上 下
718 / 902
閑話 ガドと愉快な仲間たち

26(NOside)

しおりを挟む


 魔界の地に染み渡る闇魔力と頗る相性のいいアゼルは、怒りで沸騰した魔力を押さえ込むのに、いつも非常に苦労する。

 押さえなければ、近くが揺れてしまう。
 小規模な地震の震源地。

 だから必死に取り繕っているので表情が固くなり、なくなるのだ。

 現在進行形である。

「あー……モテねぇからって野郎に、いいこと思いついたぜ。こんだけいるんだ。もうお前ら同士でくっつけばいいだろォ?」
「脳みそにカビ生えてんのかトンチキが! リンドブルムの雄はガタイがいいんだよッ! 俺らは幼年趣味だッ!」

 敏感なガドが膨れっ面のアゼルを察して適当な話題を振り、気付かれる可能性を磨り潰してくれた。

 相手は非常にご立腹だが、ガドは構わない。

 ロリコンでもショタコンでも、他人の性癖は気に留めないのがガドだ。

 兎にも角にもそれ程機嫌がよろしくないアゼルだが、仕事はしている。

 ジワジワとリンドブルムたちに影縛りの魔法をかけ続け、かつ膨れているのだ。

 魔法の使用は呼吸と同じ。
 魔王というのはそういう生き物である。

 逆に魔王でなければその役割は本来、とんでもなく魔力も技術も集中力も必要なものなのだが──問題なし。

 常識のレベル。
 このぐらい当然の当然ライン。

 それを一人で無茶苦茶に狂わせる男なのに、愉快なパーティーは仲間に対する許容範囲がだだっ広い。

 なのでお互いの異常には、全く気が付かなかった。

 アゼルに慣れているガドは本人も天才肌なので、なんとも思わない。

 チートオチに慣れて麻痺しているシャルだって、確認の意味で「できるか?」と尋ねたのだ。

 慣れというのは怖い。
 一番自分に慣れているアゼル当人も、これはできて当然の役割だった。

 この三人はそういうパーティーである。
 正しく愉快だ。

 愉快なパーティーの一人であるシャルは、到着してすぐ、姿を消したままガドの背から飛び降りた。

 そしてリンドブルムたちに気づかれることなく進み、娘の囚われた檻に辿り着く。

 アゼルが動きを封じたリンドブルムを選んで外側から近づけば、容易かった。

 影縛りは術者以上の魔力がなければ破れない魔法。
 アゼルならば、実質一度かかれば行動不能だ。

 だとしてもシャルの動きは人間だということを考えれば、異常に素早かった。

 無駄もなく、スキルの行使に淀みもない。

 普通、魔力は魔族より少ないのが人間だ。

 部分的な身体強化など、魔法陣スキルで鍛え上げられたシャルは、魔力の効率的な使い方がすこぶるうまかった。

 省エネタイプ。
 戦闘に優しいエコロジーなシャルである。

 湯水のごとく魔力を使うアゼルや、魔法を使わなくてもフィジカルお化けなガドより、効率に関しては優っているかもしれない。

 他の種族に比べて器用な、人間ならではだろう。

 もちろん魔族と正面からのタイマンで勝てるリューオは除外だ。
 彼は公認で人間詐欺である。

 シャルは犇めくリンドブルムたちに触れられることもなく、魔法にかかっていない者にも気付かれずに、そっと檻の前でしゃがみこんだ。

 するとこちらに気がついたタローが目を見開いたので、唇に指を立てる。



しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完結】幼馴染みが勇者になり何故か俺は勇者の番になりました

BL / 完結 24h.ポイント:113pt お気に入り:2,086

イケメン男子高校生が教師達の性奴隷になる話

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:15

【完結】好きになったので

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:185

尽くすことに疲れた結果

BL / 完結 24h.ポイント:298pt お気に入り:3,015

アングレカム

BL / 連載中 24h.ポイント:78pt お気に入り:937

処理中です...