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第2章 -少女期 復讐の決意-

87.招かれざる客

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 う~~~ん、何だか落ち着かない雰囲気だわ。

 (そう?まぁいっつもいた人達がいないからそう感じるんじゃないかしら?私は別に普通よ?)





 バジル家のサンルームで一息ついていたリリーナとリベアは、ポカポカ日差しを浴びながらそんな会話を繰り広げていた。



 「リリーお嬢様、体調は大丈夫ですか?庭の手入れは私共が致しますので、お嬢様が無理になさらなくても良いんですよ?」



 追加のお茶とお菓子を持ってきてくれたシャルが、心配そうに尋ねてきた。





 「大丈夫よ!本当に。自分でもキツイと思ったら止めるから、元気な内はやらせて?毎日の楽しみでもあるんだもの。・・・お願い?」

 「ぐっ!分かりました。絶対に!無理をしないと約束してくださいね??────まったく、お嬢様はお願いが上手でいらっしゃる…。」



 何やらブツブツと呟きながらも退いてくれたシャルを見ながら、一気に寂しくなった屋敷について思考を飛ばす。







 最近、バジル家の人数が半数近く少なくなってしまった。

 リリーナの病の為特玉を採取する為に南方へ向ったキース達、西大陸や北方へ出張しているモレッツ商会の商人達、ポートマン公爵家との共同任務の為離れているダイスを含めた兵士達。



 そして・・・その共同任務の収束の為に助力として向かったお父様達。





 私は数日前にやっと今回の共同任務の事について聞かされた。

 その時は急な報告で驚いたが、理不尽な扱いをされていたであろう被害者達が助かって本当に良かったとホッとした。

 もしその中に獣人がいたら、バジル家の獣人さん達に会わせてあげたいなぁ~と呑気に思っていたが、事態は思ったよりも大規模だったらしい。



 今回の騒動を機に、ポートマン公爵家とバジル家の兵士達が集めた情報や物的証拠を精査すると、一般の裏稼業者を初めなんと複数の貴族達が関わっていたことが判明したのだ。

 その事実を秘密裏に国王へ報告すると、”超穏健派”と言われているアーサー王は大激怒。

 「今回の件、徹底的に関係者を洗い出せ。ネズミ一匹逃がすな。」と大分意気込んでおられたらしい。

 しかし、今判明しているだけでも結構な数の貴族が関わっており、王都は一時パニック状態に・・・。

 そこで今回の任務の当事者でもあるお父様が、混乱を鎮める為に駆り出されたわけである。





 「すまない、キースもいない時にここを離れたくないが…王命には逆らえなくてね。陛下は滅多に命を下すことはないんだが…それだけ今回の件は許し難く、本気だという事だろう。それに…まだ決定的な証拠がなくのらりくらりと躱している不届き者もいるみたいだ。そいつら含め、終わらせてくる。」



 そう言いながら、恐らくその”不届き者”を思い浮かべているのだろう、険しい顔つきで王都へとお父様達は向って行った。

 ”王命”という仰々しい単語に心配になっていたが、お父様のあのお顔とオーラを見ると(あ、大丈夫だわ。逆に逃げてる人、大丈夫か?)と別の心配をし始めた。







 まぁ、確かに人数少なくなって寂しいけど…お母様もお兄様もナーデルもいるし!少しの間我慢しよう。

 (ちょっと~!あともう一人大事な人忘れてない~???!!アンタの相棒は?!)

 も、もちろん!リデアがいるから全然寂しくないわよ!!!

 (ふん、分かればいいのよっ全く…相棒の名前も上げないなんて失礼しちゃうんだからっ)







 リデアといつもの様に軽口が叩けて、リリーナの心もほっと一息つけた。

 何だかんだ言って、この口うるさい相棒が傍にいてくれることが一番安心するなとリリーナはこっそり相棒に感謝した。



 「さて!休憩したから元気が出たわ!シャル、残りの手入れを始めるから手伝ってくれる?早く終わらせてザインと新しい創作料理の研究をするわよ!お父様達が帰ってきた時に、アッと驚かせましょう♪」



 「かしこまりました。微力ではございますが、このシャルもお手伝いさせていただきますね。」



 ニコニコと笑うリリーナを見つめて安心したのか、ふわりとした笑みを浮かべながらシャルはリリーナに続いた。







 相棒に元気づけられ振り切ろうとしたが、リリーナは未だにどこか言い知れぬ悪寒が拭えなかった。













 *







 リリーナ達が庭の手入れを再開した頃、従業員が寝泊まりする従業員棟には午後の休憩に入ったレイナがいた。



 リリーナが生まれた頃から娘のカヨと仕えている彼女は、今ではバジル家の従者達の中でも中堅になっており新人教育を初めリリーナのみならずバジル家全体の仕事もするようになっていた。

 初めは「私如きがこの様な…出来るはずがない、どうしよう…。」と思っていたが、先輩従者は勿論奥様やリリーナ様達、そして娘のカヨまで助けてくれたおかげで何とかここまでやってこれた。



 ガンディール様に救われるまでは、生きる意味も気力も何もかも娘の為だけだったのに…。

 今ではお仕えする奥様達は勿論、先輩や後輩、バジル家に仕える同僚そして───。



 レイナは最後に思い浮かんだ人物を思い、頬を赤らめつつも幸せそうな笑顔を作った。





 (本当に・・・私は幸せ者ね。カヨもあんなに良い子に育って、優しい仲間も素晴らしい主達もいる。やっぱり、私は”こっち”が性に合ってるわ。)



 レイナはあの時、ガンディールの手を取って良かったと心底思った。

 そして、必死でガンディールを導いてくれた父に改めて感謝する。

 昔から自分が興味のあるモノ作りしか目に入らない、ちょっと困った父だったが・・・母が早くに亡くなり自分も子どもで…さぞ苦労させただろう。

 本当はあのまま嫁いだ娘など放っておいて、自分の好きな事に没頭しても良かっただろうに・・・。



 最近はモレッツ商会のお嬢様と一緒になって、少年の様なキラキラした眼でモノ作りを再開して楽しそうで良かった。

 私のせいで半強制的にバジル領に身を置くことになり、父の生きがいをこんな田舎に来させて奪ってしまったと絶望したが…今でも生き生きと元気でいてくれて本当に良かった。







 ガンディール様を初め、バジル領の人達には頭が上がらない。



 レイナは「よしっ!」と気合を入れ、大恩ある主人達の為に午後も一生懸命働くぞ!と意気込んだ。

 「あっ!いたいた、レイナさん!」



 後輩がレイナを見つけて話しかけてきた。



 「レイナさん、入り口にお客様がいらっしゃってますよ!何でも昔のお知り合いだそうです。バジル領の近くに折角来たから、ついでに寄られたそうです。流石にバジル邸には尋ねられないから…とこちらに来たみたいですよ!タイミングよく従者棟にいらして良かった!私先に行って仕事始めてますので、どうぞゆっくりなさって下さい!」



 後輩はそう言うと、駆け足で仕事場へ戻って行った。



 「あらあら、気を遣わせちゃったわね。」

 レイナは苦笑しながら、落ち着きなく駆けていった後輩の姿を見送った。





 にしても…昔の知り合いか。誰だろう?

 あ、もしや独身時代の友人かもしれない。前に手紙で子どもが成長して遠出出来るようになったと書いてあった。



 レイナは久々に会うだろう知り合いに、ワクワクしながら入り口へと足を進めた。







 「ごめんなさい、お待たせしてっ」

  ガチャッ



 笑顔で扉を開けたレイナは訪問者へ顔を向けると───その顔色はどんどんと青ざめ、手は震え声にならない恐怖によって唇が震えた。



 反射的にバッ!!!っと扉を閉めようとしたが、訪問者は前のめりになり扉の間に身体をねじ込ませたことで阻止された。







 「やぁ、レイナ。ずーーーーーーーっと会いたかったよ?酷いじゃないか、手紙も寄こさずに。しかも久しぶりに会ったのに、僕を入れないつもりかい?酷いなぁ・・・・僕の妻は。」









 招かれざる客が、バジル領に訪れた。









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