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第六話 狂犬と暴君のいる素敵な職場です
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思わず無言でツンツンとつつくと、三初は「あー。わかりましたよ。じゃ、指貸して」と言い、俺の指を抱き抱え、枕にして寝転がる。
……やっぱかわいいかもしんねぇ。
あくまで本能的なものだぜ? 人間誰しも、小さいものをかわいく感じるものである。
いつもの仏頂面のまま、ウリウリと指で三初の腹辺りを弄る。
猫のようにゴロゴロと擦りつく三初。顎の下を指先でなぞると、更に丸くなってゴロ寝を極め始めた。
そんなポーズのままに上目遣いで俺を見上げ、ニマ、と笑う。
「先輩、俺……チョコレート欲しいなー」
「あぁ? やるって言ってんだろ。勝手に受け取れ。どんなやつが欲しいんだ?」
「チョロさ増し増しかぁ。小さいのもたまにはイイね」
「は?」
脈絡のない感想を言われ、怪訝な声が出た。チビスケのくせに俺をチョロ扱いなんて、怖いもの知らずだなコノヤロウ。
小粒な三初を握り潰そうとすればきっと俺はできるだろうに、本当に一切それらしく振る舞わない男だ。
ティーポットを傾けてカップにそそぐと、紅茶ではなくココアが出た。なんでもありか。悪くはないし嬉しいので、ココアを一口飲む。
それでええと、なんだ。
そうだ、バレンタインだな。せっかくだから本人の希望を聞いておこう。
あげたあとに文句を言われるのは、ムカつく。そしてアイツは言いかねない。
「要らない物はそもそもつっ返すので、受け取った物に文句は言いませんよ? 感想は言いますけど」
「その感想がいちいち人をコケにしてるンだろうが極悪サディスト」
俺の指先に含み笑いを浮かべてキスをしながらそう言う三初を、ツンとつつく。
執事服なのにちっとも奉仕しやがらねぇな。
「とりあえずさっさとどんなやつがイイか言えよ。ゴデバか? ゴデバ渡しときゃ問題ねぇってネットには書いてあった」
「浅はかな結論だなぁ。自分で買えるものを貰ったって嬉しかないでしょ? 俺、割と金に困ってはないんで」
「……テメェ、犯罪には手ェ出してないだろうなコラ」
小馬鹿にしながらそう言われ、冷や汗の出る俺はいくぶん低い声で威嚇した。
一見スラリと細身な三初を見くびって、喧嘩を売ってきた若者がいる。
肩が当たったからと絡んできた迷惑なやつ。
それらをにこやかに地面と仲良くさせているという、社会人にあるまじき手の速さを誇るのが三初だ。いい子ではない。
が、大金稼ぐような悪事に手を染めるとなると話は別である。
バカを打ちのめす悪事と人様に迷惑をかける悪事は、全然違うのだ。
「よくわかんねぇけど詐欺やら違法取引やらに手ェ出してたら、躊躇なく警察にぶち込んでやるかんな? 情けはねェ」
「ふ、守ってくれてもいいのに。まー悪いことはしてませんよ。弱味は要らない」
三初ならやりかねない! と少し焦った俺だが、本人が否定したのでホッと一息。
ったくヒヤヒヤさせんなよ。
豚箱にでも突っ込まれた三初をぶん殴るために出所待ちなんて、シャレになんねぇぜ。
「あはっ。先輩、俺が捕まったら待っててくれるんだ?」
「っンなわけねぇわ!」
しかしチビスケが機嫌よく嫌なところを指摘したので、頬を赤らめて全力で否定した。そういうところばっかり見抜くな。
「しゅ、出所したテメェをぶん殴ったあと中指立てて別れてやるっつってんだよッ!」
「わぁお。寂しいな。でも俺がいないと先輩は物足りないと思うけどね。中が疼いて自分から会いに来ますよ」
「なぁその確信的な自信はどこから湧いてくんだ? 謙遜という言葉を学ばずに学校出てきたのかよ。今すぐ頭に叩き込むことをオススメしてやる。そして礼儀ってもんを骨の髄に直で彫っとけ年中御無礼野郎ッ!」
──こうしてガオガオとやり合っているうちに夜が明け、現世へ。
目を覚ました俺は朝日に照らされながら「なんだこれ」と酷い顔で呟いた。
なんの収穫も得られなかったじゃねぇか無駄夢めッ!
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