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十一皿目 魔界立ディードル魔法学園

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 ──そんな馬車の中に、気の抜けた声と、淡々とした冷たい声が聞こえた。


「シャルぅ~おけえり。ちゃァんとセンセーできたかァ?」

「空軍長様、その前にあれの始末を付けてもらいましょう」


 俺は小窓からひょっこりと顔を出し、ちょうどさっきまで話の中に出てきていた声の主二人に、ひらひらと手を振る。

「ガド、ゼオ。ただいまだ」

 そこにいたのは案の定──竜人スタイルに翼を生やしたガドと、コウモリの翼をはためかせるゼオだった。

 二人は対照的な声なのでよくわかる。

 なんにせよタイミングよく、キャットの憧れの上官とアイドルの副官がそろい踏みしてしまった。

 顔を出した俺の頭をわしゃわしゃご機嫌になでるガドだが、ゼオは親指をくいっと動かして魔王城上空を指す。

 話によると、地上では陸軍がお祭り騒ぎらしい。

 空軍だけじゃなかったのか……。
 軍魔はどうしてみんなこうもお調子者たちが多いのだろう。

「あんたの魔王様でしょう? なんとかしてください。かれこれ四時間、魔王様は上空で宰相様をバカ呼ばわりしてダダをこねています。それにバカ真面目に付き合っている宰相様共々、今日の執務が終わっていません」
「んっ!? う、嘘だろう? アゼルはああ見えて真面目だぞ? なにをダダをこねているんだ。まさか知らない間に、また魔王業に嫌気がさしてしまったのか?」
「違うぜ? 魔王はお前が帰ってくるのが待ちきれなくて、執務をディードルが見える高度の空の上で片付けようとしたんだけどなァ。そんなことしたら民がまた魔王がブチギレてんのかって怯えるからやめろって、ライゼンが止めてんだ」
「そういうことです。止めても止めても諦めないから、その内戦闘になりまして。早番の軍魔が仕事を終えて城に帰ってきたところ、見ての通りお祭り騒ぎに」
「ああ、なるほど。魔王業がいやになって暴れていたわけじゃないんだな、よかった」
「よくないですね」

 ホッと一安心して微笑むと、ゼオがすぱっと切り捨てた。そうか、だめか。

 ゼオは少し自分の部下を凍らせて帰るように言ったらしいが、陸軍長官の鶴の一声。

 意気揚々と「いいじゃんいいじゃん! みんなもう仕事終わるし遊ぼ~っ!」と悪乗りして許可した挙句、城下街にスキップしていったらしい。
 おかげで収拾がつかないそうだ。

 もう片方の長官であるガドはといえば、これも呑気なもの。

 ケタケタ笑い「シャルが帰ってくるまでだろうしいいんじゃねェの~」と、自分だけひっそり俺の帰ってくる方向の上空に待機し始めたのだとか。

 ゼオはそれで、やむなくついてきたと。

 ──ということは、ガドはしれっとアゼルを差し置いて、一番に漁夫の利をさらいに来たのか。

 しっかり誰よりも早く迎えることに成功した上、俺の頭を思う存分なでているので、抜け目のない銀竜さんである。

「ふーむ……」

 ゼオの話を聞くに、だな。

 俺はあの戦いを気にせず突っ込んで、アゼルにいつも通りただいまのハグをすればいいだけみたいだ。

 しかし戦いの覇気にやられて、馬車を引くグリフォールたちは完全に停止中。
 これではまず城にたどり着けないぞ。

 あと、ガドはいつまで俺の頭をなでているんだろうか。

 耳の後ろや顎の下も指先で掠められるが、俺は猫ではないので喉は鳴らさないんだがな。

「シャァル、にゃーはァ?」
「んん……、俺は人間にゃんだぞ……」
「ククククッ!」



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