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四皿目 絵画王子
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翌朝の、まだ早い時間だ。
窓から差し込む朝日が、未だに白んでいる。
意識が覚醒しても体には抜け切らない倦怠感があったのに、俺は早くも目が覚めてしまった。
微睡みを求めて閉じたがる瞼を瞬かせ、纏わり付く眠気を振り払う。
ぼんやりとした視界の中にあどけない寝顔を見つけて、頬が緩んだ。
俺の体を抱きしめる腕も健在である。
いつも思うが、腕が痺れないのだろうか。
しばしその寝顔を眺めてから、昨日の出来事を思い出す。
──なぜか体が言うことを聞かない、あの現象。
思う通りに行かなかった時は、思ってもないことを言っている時だった。
心以外、表情も話し方も身の振る舞いも全て俺そのもののやり方で、全く違う行動をする。
「……体が勝手に動いてしまう」
時間制なのか確認の為にあの現象の真実を呟くと、都合のいい言葉に変換された。
時間は関係ないようだ。
どういう言葉がそれにひっかかるのか。
流石に考えなくてもわかる。
これは〝リシャールに関わっておかしくなった〟と言う真実に関係することだろう。
「北館階段の踊り場の絵画が、リシャールの本体だろう」
すり替わる言葉は、どうしようもない。
兎に角今日はあそこに行こう。
アゼルはあの絵を見たことはないので伝えられないと辛いが、一人で行けばいい。
こうなったら仕方がないからな。
俺は一人でもどうにかする。ずっとこうなのは辛かった。
(階段にもう一度行けばリシャールに話を聞けるかもしれないな……)
この現象をよく知らなければ。
リシャールにもわからなければ、呪われているのか調べるため、ユリスの魔導具を貸してもらおう。
呪いであれば術者がいて、術者に解かせるか、面倒だが教会の聖職者に解除してもらうしかない。
一月ほど前にトルンが俺にかけたような、少し性質を変えたりする程度のモノじゃないのだ。
あれは俺が元々思っていた悪口を言ったりするものだった。
だがこれは俺の全く思っていないことを言わせている上に、体まで思うとおりに動かない。
呪いであれば、かけられるものが限られるような高難易度の呪いのはず。
もしこの先一生こうなら……俺は誰にも真実を話せないまま、いつ心まで縛られるのかに怯えて生きることになる。
そんな生活はまっぴらだ。
「リシャールのことは、なんとも思っていないのに……」
困りきった小さな呟きは、やはりまるきり変えられてしまった。頭を抱えたくなる。
ままならない現状に俯きかけた心は、呼吸の度に上下するアゼルの胸に額を押し当てて、英気を養って復活させた。
充電しよう、今日は忙しい。
なんせアゼルより早くなんとかしないと。
アゼルなら数日あれば、自力で絵画が原因だと突き止めそうだ。
そうなるとあの様子ではまた、俺の存在を住民と決闘を繰り返し認めさせた時のように、駆けずり回ってでも絵画ごとリシャールを消しかねない。
なんせ俺がおかしくなっている説明ができないのだから、リシャールに聞くしかないだろう。
アゼルからすれば、突然現れた侵入者と自分の愛する人が庇い合うような、親密な関係に見えた筈だ。
誰だって面白くない。
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