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第七話 先輩マゾと後輩サドの尽力
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しおりを挟むメッセージを受信した気配を感じ、会話を中断する。
けれど誰だかわからないが確認しようとスマホに視線を移した時──ガチャ、とバーのドアが開き、チリンチリンとドアベルが鳴った。
「あ」
……聞き覚えのある声だ。
スマホを見ようとした視線がそちらに持って行かれてしまい、嫌な予感がしつつも来客に顔を向ける。
向けて、すぐに逸らしたくなった。
「…………」
「あらら。奇遇ですね、御割さん」
そこにいたのが、人様の恋愛事情をおもしろおかしく引っ掻き回す天才こと三初の幼なじみ兼上司──間森ゲスマネージャーだったからだ。
ちくしょうめ。
なんでまたしてもこういう時に現れやがるんだ、呪われてンのか……ッ!
俺は間森マネージャーを視界に捉えた途端、それはもうこっちへ来るなという拒絶を万雷に込めた凄まじい表情をしていただろう。
そのくらいの敵意だ。
本気で俺と相性が悪い存在だからな。
しかし間森マネージャーは間森マネージャーなので、俺の威嚇なんで屁でもない。
馴染みの客らしい奴らに片手を上げて微笑みながら、当然のように俺の隣に座ってナーコに酒を注文した。
いやアンタ数ヶ月前まで関西本部勤務だっただろ。馴染むほど通ってんのかよネオンピンクのゲイバーによ!
「おい、なんで隣に座るンですか」
「うふふ。御割さんって顔に不本意ですって書きながら私に渋々敬語使いますよね、ギリギリアウトの言葉遣いで。私上司なんですけど。ブレないなぁ……つい押し倒したくなっちゃいますねぇ……」
「うるせェですよ。ご不満ならプライベートなんで敬語やめていいですか。あと殴っていいですか」
「いやだな、御割さんのようなガタイのいい方に殴られるとか弱い私困っちゃいますよ。拒否で」
語尾にハートでもつきそうなトーンで拒否され、殺意が沸いた。
沸点が低いというのもあるが、普通にこの人が好かないのである。
三初が恋愛的に好きで狙うってわけじゃねぇから嫌いまでじゃねぇけど、行動がうっとおしい。
いちいち俺をからかうために三初に絡んだり、三初に構ってもらうために俺に絡んだり。
このお綺麗な笑顔で「あら。今から昼休憩なんですね。ついでに一発イキませんか?」と親指をクイッ、とトイレに向けるようなオープンゲイだ。
いや、オープン変態だ。
マジでやめろ。
「やっだぁ。キレイちゃんとシュウちゃんってお友達だったの?」
「ンなわけねぇだろ。こんなもん、ただの猥褻上司だわ」
マネージャーの前にコトンとグラスを置いたナーコへ、即座に否定の言葉を返す。
「つれない子ですねぇ。そうそう、そういうところがますますヒットする系上司なんですよ、私」
「あぁッ? 今すぐ消えてほしいです」
ニコニコと美人スマイルでいらない説明を付け足すマネージャーへは低音で唸り、しっしと手を振った。
こいつにどう思われようがどうでもいいので、職場でないなら塩対応はもちろん極まる。できれば無視したい。
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