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閑話 ガドと愉快な仲間たち
26(NOside)
しおりを挟む魔界の地に染み渡る闇魔力と頗る相性のいいアゼルは、怒りで沸騰した魔力を押さえ込むのに、いつも非常に苦労する。
押さえなければ、近くが揺れてしまう。
小規模な地震の震源地。
だから必死に取り繕っているので表情が固くなり、なくなるのだ。
現在進行形である。
「あー……モテねぇからって野郎に、いいこと思いついたぜ。こんだけいるんだ。もうお前ら同士でくっつけばいいだろォ?」
「脳みそにカビ生えてんのかトンチキが! リンドブルムの雄はガタイがいいんだよッ! 俺らは幼年趣味だッ!」
敏感なガドが膨れっ面のアゼルを察して適当な話題を振り、気付かれる可能性を磨り潰してくれた。
相手は非常にご立腹だが、ガドは構わない。
ロリコンでもショタコンでも、他人の性癖は気に留めないのがガドだ。
兎にも角にもそれ程機嫌がよろしくないアゼルだが、仕事はしている。
ジワジワとリンドブルムたちに影縛りの魔法をかけ続け、かつ膨れているのだ。
魔法の使用は呼吸と同じ。
魔王というのはそういう生き物である。
逆に魔王でなければその役割は本来、とんでもなく魔力も技術も集中力も必要なものなのだが──問題なし。
常識のレベル。
このぐらい当然の当然ライン。
それを一人で無茶苦茶に狂わせる男なのに、愉快なパーティーは仲間に対する許容範囲がだだっ広い。
なのでお互いの異常には、全く気が付かなかった。
アゼルに慣れているガドは本人も天才肌なので、なんとも思わない。
チートオチに慣れて麻痺しているシャルだって、確認の意味で「できるか?」と尋ねたのだ。
慣れというのは怖い。
一番自分に慣れているアゼル当人も、これはできて当然の役割だった。
この三人はそういうパーティーである。
正しく愉快だ。
愉快なパーティーの一人であるシャルは、到着してすぐ、姿を消したままガドの背から飛び降りた。
そしてリンドブルムたちに気づかれることなく進み、娘の囚われた檻に辿り着く。
アゼルが動きを封じたリンドブルムを選んで外側から近づけば、容易かった。
影縛りは術者以上の魔力がなければ破れない魔法。
アゼルならば、実質一度かかれば行動不能だ。
だとしてもシャルの動きは人間だということを考えれば、異常に素早かった。
無駄もなく、スキルの行使に淀みもない。
普通、魔力は魔族より少ないのが人間だ。
部分的な身体強化など、魔法陣スキルで鍛え上げられたシャルは、魔力の効率的な使い方がすこぶるうまかった。
省エネタイプ。
戦闘に優しいエコロジーなシャルである。
湯水のごとく魔力を使うアゼルや、魔法を使わなくてもフィジカルお化けなガドより、効率に関しては優っているかもしれない。
他の種族に比べて器用な、人間ならではだろう。
もちろん魔族と正面からのタイマンで勝てるリューオは除外だ。
彼は公認で人間詐欺である。
シャルは犇めくリンドブルムたちに触れられることもなく、魔法にかかっていない者にも気付かれずに、そっと檻の前でしゃがみこんだ。
するとこちらに気がついたタローが目を見開いたので、唇に指を立てる。
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