誰かこの暴君を殴ってくれ!

木樫

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第五.五話 ツンギレチョロインとあれやそれ

05



 お、おぉ……。
 なんだよ、珍しくしょげるじゃねぇか。

 そんなに俺に好きだって言われたのが、嬉しかったってことか? あの三初が、じっと俺を見つめて、強請ってくるなんて。天変地異に近しいレア度だ。

 ……。気分的にはまぁ、悪くねぇよな。うん。


「あ、あー……まぁ誰にも見せないなら、お前が持ってるぶんには問題ねぇの、かも?」

「ないない全く。俺はね、先輩のだから欲しいんです。別にのちのち本人に見せてプレイに使おうとかまた今日みたいにこじれたら言質見せて逃げ場なくそうとかそんなことは考えてないし、先輩以外の動画なら要らないんで、絶対欲しいんですよ」

「はっ、俺のだからとか、意味わかんねぇ」

「俺が撮りたいのも所持したいのも先輩だけ。先輩だ、け。ってこと」


 つらつらとよくもそんなにってくらい糖度の高いセリフで畳み掛けられ、だんだん顔に熱が集まってきた。

 俺だけらしい。
 別に、かわいいとこもあるじゃねぇか、なんて絆されてなんかねぇかンな?

 大人の、年上の男の余裕である。
 間違いなく。

 心の広い俺はスマホを奪おうと伸ばしていた手をスルスルと引っ込めて、ムスッと不本意な表情は保ちつつ、渋々を装う。
 まだ納得したわけじゃねぇんだよ。ちょびっと怒りが収まっただけだ。ちょびっと。


「ケッ。……そゆこと言うなよ、クソ。アホ、バカが。ワガママすぎるぜ」

「愛情ですよ、愛情。父親が子どものビデオ撮ったりする感じ。あれは変態? 違いますよね? 愛情故の記録じゃないですか」

「そりゃそうだけど、撮らなくてもいいだろ。別に、もう持ってるぶんにはいいとしてもよ」

「いやいや、撮らないわけないんですって。あれは俺以外には見せない先輩なんで」

「あ?」


 とはいえだいぶ傾き始めている俺に、この悪の化身は、絶妙なタイミングでポン、とダメ押すわけで。


「あんたの全部は俺だけのもの。だから、撮ってもいいでしょ? ……ね?」


 そんな言い方されたら頭が沸騰し、悪魔の顔なんか見ていられなくて早く話を切り上げようとツンケンするのが、この俺だということで。


「し、仕方ねぇな……勝手にしてろ」

「チョロ、じゃないすげー嬉しいです」

「んっ」


 コックリと頷く俺の顎を掴んでいた手がそのまま引き寄せ、手馴れた仕草でチュ、と唇を奪う。

 ポカンとするうち三初はあっさり俺から離れて、にんまり笑ってスマホを弄りながらキッチンへ歩いていった。

 コイツ、あんだけ絡んだ挙句サクッと放っていくのかよ!

 手のひら返していつも通りの気まぐれ暴君に戻る三初の態度が癪に触り、俺はソファーの背もたれ越しに唸る。

 構ってほしいわけじゃねぇけど、もうちょい丁寧に扱えコノヤロウ。
 そして腹が減ったぞバカヤロウ。これはちっとも八つ当たりではない。


「テメェ、いちいちキスすんなコラ……っ!」

「いやー先輩は結構少女漫画向いてると思いますけどね」

「はァ?」


 思いっきり訝しく表情を歪めて睨みつけるが、三初はそれ以上なにも言わずに、スマホを触りながらキッチンへ消えていった。


 12/25 11:13

『今日休み? なんで?』

『クリスマスデート』

『は!? いつの間に彼女!? なんで要ばっかりモテんの!? 俺は!? 合コンの餌に呼ばれたら俺も誘う約束じゃん!』

『合コン行ってないしね』

『じゃー普通に出会って好きになられたのかよ!? それ顔だけだかんな! 絶対彼女要の性格悪いこと気づいてないですし! 速攻別れるに一票ですし!』

『真』

『ごめんなさい』

 12/25 13:46

『なー彼女どんな子?』

『チョロイン』

『は?』

『あと合法的にハメ撮りの許可ももぎ取ったから最悪それ使ってでも断固別れない。言質も無音開始でボイスレコード』

『は!? 逃げ場のなくし方ガチじゃん! うーわー要のガチとか珍しいー。そんな裏固めるってことは本命よな?』

『さぁね』

『本命じゃん。なー今日飲もうぜ。めっちゃ気になる。好きな子ほど徹底的に虐め抜く性悪と付き合える人とか奇特な物好きちゃんの話聞きたい。全部教えろよー!』


「んー……秘密、と」

「三初ぇ~……腹減った……コンビニ行こうぜ。ついでにパンツも」

「御割犬、マテ。コンビニなんか行ったらスウィーツ買い漁るでしょうが糖尿予備軍。適当に作るんで大人しくしててください」

「言いたいことは多々あるが、俺は犬じゃねぇっつってんだろうが。テメェ眼球腐ってんだろ」

「脳みそ腐ってる人よりマシですよ」

「その喧嘩買ったッ! ヘドロ野郎め!」


 第五.五話 了




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