306 / 902
五皿目 元・勇者VS現・勇者
13
しおりを挟むさて、二人の紹介の後だと地味極まりないが、俺は魔法陣に関しては自信がある。
「物理反射。不可視」
手の中でいくつも作ったのは、物理攻撃を反射する直径二十センチ程の小さな魔法陣。
そこに目に見えなくなる不可視の魔法陣を、ピタリと同じサイズで重ねがけした。
これで見えない物理反射の魔法陣の完成である。
魔力の匂いがわかる魔族でないと、わからないだろう。
似たものである見えない罠の魔法陣は踏んだら見えるし、攻撃がかかっている。
こちらは踏んでも見えないし、俺も無傷だ。
となれば、おわかりだろう?
「──うぅあぁあ、もう焦れってぇなァ……ッ! 性分じゃねえンだよ持久戦とかッ! シャルッ! 打つ手がねェなら降参しろッ! 打ち合いてぇなら魔法解いてやるぜッ!?」
──この言葉が叫ばれた瞬間が、トドメの合図だった。
ドカァンッ! と聖剣を振り下ろして地面に亀裂を作る短気なヤンキー勇者が、攻略法がなくて黙ってるだけなら終わらせろと叫ぶ。
リューオの叫びが上がると同時に俺は走り出し、炎の包囲に這わせるように、魔法陣を階段状に空へ飛ばした。
足音すらたてないが、念の為。
お前の声に合わせて動く。
そうすればリューオが言葉を言い終わる頃には、俺は魔法陣を駆け上がり、リューオの真上に飛び上がった。
物理反射が俺が蹴り上げる力をまるごと跳ね返し、跳躍は螺旋の炎の壁を超える程、高みへ押し上げる。
人間は空を飛べないが、駈けることはできるのだ。俺はよくこうして駆けていた。
目指すべきリューオを守る炎の壁の唯一の穴は、真上。
人間が辿り着くには些か高すぎる侵入口だが、魔法陣の力で俺は見事、空白に身を投げられる。
リューオが「打ち合いてぇなら魔法を解いてやるぜッ!?」と言った時、俺は既に、リューオの真上にいた。
(加速)
声に魔力を乗せるより威力が小さくなるが、内心で詠唱し、ダメ押しで加速の魔法陣をかける。
剣を真下に構え、突き刺すように落下する動きに対して、加速までかけるとその速度は秒もかからない。
俺が走り出してからここに到達するまででも、十秒とかかっていない。
両足に身体強化を集中させて、骨が砕け散らないように補強する。
落下地点はだいたい、リューオの振り下ろした聖剣の真横だ。
「男らしくかかって──」
ヒュッ、と風を切る音の直後、ドスッ! と地面に俺の剣が突き刺さり、隠密スキルを解く。
「──来たぞ」
返事をしながら茶目っ気たっぷりに笑いかけた時の、リューオの表情たるや。
突き刺すわけもないのでリューオの足の間に剣を刺したんだが、その気があれば串刺し勇者の出来上がりだ。
地面から剣を引き抜き、ふぅ、と息を吐く。
では、ここでさっきの話の続きをしよう。
一人で敵に向かうのならば、な?
「男らしいだろう?」
俺は恐らく暗殺や奇襲、一対一なら──三人の中で、一番上手いと自負してみたりするのである。
ちゃんとカッコつけられただろうか。
アゼルがかっこいいと褒めてくれるといいな。
応援ありがとうございます!
11
お気に入りに追加
2,585
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる