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第2章 -少女期 復讐の決意-

74.キース達の旅立ち

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 ルーカス王子と大変実のある話をした日、早々に王子はバジル領を去って行った。
 何でもバジル領へ行く条件に、国王から隣国への公務を任されたらしい。

 「帰りにまた寄る予定だから、しっかりと体を休ませるんだよ。無理をしないで、体調に気を付けてくれ。」

 と後ろ髪を引かれながら隣国へと旅立っていった。


 滞在期間短かったもんなぁ。兄様やナーデルとかともっと遊びたかったんだろうなぁ。
 (リリー、アンタもうそろそろ貴族教育だけじゃなくて色々と勉強した方がいいわね。特に男心。)


 リベアから何かバカにされた気がしたが、王子もいなくなったし!早速お父様に琥珀について相談しよう!と顔色は悪いものの、元気よくガンディールの下へ足を向けていた。






 「お父様!ちょっとご相談がある、の・・・ですが?────皆集まってどうしたの??」

 執務室に入ると、キースだけでなく獣人部隊や忠臣、影の代表者等バジル家の主力達が勢揃いしていた。
 ここ最近は害獣や盗賊被害もなかったし、武力部隊も暇していたようだが・・・何かあったのだろうか?

 リリーナがちょっと及び腰になっていると、今まで難しい顔を寄せていたガンディールがリリーナを抱き上げてチークキスをする。


 「リリー、おはよう。ルーカス王子とのお話はどうだった?───色々と詰め寄ったりされなかったか?父様との”約束”は、守れたかい?」

 「おはよう!お父様。ルーカス王子には側妃様のお話を色々と聞かせていただいたの!大丈夫、ちゃんと”約束”覚えてるし、守ってるよ!」

 「そうか・・・側妃様のことを・・・。リリー、すまない。側妃様のことは貴族の中でも限られた者しか知らないし、むやみに話してはいけないことになっていたんだ。お前も他人事じゃないのに、話してやれずすまなかった。」

 ガンディールは少し眉を寄せ、悲しそうな表情でギューっと強くリリーナを抱きしめた。
 そんな顔をさせる予定など毛ほどもなかったリリーナは、慌てて抱き返しながら否定の言葉を紡ぐ。


 「お、お父様!!謝ることじゃないです!王族である側妃様のことですもの、身内といえど情報を洩らすなどあり得ませんわ!そんな当たり前のことですもの、そんな顔しないでください!───そ、それより!皆総出でどうしたんですか?強い盗賊の目撃情報でも入ったんですか?」

 いくら言ってもガンディールの表情が晴れない様に、話題を変えようと気になったことを尋ねる。
 すると「そうだった!」と言わんばかりのガンディールが、バッとリリーナの顔を見つめて真剣な表情でリリーナに伝えた。


 「リリー、覚えてるか?小さい頃に会ったお前の従姉妹のお父さん、俺の姉貴の旦那さんだな。その人から連絡があったんだ。──────アイツ等の国と南大陸の間にある島に、老衰しそうな大獣がいるらしいと。」

 まさかのタイミングにリリーナはビックリして固まってしまった。

 というか滅茶苦茶早い!!バジル家凄い!!優秀すぎ!!!えっ神様補正とかないよね?! 
 (多分無いわよ~。そんなこと出来たらもっと早くに神様何とかしてるわよ!単にアンタの家族達がハイスペックで異常なだけよ~多分。)

 急な展開に言葉も出ない様子のリリーナを、ガンディールはポンポンとあやしながらも言葉を続ける。

 「南大陸に属していないものの、未だに謎が多い地域の島だ。情報も昔からの言い伝えと近隣の漁師たちが見たという不確かなものだし・・・。だが今集めている情報の中でも期待が持てる内容なんだ。それに、途中の海路でデカイ害獣が出る可能性もあるしな。そっちで特玉が採れるかもしれんから、その島に捜索隊を派遣することにしたんだ。」

 「今は人選をどうするか決めているところなんですが・・・中々決まらず。旦那様は自らが行くと聞かないんです。リリー様からも諦めるように進言してください、「お父様がいなくなったら寂しい」と。リリー様に見つめられながらお願いされたら、このバカ、げふんっ失礼。旦那様も分かってくださると思いますので。」

 ニコニコしながら、だが赤子の時に感じた懐かしい黒いオーラを放ちながらリリーナに相談するキースの様子に、ひくひくっと顔が引きつった。

 このバジル家過激派筆頭である執事長は、赤子の誘拐事件の時に見たガラの悪さが嘘だったように一切リリーナに悟らせない様過ごしていた。
 実はあの時から意識があり、あのドスの効いた口の悪さを覚えていると言ったらどんなリアクションをするのか。
 普段立派な紳士の装いであるキースを見ながら、リリーナは複雑な感情を抱いているのだが・・・。

 本人は既にリリーナに本性がバレていることなど知らずに、可愛い可愛い子ども達には自分のガラの悪さを死ぬまで隠し通そうと一切の隙を見せないよう注意していた。
 しかし影を中心に武力部隊の稽古や賊の討伐の際は、どこの組長ですかという程の本性丸出しでキツーイ口調でその拳と足を振るっている。
 キースの本性を知っている者達は全員キースに逆らえないし、逆らおうとも思わないし逆に靴でも舐めましょうか?という様に調教されていた。

 女子供を中心に、立派に隠してみせているのにオーラだけでも漏れている・・・これは顔に出てないが相当苛立っている様だ。



 「お、お父様がいないのは確かに寂しいけど、キースがいないのも寂しいよ?───その探索って、そんなに長い期間かかっちゃうの?そんな長い間会えないの・・・?だったら無理して行かなくてもいいよ、危険だと思うし・・・誰かが怪我しちゃったり死んじゃったりしたら・・・。」

 自分で話していて想像で泣けてきてしまった。

 それまで殺気立っていたキースはリリーナからの思わぬ嬉しい言葉に、殺気立っていた感情が静まっていたがうるうると涙をこらえる可憐な美少女に今度は慌てふためいた。
 キースだけでなく抱っこしているガンディールも、普段子どもに避けられそうな男達もあわあわしている。


 「リリー!大丈夫だ!確かにちょっと時間はかかりそうだが、1年はかからないぞ!それに父様達はすっごく強いんだ、心配しなくても大丈夫さ!」

 「そうですよ、お嬢様。ハジル領は海でも盛んに活動しますからね、海上でも我々の強さは変わらないですよ。普段の害獣任務と考えていただいて大丈夫です。ほら、何も問題ないでしょう?」

 「そうそう!大丈夫だぜお嬢!」「怪我なんてしないって誓えるくらい俺等強ぇんですぜ?」「絶対1年以内に帰ってきますって!」「お嬢、お菓子でも食べるか??」「ほ、ほら!俺の耳触っていいぞ!フワフワで好きって言ってたよな?!」


 デカイ図体の大人達が必死に自分を慰める姿を見て、出かかった涙はいつの間にか引っ込んだ。

 「そ、そうなんだ。ありがとう、皆。もう大丈夫だから!は、ははは。」

 苦笑いになってしまったが、何とか笑顔を向けられた。
 そのリリーナの笑みにホッとした一同は平常心を取り戻した。


 「良かった。リリーもお姉さんになったな・・・。こんなに成長している様だし、俺が長期でいなくても問題ないだろう。やはり俺が自ら行った方が良い。俺がいれば万が一他国との交渉事があった時にスムーズだし、最短ルートになるだろう。───キース、バジル家のことを心配してくれてると理解している。だが、俺に万が一があってもエディやナーデルがいる。子ども達とエマ、そして先代の頃から我が家を見守ってくれているお前が残ってくれたら俺は安心して死ねるだろうよ。・・・やはり、ここは俺に行かせてくれ。」

 「何を言ってるんです!!冗談は程々にしてください!!この俺を差し置いて、先に死ぬつもりですか?!このバジル家に、バジル領にっ貴方がいなくなっても問題ないなど世迷言を!!エディ様とナーデル様がいるから??それは”当主”の問題でしょう!!お子様達の父親は?エマ様の夫は?私の・・・私達の生涯の主はどうなるのです??そんなすぐに切り捨てられる存在だとでもお思いですか!!」


 ──────今まで聞いたことがない、見たことがない程激高したキースの心からの叫びに驚いた。
 いつも本性を隠し、冷静沈着なキースが・・・こんなに心の内をさらけ出すなんて。

 リリーナは改めて、キースがガンディールへ向ける忠誠心の強さを思い知った。
 いや、よく見ると他の部下達も怒った様子でガンディールを睨みつけていた。

 ・・・我が家のお父様は、随分と部下から慕われているらしい。リリーナは不謹慎だが、ちょっと嬉しくなった。



 「いや、そういう訳ではないが・・・。しかしな・・・。」

 「それに、これからショーン様の”例の計画”が動くんですよ?バジル家当主で、上級貴族である貴方がいなくてどうするんですか。前に計画の打ち合わせをしていた時、ショーン様達に「いざとなったら俺が動いて何とかします。」と大口を叩いていたじゃないですか。──────ということで、貴方は今回絶っ対に参加出来ませんからね。これは決定事項です。───さあ!こんな年甲斐もなく駄々をこねる人は放っておいて、私以外の同行者を選定しましょうか。」



 キースの叫びにちょっと尻込みしたガンディールを畳み掛け、キース達はそっちのけで話し合いを始めた。

 ガンディールは「ムムゥ・・・。」と唸っていたが、キースの言葉に思う所があったのか大人しく黙っていた。



 ”例の計画”って何だろう?ショーン様が動くんだったら、グレン達何か知ってるかなぁ?
 (ん~、あのエルフの血が入ってる若オジサンでしょ~?何か前会った時に言ってたような・・・?)

 うんうんと二人で唸っていたが、忘れてしまったものはこういう時に限って思い出せないのだ。
 早々に思い出すことを諦め、ちょっと落ち込んでいるガンディールをよしよししてあげた。






 ──────厳選に厳選を重ねた者達が、キースを筆頭に南の島へ遠征することになった。


 「シャル、副執事長がいるから大丈夫だとは思うが、何かあったらフォローしてくれるか。勿論お嬢様の護衛を優先してくれて構わない。不測の事態があった時は、気にかけておいてくれ。」

 「はい、キースさん。勿論です。大丈夫だと思いますが、お気をつけて。」

 数日で準備を終えたキース達が出発する日、キースは執事長として使用人に抜かりなく伝言を残していた。
 特に、執事でもないが教育に力を入れた一人であるシャルに念入りに話しかけていた。
 シャルは基本的にリリーナの護衛含めた従者であるが、キースが任務に出る際執事達の仕事を一部引き受けていたりするハイスペック使用人なのである。

 「ダイス、私がいない間の外敵対応はお前に一任します。普段はやりすぎだと注意しますが、今は心強いですよ。しっかりバジル家をお守りしなさい。」

 「ひゅ~♪マジですか~??まっかせなさ~い♪いつも止められて不満でしたけど、俺流で良いんですもんね~?どうぞ安心して遠征行ってきて下さ~い♪」


 「・・・ハヤト、テオ、ダイスがやりすぎないように頼みましたよ?二人共お嬢様と坊ちゃまの護衛を優先していただいて構いませんが・・・後でバジル家に不利になるようなことがあってはいけませんからね。過剰だと判断した場合は、ダイスをストップさせてくださいね。」

 「・・・・分かりました。」
 「ぇぇ~なんで俺等が・・・(ボソッ。分かりました。」


 渋々頷くハヤトに、明らかに嫌そうな顔をしながら了承するテオ。
 二人からの返事に一先ず安心したキースは、最後に主人達に挨拶する為に近づいてきた。


 「では、行ってまいります。なるべく早く帰ってくる予定ですが、やんちゃし過ぎないよう注意してくださいね、旦那様。奥様、どうぞ目を光らせておいてください。」

 「まったく、俺をいくつだと思ってるんだ。・・・気を付けて行ってこい。」
 「ふふふ!分かったわ、しっかりと見張っておくから大丈夫よ。気を付けてね!」


 「坊ちゃま方、キースがいない間あまり度が過ぎたイタズラをして使用人をビックリさせてはいけませんよ?後で聞いて余りにも酷かったら、ザインのおやつを1週間抜きにしますからね?」

 「分かったよ!大人しくしてるからそれだけは勘弁して!・・・あ~ぁ、いいなぁキース!俺も未知の島に行ってみたいよ。ねぇねぇ、やっぱり俺も一緒に行ってイイ??」
 「えぇ~!じゃあ僕も!僕も冒険したい!僕も行く~!」

 エディの諦めの悪い言葉に反応したナーデルが、キースの足にしがみついて駄々をこねた。

 「はっはっは、ダメですよ。坊ちゃま達が一緒に来たら、皆二人を守ろうとして本当はしなかったであろう怪我をしてしまいます。最悪、死んでしまうかもしれませんので・・・絶対に付いてきてはいけませんよ?」

 「分かったよ・・・。今回は我慢する。気を付けてね?」
 「僕も・・・。キース早く帰ってきてね!」


 キランっとキースの眼が光ったのを見て勘が働いたのか、エディ達はすごすごと撤回した。
 その様子を満足そうに見つめ、キースはずっと黙ったままのリリーナに声をかけた。

 「お嬢様も、この老いぼれにお言葉を頂けないでしょうか?お嬢様から応援していただければ、力が100倍湧いてきそうなんですが・・・。」


 茶化した様に言うキースに、居ても立っても居られなくなったリリーナはガバッと抱き着いた。

 「キース、本当に無理しないでね?ケガしたらすぐ帰ってきて。絶対だよ?私キース達が怪我してまで行ってほしくないもの・・・。絶対、絶対だよ??なるべく早く帰ってきてね、しっかりご飯食べてね、ちゃんと休んでね・・・絶対、絶対死んじゃダメだよ??」

 ぎゅーーーっと抱き着き震える声で精一杯言葉を紡ぐリリーナに、抱き着かれているキースは勿論傍にいた使用人達含め皆が微笑んだ。中には感激したのか涙を浮かべている者までいる。

 いじらしいリリーナのお願いに、キースは幸福感に包まれながらぎゅうっと優しく抱きしめ返し返事をした。

 「ふふ、お嬢様。嬉しいお願いありがとうございます。お嬢様からのお言葉、しかと胸に刻み行ってまいります。・・・大丈夫です、キースも他の者達も、誰一人欠けることなく帰ってくると誓いますよ。───お嬢様も、私達が帰ってくるまでお辛いと思いますが、しっかり食べてしっかり寝てくださいね。」

 うん、うんとリリーナは頷きながら聞いて、キースの頬っぺにキスを送って「いってらっしゃい!」と挨拶した。



 「「「「「「「「では、行ってまいります。」」」」」」」」




 ──────こうしてキース含む十数人の部下達は、バジル家を後にした。








 
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