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五皿目 元・勇者VS現・勇者

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 さて、二人の紹介の後だと地味極まりないが、俺は魔法陣に関しては自信がある。

「物理反射。不可視」

 手の中でいくつも作ったのは、物理攻撃を反射する直径二十センチ程の小さな魔法陣。

 そこに目に見えなくなる不可視の魔法陣を、ピタリと同じサイズで重ねがけした。

 これで見えない物理反射の魔法陣の完成である。
 魔力の匂いがわかる魔族でないと、わからないだろう。

 似たものである見えない罠の魔法陣は踏んだら見えるし、攻撃がかかっている。

 こちらは踏んでも見えないし、俺も無傷だ。

 となれば、おわかりだろう?

「──うぅあぁあ、もう焦れってぇなァ……ッ! 性分じゃねえンだよ持久戦とかッ! シャルッ! 打つ手がねェなら降参しろッ! 打ち合いてぇなら魔法解いてやるぜッ!?」 

 ──この言葉が叫ばれた瞬間が、トドメの合図だった。

 ドカァンッ! と聖剣を振り下ろして地面に亀裂を作る短気なヤンキー勇者が、攻略法がなくて黙ってるだけなら終わらせろと叫ぶ。

 リューオの叫びが上がると同時に俺は走り出し、炎の包囲に這わせるように、魔法陣を階段状に空へ飛ばした。

 足音すらたてないが、念の為。
 お前の声に合わせて動く。

 そうすればリューオが言葉を言い終わる頃には、俺は魔法陣を駆け上がり、リューオの真上に飛び上がった。

 物理反射が俺が蹴り上げる力をまるごと跳ね返し、跳躍は螺旋の炎の壁を超える程、高みへ押し上げる。

 人間は空を飛べないが、駈けることはできるのだ。俺はよくこうして駆けていた。

 目指すべきリューオを守る炎の壁の唯一の穴は、真上。

 人間が辿り着くには些か高すぎる侵入口だが、魔法陣の力で俺は見事、空白に身を投げられる。

 リューオが「打ち合いてぇなら魔法を解いてやるぜッ!?」と言った時、俺は既に、リューオの真上にいた。

(加速)

 声に魔力を乗せるより威力が小さくなるが、内心で詠唱し、ダメ押しで加速の魔法陣をかける。

 剣を真下に構え、突き刺すように落下する動きに対して、加速までかけるとその速度は秒もかからない。

 俺が走り出してからここに到達するまででも、十秒とかかっていない。

 両足に身体強化を集中させて、骨が砕け散らないように補強する。

 落下地点はだいたい、リューオの振り下ろした聖剣の真横だ。

「男らしくかかって──」

 ヒュッ、と風を切る音の直後、ドスッ! と地面に俺の剣が突き刺さり、隠密スキルを解く。

「──来たぞ」

 返事をしながら茶目っ気たっぷりに笑いかけた時の、リューオの表情たるや。

 突き刺すわけもないのでリューオの足の間に剣を刺したんだが、その気があれば串刺し勇者の出来上がりだ。

 地面から剣を引き抜き、ふぅ、と息を吐く。

 では、ここでさっきの話の続きをしよう。

 一人で敵に向かうのならば、な?


「男らしいだろう?」


 俺は恐らく暗殺や奇襲、一対一なら──三人の中で、一番上手いと自負してみたりするのである。

 ちゃんとカッコつけられただろうか。
 アゼルがかっこいいと褒めてくれるといいな。



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