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第6話 うっ血女子と血色わるい王子③
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吸血者が初めて日本の歴史の登場するのは平安時代。
『古今和歌集』六歌仙の一人、大友黒主が確認できる最古参の吸血者である。
六歌仙のくせに小倉百人一首の選からは漏れるなど、表の歴史では謎に包まれた黒主だが、吸血者たちの間でも、まだ生きているとも第二次大戦で死亡したとも去年新橋の焼き鳥屋で見たとも言われている伝説的な人物だった。
西欧ではヴァイキングの狂戦士エギル・スカラグリームスソンが最初の吸血者だというから、だいたい同じ時代に端を発しているようだ。
吸血鬼のルーツとして名高い、ハンガリー王国「血の伯爵夫人」バートリ・エルジェーベトや、ワラキア公国「串刺公」ヴラド・ツェペシは、平民搾取、平民虐待という王侯貴族の日常職務に熱心だっただけの、実はごく普通の人間で、吸血者とはまったくもって無関係なのだが、世の好事家はそちらのほうに真実を見たいらしい。
それは協会としても好都合で、幻想が崩されないよう、注意がほかへ向けられないよう、様々な手が打たれていた。
例えば、吸血鬼、ヴァンパイアが登場する書籍、映像作品。
日本吸血者協会は、ヨーロッパ最大にして最古の英国吸血者協会マン島支部と共に、出版業界、テレビ業界、映画産業に投資している。
表の日英同盟は1923年に潰えたが、血の同盟は二つの大戦と冷戦を越えて継続されていた。
そもそも日英同盟自体が、洋の東西の島国に生きる吸血者同士の友愛が元になっており、同盟の締結に邁進した外務大臣「吸血鼠男」こと小村寿太郎、駐英公使「特命流血全権大使」こと林董は、それぞれ初代、第二代の日本吸血者協会理事長だった。
両協会は、毎年数本の吸血鬼作品を製作、虚構の煙幕が絶えないよう常に気を配ってきた。(注1)
好事家には夢を。
研究者には地位を。
政治家には票を。
ジャーナリストには金を、が協会のモットーだった。
受け入れられない場合は裏モットーの、
邪魔者には死を。
実際、協会の関与が疑われている死亡者のリストがあるのだ。
チホは、吸血者のイトマキ症について調べているうちにこれらの事実を知った。
それまで協会といえば、血液と仕事をくれる場所としか認識していなかった。
自分は、薬のように定期的に血を飲まなければならない難病だと思っていたのに、まさか、こんな恐ろしい集団の構成員だったとは────。
* * *
チホが、世良彌堂と再会を果たす二時間前のことである。
チホは日本吸血者協会の古びた門柱の前にいた。
「合言葉は?」
「ええと、英語ですよね、あ……ライフ・イズ・ロングバケーション、です」
人生は長いお休み。
皮肉としか思えなかった。
人生は血塗れ貧乏暇なし、だろう。
ライフ・イズ・ブラッディーノーフューチャー……
そう言い間違えてやりたかったが、正確な英文じゃないとカッコ悪い。
「お入りください」
チホは日本吸血者協会の内部へ初めて入ったのだった。
〈国際タイドウォーター協会〉と書かれた木造の鄙びた建物のほうが〈日本吸血者協会本部〉で、瀟洒な〈潮流研究所〉のほうは〈吸血者情報センター〉────それが施設の正式名称だった。
チホは最初、案内板に従って情報センターへ向かった。
「各日12人。1人1時間まで。要予約」のイトマキ症個別相談に応じてもらうためだ。
やっと取れた予約だった。
センターの中には、そこそこ人が溜まっていた。
窓口に並んでいたり、書類に記入していたり、ただ椅子に座って腕組みをしていたりと、役所や銀行や病院のロビーでよく見かける光景が広がっていたのだが、これが全部、吸血者なのだった。
シルバーカーの老婆も黄色い幼稚園帽の幼児もいたが、中身も同じとは限らない。
チホは長いエスカレーターの上からフロアーを眺めた。
老若男女たちの黒、白、茶、肌色の頭髪の上に、それぞれの実年齢のキャプションがついた場面を想像しながら二階へ上がった。
〈イトマキ症対策室〉────ここだった。
ドアを潜ると、パーテーションで仕切られたブースが四つ並んでいて、係員との間でそれぞれ相談が行われていた。
チホは受付に協会から届いた葉書を差し出した。
壁際の長椅子に腰かけて順番が来るのを待った。
「費用が……」
「環境はとても……」
「具体的には……」
「民間の……」
「基本的には……」
「こちらにお名前を……」
「根本的には……」
「案外安いのね……」
ブースから漏れてくる声に聞き耳を立てていると、廊下のほうがうるさくなってきた。
ドアが乱暴に開いて、数名がなだれ込んできた。
「みなさん、騙されてはいけません!」
「日本吸血者協会は、中华精制血液公司と、グルなんです!」
「この人たちを信用したら、みんなイトマキ症に、感染させられてしまいますよ!」
ハイテンションで叫び出す人たちを協会の職員たちが取り囲み、部屋の外へ押し出そうとして揉み合いになった。
チホは椅子に座ったまま顔を伏せていた。
彼女たちは「精制血液被害者の会」の人たちで、チホも何度かその会合に出ていた。
代表の廣瀬と副代表の石井の顔があった。
「血液消費者ネットワーク」の豊田と北村もいた。
四人とも見た目はチホと同じくらいだが、実年齢は二倍から三倍はありそうだった。
被害者の会とネットワークは、イトマキ症食品公害説を取り、中华精制血液公司を糾弾、告発に非協力的な吸血者協会をも攻撃していた。
中华精制血液公司は血液自由化の波に乗って、買収を進め規模を拡大したため、イトマキ症の感染被害も広がったという。
確かにあの会社は名前からして怪しいのだが、チホは確信を持てなかった。
第一、同じ血を飲んでいた自分はピンピンしている。
「被害者のみなさぁーん、目を覚ましてくださぁーーい!!」
職員たちによって廊下へ追い出される被害者の会。
あの人たちだって同じ血を飲んだだろうに、発病せず元気に運動している点には目をつぶっている。
喧騒が去ると、チホは顔を上げた。
血液型不適合説。
遺伝子組み換え血液説。
ロングライフ・ブラッド説(防腐剤)。
未知のウィルス説。
イトマキ症の原因と呼ばれるものはざっとこれくらいはあった。
チホの印象では、血液型不適合説が近いような気がしていた。
人間のほうに何か体質的な問題があって、たまたま飲んだ血液が合わなかった。
同じメーカーのプリンターでも、型番によって専用のインクが決まっていたりする。
適合しないインクを使っていると、プリンターは急に詰まったり壊れたりする。
チホはイトマキ症をそんなイメージで捉えていた。
「お騒がせして申し訳ございません……」
バレー部の高校一年生みたいな男の子がやってきた。
頭はスポーツ刈りで、背は高いが腰が細く、スーツのズボンがベルトで巾着みたいに絞られていた。
たぶん三十歳は超えている職員は、チホの相談は別室で行うのでついて来いという。
「本日は、大変立て込んでおりまして……」
チホは高校生みたいな三十歳に促されるまま、また一階まで降りた。
被害者の会がまだいないかびくびくしながら人々の間を抜け、センターの外へ出た。
別室は、隣の建物、協会本部にあるらしかった。
本部は中も古く、板張りの廊下がぎしぎし鳴って本当に田舎の中学校といった感じだ。
チホは校長室のような重厚な趣きの部屋へ通された。
「相談員が間もなく参りますので、今しばらくお待ちください」
職員が去ると、チホは黒革のソファーに腰かけた。
何か鹿の角がありそうな部屋だな……と思って見上げると黒々とした瞳と目が合ってびくっとした。
壁から大きな鹿の首が飛び出ていた。
これ、トナカイ?
壁には書も飾ってあった。
文字は「心」だろうか。
達筆すぎて、よくわからない。
廊下を歩く靴音が聞え、ドアが開いて相談員が入ってきた。
「お待たせしました。こんなところまでご足労そくろうをおかけしまして」
相談員は、小柄で背筋のぴしっとした、やや薄くなった銀髪がオールバックの男性だった。
見た目五十代後半から六十代前半といったところ。
ゴルフ焼けなのか、肌は小麦色だった。
とても平の相談員とは思えない雰囲気である。
名立たる企業の管理職を見てきたチホの目は、その男を本部長クラスと見積もった。
相談員は「キリコシ」と名乗った。
キリコシが、何となく立ち上がってしまったチホに、着席を勧めた。
「えーと……西機千穂さん、でしたね」
チホは、ファイルの頁を捲る相談員の手を見ていた。
金の指輪にハンコが彫ってあった。
カフスボタンも金だ。
チホの中でキリコシの階級が本部長から専務取締役に上がった。
指輪に彫られたハンコの名前は
「桐越」でも「切越」でもない。
「霧越」でも「錐越」でもない。
何故か「吉井」と読める。
「……ペアレンツさんがお二人とも発病されていますね。ご心配でしょう」
ファイルには、チホの資料が挟まっていた。
覗き見ると、フレンズ、ファミリー、グループ、パーティー、その他、の項目があり、ファミリーにレ点が入っていた。
事務処理上、吸血者は集団生活の形態によって、大きく四つに分けられていた。
協会の分類によると、理科斜架と蜘蛛網はファミリーの「ペアレンツ」にあたり、チホは「チルドレン」になる。
「あの……」
「最初に申し上げておかなければならないことがございます」
チホの声を遮るように、キリコシが喋り出した。
「わたくしども日本吸血者協会の始まりは、吸血者同士の助け合いを目的とした、互助会の連合組織でした。それが国際情勢の変化などもございまして、現在の規模にまで拡大したわけですが、本質はやはり互助会です」
「いえ、あの……」
「ですので、助け合う皆さまの暮らしのお手伝いをするのが本分でございまして、現在ご提供させて頂いている以上のことは」
キリコシは無念そうに目を閉じた。
「できないのが現状です」
「具体的なサービスと致しましては、血液供給と書類の作成及び手続代行、職場の斡旋あっせん。わたくしどもがご提供できるのは、この三つです」
キリコシはチホに話す隙を与えないかのように言葉を継いだ。
「ご窮状はお察し致しますが、わたくしどもにできることは非常に限られておりまして」
チホは、もう我慢できなかった。
「あの!」
あっ、とキリコシが叫んだ。
二人の間に横たわっていたテーブルの片側が目の高さまで持ち上がり、斜面をファイルや灰皿やライターが滑り出した。
キリコシが寸でのところで滑り落ちようとするライターをキャッチした。
「ごっ、ごめんなさい」と、チホが重厚なテーブルから手を離すとその脚が床に「ずどっどっ」と着地した。
もう少しで重いテーブルをひっくり返してしまうところだった。
「西機さんは……」
キリコシはライターと灰皿とファイルをテーブルの元の位置へ戻しながら言った。
「右手ですか?」
「はい……」
「ぼくは、ここです」
キリコシは銀色の頭髪を指さした。
「脳味噌が二つあるのです」
「えっ、マジですか?」
「冗談です」
チホがあっけに取られていると、デスクのほうでブザーが鳴った。
「吸血者ジョークですよ」
キリコシは、ちょっと失礼、と席を離れた。
デスクの上にインターフォンがあり、外部と話し始めた。
インターフォンの声が漏れてきた。
秘書だろうか、女性の声で(厚労省の……経団連の……お待ちですが)と聞えた。
「待たせておいてください」とキリコシ。
キリコシ。
霧輿。
今、わかった。
この人、理事長じゃん。
チホは協会から送られてくる書類に載っている署名を思い出した。
〈日本吸血者協会理事長・霧輿龍次郎〉────全国五万八千人の吸血者協会会員の頂点が、どうも目の前にいるらしかった。
何か自分のために厚労省と経団連を待たせていたようだったが。
「あの、今日はこれをはっきりお聞きしようと思って千葉からやってきたんですけど」
もう遠慮はいらない。
理事長直撃である。
「イトマキ症って、何なんですか? 調べても全然わからないし、こちらの窓口に電話しても詳しく教えてもらえないんですけど」
「それは大変ご迷惑をおかけしました」
「いや、謝るとかは必要ないので、説明してください。困ってるんです」
「わかりました。しかし、さて、どこからお話し致しましょうか」
霧輿理事長はわざとらしく、額に手を当てた。
「協会本部がイトマキ症の存在を把握したのは、1960年代のことです。何人かの吸血者が奇妙な症状を示している、という報告がありました。研究チームが組まれて、調査したのですが、これがよくわかりません。患者は糸でぐるぐる巻きになっているのですが、結局その糸は市販のものだったのです。おそらく精神的な病に違いない、いや、はっきり申し上げれば詐病だろう、ということになりました。以来、イトマキ症の話はぽつぽつとあったのですが、結論はすでに出ておりましたので、協会と致しましては、この件につきましてはタッチしない、という方針を取ってきました」
「それ、知っています。繭こもり、ですよね。仮病だったんでしょう?」
「ところが、です。近年、イトマキ症についてのご相談や問い合わせが急増致しまして、検討の結果、これは今までとは違う、新たな局面に入ったのだと認識致しました。現在、総力を挙げて、患者さんやご家族からの聞き取り調査、疫学的調査などを急ピッチで進めているところでありまして、この個別相談もその一環として行っているわけです」
「今流行はやっているのは、仮病じゃないですよ。同居人はわたしの目の前で糸吹いたんですから」
「ですから、新たな局面なのです」
「で、治るんですか?」
チホはまたテーブルの端を掴んで、ぐっと前へ身を乗り出した。
「治らないんですか?」
チホの剣幕に、げっ、現在、調査中です、と言いながら身をのけ反らせる霧輿。
「ていうか、このままほうっておいていいんですか? 入院とかさせなくても?」
「入院といいましても、一般の病院では難しいと思います。病気にかからないのが吸血者、というのがこれまでの常識ですからね。今回の事態で、その常識が破られてしまったわけで、協会と致しましても歴史始まって以来の」
「あの、聞いてください。これから、わたしの考えを言いますね」
「はい。お聞きしましょう」
今度は理事長が膝を乗り出した。
本気なのか演技なのか、わからないが真剣そうな表情だった。
「どうぞ、何でもおっしゃってください」
チホはもうわかっていた。
これは埒が明かない。
天下の理事長と話して、この有様なのだから。
もう言いたいことだけ言わせてもらおう。
「わたし、思うんですけど……病気じゃないんじゃないかな、これ。|繭《》って、あれでしょう? 昆虫の幼虫が成虫になるためにあるんですよね? 同じなんじゃないかな。繭の中には、吸血者のサナギみたいなやつが入っていて、時期が来ると、繭から成長した吸血者が出てくる、みたいな。あと、ほら、パソコンで更新てあるじゃないですか。更新している間はパソコン使えなくて、すごいイライラするんですけど。ちょうどあれと同じようなことが吸血者の体に起きているんじゃないのかなって」
霧輿は腕組みをして目を閉じて聞いている。
居眠りをしているようにも見える。
「そんなこと考えたんですけど……おかしいですか?」
「いいえ。ぼくも、そうだったらどんなにいいだろうか、と思いますよ」
ちゃんと聞いていたようだ。
「三尸虫というものをご存知ですか?」
霧輿は目を開けてチホを見据えた。
「さんしちゅう……」
「妖怪精螻蛄が操る蟲で、庚申待こうしんまちの夜に人の体から抜け出して閻魔大王にその人間の罪業を告げる、という想像上の生きものですが、吸血者の繭こそが、その三尸虫なのだそうです。つい先日も、ある相談者の方から道教の民間信仰とイトマキ症を結びつけた、そんなお説を賜りました」
チホは頭の中で思い浮かべた生物に×印をつけた。
それは昔、博物館で化石を見た「三葉虫」だった。
「イトマキ症を巡っては、誰もが答を求めてさまよっている……現在、協会は未曽有の混乱の中にあるのです……」
またブザーが鳴った。
「大丈夫です。お気になさらずに、お話をつづけてください」
「もういいです。お忙しそうだし」
チホは立ち上がった。
お力になれずすいません、と頭を下げる霧輿。
組織の長がしばしば威厳のある人物なのは謝罪が様になるからである。
チホが社会人経験で得た自論だ。
「あの、最後に一つ質問」
「はい。何でしょうか?」
やや表情を和なごませていた霧輿が真顔に戻った。
「あの字は『心』ですよね?」
チホは壁に飾ってある書を指さした。
「あれですか。残念ながら、心ではありません」
霧輿は悪戯いたずらっぽい笑みを浮かべた。
「さて、何でしょう?」
「何だろう……じゃあ『犬』」
「血です」
ほほ笑む霧輿。
「『血』? ……全然読めない」
「字ではありません。ただの血です」
「え?」
「刀で斬られた人間の|血飛沫《》ですよ」
「まさか……」
「坂本龍馬君の血です。中岡慎太郎君の血も混じっているかもしれませんが」
チホは、ポカーンである。
このおじさん、何を言っているんだろうか。
「あれは、二人が暗殺された京都、近江屋の障子しょうじですよ」
「また吸血者ジョークですか」
「いいえ。この世の真実です」
そう言って霧輿は、また意味深にほほ笑むのだった。
チホは廊下で霧輿と別れた。
出口のほうへ歩いていくと地味なスーツの男三人組とすれ違った。
チホは道を譲って会釈したが、三人とも無反応だった。
厚労省と経団連に違いない。
しばらく歩くと、うしろのほうから何名かの笑い声が聞えた。
一つは、霧輿の声のようだった。
チホはそのまま帰ろうとしたが、例の高校生職員が追いかけてきた。
書類が入った封筒を渡された。
「こちら、民間の施設なのですが……」
封筒の中には、医療機関のパンフレットが入っていた。
鎌倉にあるイトマキ症専門の病院らしい。
ちゃんとあるじゃん。
でも、入院費が年間百五十万円から五百万円と書かれていた。
チホがもらった封筒をぶら下げてとぼとぼ歩いていると、アンパンマンのブロンズ像の前で世良彌堂せらみどうに声をかけられたのだった。
(つづく)
(注1)
近年協会が関与した主な作品としては、2021年公開のテレビアニメ『ぶらどらぶ』(英題「VLAD LOVE」)がある。ヒット作ではなかったが、これは半ば意図された結果でもある。協会としては、あまり大ヒットして吸血者に注目が集まっても困るのだ。吸血鬼が出てくる作品に低予算のB級作品が多い理由がこれである。『ぶらどらぶ』の原作・総監督は世界的にも有名な押井守氏だが、彼は吸血者ではない。実は、押井氏の娘の配偶者の作家が……いや、これ以上は語るまい。
『古今和歌集』六歌仙の一人、大友黒主が確認できる最古参の吸血者である。
六歌仙のくせに小倉百人一首の選からは漏れるなど、表の歴史では謎に包まれた黒主だが、吸血者たちの間でも、まだ生きているとも第二次大戦で死亡したとも去年新橋の焼き鳥屋で見たとも言われている伝説的な人物だった。
西欧ではヴァイキングの狂戦士エギル・スカラグリームスソンが最初の吸血者だというから、だいたい同じ時代に端を発しているようだ。
吸血鬼のルーツとして名高い、ハンガリー王国「血の伯爵夫人」バートリ・エルジェーベトや、ワラキア公国「串刺公」ヴラド・ツェペシは、平民搾取、平民虐待という王侯貴族の日常職務に熱心だっただけの、実はごく普通の人間で、吸血者とはまったくもって無関係なのだが、世の好事家はそちらのほうに真実を見たいらしい。
それは協会としても好都合で、幻想が崩されないよう、注意がほかへ向けられないよう、様々な手が打たれていた。
例えば、吸血鬼、ヴァンパイアが登場する書籍、映像作品。
日本吸血者協会は、ヨーロッパ最大にして最古の英国吸血者協会マン島支部と共に、出版業界、テレビ業界、映画産業に投資している。
表の日英同盟は1923年に潰えたが、血の同盟は二つの大戦と冷戦を越えて継続されていた。
そもそも日英同盟自体が、洋の東西の島国に生きる吸血者同士の友愛が元になっており、同盟の締結に邁進した外務大臣「吸血鼠男」こと小村寿太郎、駐英公使「特命流血全権大使」こと林董は、それぞれ初代、第二代の日本吸血者協会理事長だった。
両協会は、毎年数本の吸血鬼作品を製作、虚構の煙幕が絶えないよう常に気を配ってきた。(注1)
好事家には夢を。
研究者には地位を。
政治家には票を。
ジャーナリストには金を、が協会のモットーだった。
受け入れられない場合は裏モットーの、
邪魔者には死を。
実際、協会の関与が疑われている死亡者のリストがあるのだ。
チホは、吸血者のイトマキ症について調べているうちにこれらの事実を知った。
それまで協会といえば、血液と仕事をくれる場所としか認識していなかった。
自分は、薬のように定期的に血を飲まなければならない難病だと思っていたのに、まさか、こんな恐ろしい集団の構成員だったとは────。
* * *
チホが、世良彌堂と再会を果たす二時間前のことである。
チホは日本吸血者協会の古びた門柱の前にいた。
「合言葉は?」
「ええと、英語ですよね、あ……ライフ・イズ・ロングバケーション、です」
人生は長いお休み。
皮肉としか思えなかった。
人生は血塗れ貧乏暇なし、だろう。
ライフ・イズ・ブラッディーノーフューチャー……
そう言い間違えてやりたかったが、正確な英文じゃないとカッコ悪い。
「お入りください」
チホは日本吸血者協会の内部へ初めて入ったのだった。
〈国際タイドウォーター協会〉と書かれた木造の鄙びた建物のほうが〈日本吸血者協会本部〉で、瀟洒な〈潮流研究所〉のほうは〈吸血者情報センター〉────それが施設の正式名称だった。
チホは最初、案内板に従って情報センターへ向かった。
「各日12人。1人1時間まで。要予約」のイトマキ症個別相談に応じてもらうためだ。
やっと取れた予約だった。
センターの中には、そこそこ人が溜まっていた。
窓口に並んでいたり、書類に記入していたり、ただ椅子に座って腕組みをしていたりと、役所や銀行や病院のロビーでよく見かける光景が広がっていたのだが、これが全部、吸血者なのだった。
シルバーカーの老婆も黄色い幼稚園帽の幼児もいたが、中身も同じとは限らない。
チホは長いエスカレーターの上からフロアーを眺めた。
老若男女たちの黒、白、茶、肌色の頭髪の上に、それぞれの実年齢のキャプションがついた場面を想像しながら二階へ上がった。
〈イトマキ症対策室〉────ここだった。
ドアを潜ると、パーテーションで仕切られたブースが四つ並んでいて、係員との間でそれぞれ相談が行われていた。
チホは受付に協会から届いた葉書を差し出した。
壁際の長椅子に腰かけて順番が来るのを待った。
「費用が……」
「環境はとても……」
「具体的には……」
「民間の……」
「基本的には……」
「こちらにお名前を……」
「根本的には……」
「案外安いのね……」
ブースから漏れてくる声に聞き耳を立てていると、廊下のほうがうるさくなってきた。
ドアが乱暴に開いて、数名がなだれ込んできた。
「みなさん、騙されてはいけません!」
「日本吸血者協会は、中华精制血液公司と、グルなんです!」
「この人たちを信用したら、みんなイトマキ症に、感染させられてしまいますよ!」
ハイテンションで叫び出す人たちを協会の職員たちが取り囲み、部屋の外へ押し出そうとして揉み合いになった。
チホは椅子に座ったまま顔を伏せていた。
彼女たちは「精制血液被害者の会」の人たちで、チホも何度かその会合に出ていた。
代表の廣瀬と副代表の石井の顔があった。
「血液消費者ネットワーク」の豊田と北村もいた。
四人とも見た目はチホと同じくらいだが、実年齢は二倍から三倍はありそうだった。
被害者の会とネットワークは、イトマキ症食品公害説を取り、中华精制血液公司を糾弾、告発に非協力的な吸血者協会をも攻撃していた。
中华精制血液公司は血液自由化の波に乗って、買収を進め規模を拡大したため、イトマキ症の感染被害も広がったという。
確かにあの会社は名前からして怪しいのだが、チホは確信を持てなかった。
第一、同じ血を飲んでいた自分はピンピンしている。
「被害者のみなさぁーん、目を覚ましてくださぁーーい!!」
職員たちによって廊下へ追い出される被害者の会。
あの人たちだって同じ血を飲んだだろうに、発病せず元気に運動している点には目をつぶっている。
喧騒が去ると、チホは顔を上げた。
血液型不適合説。
遺伝子組み換え血液説。
ロングライフ・ブラッド説(防腐剤)。
未知のウィルス説。
イトマキ症の原因と呼ばれるものはざっとこれくらいはあった。
チホの印象では、血液型不適合説が近いような気がしていた。
人間のほうに何か体質的な問題があって、たまたま飲んだ血液が合わなかった。
同じメーカーのプリンターでも、型番によって専用のインクが決まっていたりする。
適合しないインクを使っていると、プリンターは急に詰まったり壊れたりする。
チホはイトマキ症をそんなイメージで捉えていた。
「お騒がせして申し訳ございません……」
バレー部の高校一年生みたいな男の子がやってきた。
頭はスポーツ刈りで、背は高いが腰が細く、スーツのズボンがベルトで巾着みたいに絞られていた。
たぶん三十歳は超えている職員は、チホの相談は別室で行うのでついて来いという。
「本日は、大変立て込んでおりまして……」
チホは高校生みたいな三十歳に促されるまま、また一階まで降りた。
被害者の会がまだいないかびくびくしながら人々の間を抜け、センターの外へ出た。
別室は、隣の建物、協会本部にあるらしかった。
本部は中も古く、板張りの廊下がぎしぎし鳴って本当に田舎の中学校といった感じだ。
チホは校長室のような重厚な趣きの部屋へ通された。
「相談員が間もなく参りますので、今しばらくお待ちください」
職員が去ると、チホは黒革のソファーに腰かけた。
何か鹿の角がありそうな部屋だな……と思って見上げると黒々とした瞳と目が合ってびくっとした。
壁から大きな鹿の首が飛び出ていた。
これ、トナカイ?
壁には書も飾ってあった。
文字は「心」だろうか。
達筆すぎて、よくわからない。
廊下を歩く靴音が聞え、ドアが開いて相談員が入ってきた。
「お待たせしました。こんなところまでご足労そくろうをおかけしまして」
相談員は、小柄で背筋のぴしっとした、やや薄くなった銀髪がオールバックの男性だった。
見た目五十代後半から六十代前半といったところ。
ゴルフ焼けなのか、肌は小麦色だった。
とても平の相談員とは思えない雰囲気である。
名立たる企業の管理職を見てきたチホの目は、その男を本部長クラスと見積もった。
相談員は「キリコシ」と名乗った。
キリコシが、何となく立ち上がってしまったチホに、着席を勧めた。
「えーと……西機千穂さん、でしたね」
チホは、ファイルの頁を捲る相談員の手を見ていた。
金の指輪にハンコが彫ってあった。
カフスボタンも金だ。
チホの中でキリコシの階級が本部長から専務取締役に上がった。
指輪に彫られたハンコの名前は
「桐越」でも「切越」でもない。
「霧越」でも「錐越」でもない。
何故か「吉井」と読める。
「……ペアレンツさんがお二人とも発病されていますね。ご心配でしょう」
ファイルには、チホの資料が挟まっていた。
覗き見ると、フレンズ、ファミリー、グループ、パーティー、その他、の項目があり、ファミリーにレ点が入っていた。
事務処理上、吸血者は集団生活の形態によって、大きく四つに分けられていた。
協会の分類によると、理科斜架と蜘蛛網はファミリーの「ペアレンツ」にあたり、チホは「チルドレン」になる。
「あの……」
「最初に申し上げておかなければならないことがございます」
チホの声を遮るように、キリコシが喋り出した。
「わたくしども日本吸血者協会の始まりは、吸血者同士の助け合いを目的とした、互助会の連合組織でした。それが国際情勢の変化などもございまして、現在の規模にまで拡大したわけですが、本質はやはり互助会です」
「いえ、あの……」
「ですので、助け合う皆さまの暮らしのお手伝いをするのが本分でございまして、現在ご提供させて頂いている以上のことは」
キリコシは無念そうに目を閉じた。
「できないのが現状です」
「具体的なサービスと致しましては、血液供給と書類の作成及び手続代行、職場の斡旋あっせん。わたくしどもがご提供できるのは、この三つです」
キリコシはチホに話す隙を与えないかのように言葉を継いだ。
「ご窮状はお察し致しますが、わたくしどもにできることは非常に限られておりまして」
チホは、もう我慢できなかった。
「あの!」
あっ、とキリコシが叫んだ。
二人の間に横たわっていたテーブルの片側が目の高さまで持ち上がり、斜面をファイルや灰皿やライターが滑り出した。
キリコシが寸でのところで滑り落ちようとするライターをキャッチした。
「ごっ、ごめんなさい」と、チホが重厚なテーブルから手を離すとその脚が床に「ずどっどっ」と着地した。
もう少しで重いテーブルをひっくり返してしまうところだった。
「西機さんは……」
キリコシはライターと灰皿とファイルをテーブルの元の位置へ戻しながら言った。
「右手ですか?」
「はい……」
「ぼくは、ここです」
キリコシは銀色の頭髪を指さした。
「脳味噌が二つあるのです」
「えっ、マジですか?」
「冗談です」
チホがあっけに取られていると、デスクのほうでブザーが鳴った。
「吸血者ジョークですよ」
キリコシは、ちょっと失礼、と席を離れた。
デスクの上にインターフォンがあり、外部と話し始めた。
インターフォンの声が漏れてきた。
秘書だろうか、女性の声で(厚労省の……経団連の……お待ちですが)と聞えた。
「待たせておいてください」とキリコシ。
キリコシ。
霧輿。
今、わかった。
この人、理事長じゃん。
チホは協会から送られてくる書類に載っている署名を思い出した。
〈日本吸血者協会理事長・霧輿龍次郎〉────全国五万八千人の吸血者協会会員の頂点が、どうも目の前にいるらしかった。
何か自分のために厚労省と経団連を待たせていたようだったが。
「あの、今日はこれをはっきりお聞きしようと思って千葉からやってきたんですけど」
もう遠慮はいらない。
理事長直撃である。
「イトマキ症って、何なんですか? 調べても全然わからないし、こちらの窓口に電話しても詳しく教えてもらえないんですけど」
「それは大変ご迷惑をおかけしました」
「いや、謝るとかは必要ないので、説明してください。困ってるんです」
「わかりました。しかし、さて、どこからお話し致しましょうか」
霧輿理事長はわざとらしく、額に手を当てた。
「協会本部がイトマキ症の存在を把握したのは、1960年代のことです。何人かの吸血者が奇妙な症状を示している、という報告がありました。研究チームが組まれて、調査したのですが、これがよくわかりません。患者は糸でぐるぐる巻きになっているのですが、結局その糸は市販のものだったのです。おそらく精神的な病に違いない、いや、はっきり申し上げれば詐病だろう、ということになりました。以来、イトマキ症の話はぽつぽつとあったのですが、結論はすでに出ておりましたので、協会と致しましては、この件につきましてはタッチしない、という方針を取ってきました」
「それ、知っています。繭こもり、ですよね。仮病だったんでしょう?」
「ところが、です。近年、イトマキ症についてのご相談や問い合わせが急増致しまして、検討の結果、これは今までとは違う、新たな局面に入ったのだと認識致しました。現在、総力を挙げて、患者さんやご家族からの聞き取り調査、疫学的調査などを急ピッチで進めているところでありまして、この個別相談もその一環として行っているわけです」
「今流行はやっているのは、仮病じゃないですよ。同居人はわたしの目の前で糸吹いたんですから」
「ですから、新たな局面なのです」
「で、治るんですか?」
チホはまたテーブルの端を掴んで、ぐっと前へ身を乗り出した。
「治らないんですか?」
チホの剣幕に、げっ、現在、調査中です、と言いながら身をのけ反らせる霧輿。
「ていうか、このままほうっておいていいんですか? 入院とかさせなくても?」
「入院といいましても、一般の病院では難しいと思います。病気にかからないのが吸血者、というのがこれまでの常識ですからね。今回の事態で、その常識が破られてしまったわけで、協会と致しましても歴史始まって以来の」
「あの、聞いてください。これから、わたしの考えを言いますね」
「はい。お聞きしましょう」
今度は理事長が膝を乗り出した。
本気なのか演技なのか、わからないが真剣そうな表情だった。
「どうぞ、何でもおっしゃってください」
チホはもうわかっていた。
これは埒が明かない。
天下の理事長と話して、この有様なのだから。
もう言いたいことだけ言わせてもらおう。
「わたし、思うんですけど……病気じゃないんじゃないかな、これ。|繭《》って、あれでしょう? 昆虫の幼虫が成虫になるためにあるんですよね? 同じなんじゃないかな。繭の中には、吸血者のサナギみたいなやつが入っていて、時期が来ると、繭から成長した吸血者が出てくる、みたいな。あと、ほら、パソコンで更新てあるじゃないですか。更新している間はパソコン使えなくて、すごいイライラするんですけど。ちょうどあれと同じようなことが吸血者の体に起きているんじゃないのかなって」
霧輿は腕組みをして目を閉じて聞いている。
居眠りをしているようにも見える。
「そんなこと考えたんですけど……おかしいですか?」
「いいえ。ぼくも、そうだったらどんなにいいだろうか、と思いますよ」
ちゃんと聞いていたようだ。
「三尸虫というものをご存知ですか?」
霧輿は目を開けてチホを見据えた。
「さんしちゅう……」
「妖怪精螻蛄が操る蟲で、庚申待こうしんまちの夜に人の体から抜け出して閻魔大王にその人間の罪業を告げる、という想像上の生きものですが、吸血者の繭こそが、その三尸虫なのだそうです。つい先日も、ある相談者の方から道教の民間信仰とイトマキ症を結びつけた、そんなお説を賜りました」
チホは頭の中で思い浮かべた生物に×印をつけた。
それは昔、博物館で化石を見た「三葉虫」だった。
「イトマキ症を巡っては、誰もが答を求めてさまよっている……現在、協会は未曽有の混乱の中にあるのです……」
またブザーが鳴った。
「大丈夫です。お気になさらずに、お話をつづけてください」
「もういいです。お忙しそうだし」
チホは立ち上がった。
お力になれずすいません、と頭を下げる霧輿。
組織の長がしばしば威厳のある人物なのは謝罪が様になるからである。
チホが社会人経験で得た自論だ。
「あの、最後に一つ質問」
「はい。何でしょうか?」
やや表情を和なごませていた霧輿が真顔に戻った。
「あの字は『心』ですよね?」
チホは壁に飾ってある書を指さした。
「あれですか。残念ながら、心ではありません」
霧輿は悪戯いたずらっぽい笑みを浮かべた。
「さて、何でしょう?」
「何だろう……じゃあ『犬』」
「血です」
ほほ笑む霧輿。
「『血』? ……全然読めない」
「字ではありません。ただの血です」
「え?」
「刀で斬られた人間の|血飛沫《》ですよ」
「まさか……」
「坂本龍馬君の血です。中岡慎太郎君の血も混じっているかもしれませんが」
チホは、ポカーンである。
このおじさん、何を言っているんだろうか。
「あれは、二人が暗殺された京都、近江屋の障子しょうじですよ」
「また吸血者ジョークですか」
「いいえ。この世の真実です」
そう言って霧輿は、また意味深にほほ笑むのだった。
チホは廊下で霧輿と別れた。
出口のほうへ歩いていくと地味なスーツの男三人組とすれ違った。
チホは道を譲って会釈したが、三人とも無反応だった。
厚労省と経団連に違いない。
しばらく歩くと、うしろのほうから何名かの笑い声が聞えた。
一つは、霧輿の声のようだった。
チホはそのまま帰ろうとしたが、例の高校生職員が追いかけてきた。
書類が入った封筒を渡された。
「こちら、民間の施設なのですが……」
封筒の中には、医療機関のパンフレットが入っていた。
鎌倉にあるイトマキ症専門の病院らしい。
ちゃんとあるじゃん。
でも、入院費が年間百五十万円から五百万円と書かれていた。
チホがもらった封筒をぶら下げてとぼとぼ歩いていると、アンパンマンのブロンズ像の前で世良彌堂せらみどうに声をかけられたのだった。
(つづく)
(注1)
近年協会が関与した主な作品としては、2021年公開のテレビアニメ『ぶらどらぶ』(英題「VLAD LOVE」)がある。ヒット作ではなかったが、これは半ば意図された結果でもある。協会としては、あまり大ヒットして吸血者に注目が集まっても困るのだ。吸血鬼が出てくる作品に低予算のB級作品が多い理由がこれである。『ぶらどらぶ』の原作・総監督は世界的にも有名な押井守氏だが、彼は吸血者ではない。実は、押井氏の娘の配偶者の作家が……いや、これ以上は語るまい。
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