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九皿目 エゴイズム幸福論
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しおりを挟むうん、たぶん俺は弱っているんだろうな。
このままは嫌なので目的に向かって走ってはいるものの、ふとした時に不安が芽生えている。
それでもいいことはあったぞ?
アゼルがな、食事はまだ警戒して緊張するからだめだが、眠る前のティータイムは一杯分付き合ってくれるようになったんだ。
相変わらず素っ気なくてベッドも端だが、お茶のおかげで身体があたたまるから全然眠れる。
はじめよりずっとよくなっているんだ。
「…………お茶会なんて、お前は魔王様と毎日していたでしょ。よくなってないよ、なんの錯覚を誇ってるワケ? お前のいるところに追いつくまで、何年かかるんだよバカシャル」
「大丈夫、俺は頑固で諦めが悪いからな。何年でも頑張るさ」
「それでイイ友人にでもなれたらって? お前は愛してるのに? ……他人より友人のほうが残酷だよ、だって魔王様は親しくなった人をちゃんと大事にする方だから。拒絶された数が多すぎて、気遣いを隠してしまうだけ」
「ちゃんとわかってるとも。本当に優しい、不器用な人。心を開いたら裏切られると思う、呪いにかかっている」
「そう。だからだよ。……不器用な魔王様が向ける親愛を、お前は壊せない」
「……んん……、あはは……今日はとても、俺を叱るな。ユリス」
「……、僕は自分のこと、叱ってんの……わかっているくせに、なにもできないから」
俺のあんまり誰かに指摘されたくないことをわかった上で突くユリスに、困り顔になる。
ユリスは本当に小さな声でなにか呟いて、そっと目を伏せた。
勝ち気で自信家なユリスには珍しい。
俺は体調が悪いのかと思ってそれならば休むよう伝えると、お前にだけは言われたくないし大丈夫だから、と言われた。今日は手厳しい。
ユリスはサンドイッチを全部食べて、静かにカップに口をつけた。
俺の手元にはまだあと半分のサンドイッチがある。
「愛する人に忘れられることは一瞬だって胸が抉られる。魔王様が忘れたままの限り、お前は毎日抉られているんだよ。いい加減慣れたでしょ、なんて愚か者のようなこと僕らは思わないんだからね?」
「……そうだな、本当に慣れないぞ。俺ははやく記憶が戻ればいいなと思う。ふふふ、そうでないといつか、負けるとわかっていても天界へ乗り込んで、記憶を返してくれと土下座してしまいそうだ」
「やめて、シャレにならないよ。それ僕もバカ勇者もついて行くから」
「くくく、じゃあはやく思い出してもらわないと」
俺は呆れたユリスに笑みをもらして、またちまちまとサンドイッチを齧る。
そうすると斑ネズミのようだと笑われた。やっぱり俺はハムスターなのか。
そう、昨日知ったことだったか。
あのな、聖導具で奪われた記憶が消されずに保管されているなら、望みがあるらしいんだ。
アゼルが強く記憶を望んで、なにかきっかけに触れれば、もしかしたらこっち側に引っ張り込めるかもしれない、と。
あくまで噂というか、そういうことがまったくないと言いきれないだけなんだがな。
でももしその可能性があるなら、俺が早まってカチコミに行く前に引っ張り込みたい。そこは頑張りどころと言うわけだ。
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