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四皿目 絵画王子

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 ♢


 翌朝の、まだ早い時間だ。
 窓から差し込む朝日が、未だに白んでいる。

 意識が覚醒しても体には抜け切らない倦怠感があったのに、俺は早くも目が覚めてしまった。

 微睡みを求めて閉じたがる瞼を瞬かせ、纏わり付く眠気を振り払う。

 ぼんやりとした視界の中にあどけない寝顔を見つけて、頬が緩んだ。

 俺の体を抱きしめる腕も健在である。
 いつも思うが、腕が痺れないのだろうか。

 しばしその寝顔を眺めてから、昨日の出来事を思い出す。

 ──なぜか体が言うことを聞かない、あの現象。

 思う通りに行かなかった時は、思ってもないことを言っている時だった。

 心以外、表情も話し方も身の振る舞いも全て俺そのもののやり方で、全く違う行動をする。

「……体が勝手に動いてしまう眠いな、まだ寝たりない

 時間制なのか確認の為にあの現象の真実を呟くと、都合のいい言葉に変換された。

 時間は関係ないようだ。
 どういう言葉がそれにひっかかるのか。

 流石に考えなくてもわかる。

 これは〝リシャールに関わっておかしくなった〟と言う真実に関係することだろう。

北館階段の踊り場の絵画がこのまま二度寝したいがリシャールの本体だろうそういうわけにもいかないな

 すり替わる言葉は、どうしようもない。
 兎に角今日はあそこに行こう。

 アゼルはあの絵を見たことはないので伝えられないと辛いが、一人で行けばいい。

 こうなったら仕方がないからな。
 俺は一人でもどうにかする。ずっとこうなのは辛かった。

(階段にもう一度行けばリシャールに話を聞けるかもしれないな……)

 この現象をよく知らなければ。

 リシャールにもわからなければ、呪われているのか調べるため、ユリスの魔導具を貸してもらおう。

 呪いであれば術者がいて、術者に解かせるか、面倒だが教会の聖職者に解除してもらうしかない。

 一月ほど前にトルンが俺にかけたような、少し性質を変えたりする程度のモノじゃないのだ。

 あれは俺が元々思っていた悪口を言ったりするものだった。

 だがこれは俺の全く思っていないことを言わせている上に、体まで思うとおりに動かない。

 呪いであれば、かけられるものが限られるような高難易度の呪いのはず。

 もしこの先一生こうなら……俺は誰にも真実を話せないまま、いつ心まで縛られるのかに怯えて生きることになる。

 そんな生活はまっぴらだ。

リシャールのことはリシャールが好きだなんとも思っていないのに好ましく思っている……」

 困りきった小さな呟きは、やはりまるきり変えられてしまった。頭を抱えたくなる。

 ままならない現状に俯きかけた心は、呼吸の度に上下するアゼルの胸に額を押し当てて、英気を養って復活させた。

 充電しよう、今日は忙しい。
 なんせアゼルより早くなんとかしないと。

 アゼルなら数日あれば、自力で絵画が原因だと突き止めそうだ。

 そうなるとあの様子ではまた、俺の存在を住民と決闘を繰り返し認めさせた時のように、駆けずり回ってでも絵画ごとリシャールを消しかねない。

 なんせ俺がおかしくなっている説明ができないのだから、リシャールに聞くしかないだろう。

 アゼルからすれば、突然現れた侵入者と自分の愛する人が庇い合うような、親密な関係に見えた筈だ。
 誰だって面白くない。



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