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七皿目 ストーキング・デート

18(sideアゼル)

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 俺が場内を跳ねながら一周する頃には、魔法陣は全てなくなり、代わりに闇そのものと化した霧が、会場の上部を埋め尽くしていた。

 それはまるで、夜の闇だ。
 星をも呑み込んだ、吸い込まれそうな濃厚な闇。

 そこへ連れ歩いていた闇の結晶を全て散らし、同時に唱えた。

(砕刃、砕けろ)

 ──パキィンッ、と高音が弾け、スターダストが降り注ぐ。

 俺の足跡の照明魔法を吸収して光をまとっていた結晶が、細かい粒子のように弾けたのだ。

 それらが濃霧に浮かぶ姿は、孤独な夜闇を賑やかに輝かせる、満天の星空。

(魔光)

 最後にシャルとのデートが嬉しすぎた時以来使っていなかった解毒特化魔法──魔光を放つ。

 すると舞台上の俺からヒュッと天を衝く光の柱が、濃霧の星空を割った。

 照明を纏う結晶とはまた違う輝きが、千切れた星空の後を追うように降り注ぐ。

 架橋に差し掛かっていたクラシックな音楽が、いい具合に終わった。

 俺は舞台から恭しく、頭を下げて見せる。

 短い演目の終演を告げた、途端──ドッと会場が湧いた。

(よし、これぞシュミレーション通りの拍手喝采……!)

 口々に賞賛の声が上がる会場から愛しのシャルを見つけ出して、期待に満ちた目を向ける。

 シャルはニコニコと嬉しげに微笑みながら、小さな動きで、されど一生懸命に拍手を送っていた。

 か、かわいい──!

 持病の発作を起こしかけた俺だが、胸の高鳴りに合わせて尻尾をブンブンと高速で振る。

(グルル、ノルマクリアだぜ……っ! ま、まぁ初めての奇術魔法にしては、上出来だったんじゃねぇか? クックック、奇術だろうが魔王にかかればシャルの拍手を貰える程度の実力が発揮できるってもんだ! ふふん、ふふふん)

『こ、これは素晴らしい! 人型をとれない低位の魔物とは思えない魔法の技術です! 魔法陣と魔法、それも同時使用なんて、マオさんは特異種でしょうか!?』
『フッ、馬鹿め。俺はただのマオだ』

 機嫌がいい俺は尻尾をフリフリと揺らしつつ、司会の質問には全て答えてやった。

 嘘は吐いてない。特異種じゃなくて、俺はノーマルなクドラキオン魔族だ。

 普段はちょっと魔王とかやってるだけでな。おおむね平凡な男だろ?

 本当のことはナイショだが、こんなに褒められると気分が良かった。

 普段は魔王ならばなんでもできて当たり前、という認識をされていて、事実俺は大抵のことは理解できればこなせる。

 凄いな、と日常的に褒めてくれるのは、いつだってシャルだった。

 俺が他よりできるだとか、今まで当たり前だったことだとか、そんなことは関係なく。

 シャルはなんだって「アゼル、凄い。俺にはできない。かっこいいな」とシミ一つない心で褒めてくれる。

 褒められるってのは、気分がイイ。

 シャルが嬉しげに見つめてくるのも、たいへんに気分がイイ。

 つまり俺はすごく気分がイイので、すごく浮かれて脇の締めが甘くなっていた。

『マオさん! ではこの次の公演にも出ていただけるということで、よろしいですね!?』
『まぁ、どうしてもと言うなら構わねぇよ。仕方ねぇから、出てやる』
『おおっとハイレベルな演者さんの連続出演が決定! ありがとう御座います~ッ! それでは次の部まで控室でお待ちください!』

 相変わらず大仰な司会の言葉に、内心で得意げになる。

 ウキウキとした足取りで舞台袖に引っ込み、控え室へ進んだ。

(フッフッフ、まさかこの次の部まで出てくれなんて言われるとは……。魔法ができるのが当然じゃねぇのは、新鮮だな……! 今まで無駄に鍛え上げてきた魔法技術が、役に立つ時代が来たぜ)

 そんな浮かれワンコな俺は、連続出演の弊害を、すっかり失念していた。

 今の部を見終わったシャルたちは、当然館を出るというのに──追いかけられるわけがないのだ。



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