そこまでの人気ではないのでなんだか恐れ多いじゃないか。

 そんなわけで大量生産は慣れたもの。
 ふふふ、クッキーなら巨大オーブンで一度に二百枚は軽いぞ。

 この世界のオーブンはあっちの世界ほど高性能ではないので、あまり多くすると焼きムラができるのがネックだ。

 その場合は二度焼きして、クッキー達の位置を調整する。

 炎魔法使いの友人に頼めばもっと綺麗に焼けるので、火加減が大事なお菓子は彼にバイトをお願いしたりもするんだ。

 閑話休題。

 もぐもぐと美味しい朝食を食べつつ、回想する。

 すると俺の三倍の量をさっさと食べ終わったアゼルが、チラチラ様子を伺うようにチラ見し始めた。

 ふむ。
 こういう時は言いたいことがあるんだ。

 周りから鈍いやら天然やら謂れのない罵倒をうける俺だって、ツンデレのアゼルのことを少しはわかるようになったんだぞ。

「んぐ、どうした?」

 内心でドヤ顔をして尋ねる。
 今日も桃が美味しいな。

 声をかけられたアゼルはハッとしてテーブルに肘をつき、なんでもないような顔を取り繕った。

「しゃ、シャル。俺は今日、謁見が終わったら暇なんだけどよ……お前の仕事についていってやってもいいぜ!」
「おお、そうなのか」

 最後の一切れの桃を飲み下し、暇な時間を共に過ごしてくれるというアゼルの言葉が嬉しくて笑いながら頷く。

「それじゃあ一緒にくるみのキャラメルタルトを作ろう」
「!? 俺にもできるのか? あんな美味いもん作るの、スキルが必要なんじゃねぇのか?」
「ふふふ、大丈夫だ。俺だって趣味が講じただけの素人なんだぞ。俺がいた元の世界ではみんな美味しいものにこだわりを持っていたんだ」
「お前のいた世界はすげぇな……」

 アゼルは感心しきってほう、と息を吐いた。

 俺は密かに美味しいものと言われたことにニヤニヤを隠せない。

 アゼルに褒められるのが、一番嬉しい。



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