今日もその手を…

榊󠄀ダダ

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第3章

第32話 綺麗ごと

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「うっ……うっ……あ……」


 波の上を漂うような気持ちよさに、抵抗する気を全く無くした私は完全に身を任せた。


 ビクッ……


「全部一緒にしてあげるね」


 そう言って三ツ矢先輩はまた両方の乳首をいじりながら、舌の動きにもさらにいやらしさを加えた。


 ジェットコースターが上り詰めるように快感がじわじわとピークに近づいていく……


「……先輩っ!私……うっ……」

「イきそう?見ててあげるからイっちゃいなよ」

 さらりとした冷たさに胸は痛むのに、なぜか体はむしろ火照る。


 指も舌も動きは変わらず、スピードだけが絶妙にギアをあげていく。


 もう無理だった……


「せ、せんぱい……ほんとに……イっ、イっちゃいます……!!」

「うん。見てる……」

「あッ、あッ、あッ……三ツ矢先輩っ!!」



 
***
      

 
「はぁ……はぁ……はぁ……」


 初めて人にされて達した感覚は、一人でするものとはまるで別次元に違うものだった……。静かな更衣室に自分のいやらしい息づかいが響いている。恥ずかしいのに苦しくてなかなか収まらない。

「茅野さんてめちゃくちゃ感じやすいんだね。初めてでイっちゃうなんて」

「……普通はそんなにすぐイかないものですか……?」

 
 さっきまで欲を第一優先して何もかもがどうでもよくなっていたはずなのに、羞恥心はすっかり通常モードに戻った。質問を投げかけるとすぐに私は手を伸ばしてだらしなく放り出されたズボンを回収した。素早く足を通し、ズレたブラジャーを整えて、両腕で上半身を出来るだけ隠す。


「まぁ実際よく分かんないけど、初めてってもっと素直に感じられないんじゃないかなーって思って」


 私の質問に適当な答えで返しながら、三ツ矢先輩は開きっぱなしの私のロッカーの中から勝手にシャツを取り出し、肩にそっと掛けてくれた。
 

 そんな小さな優しさで私の胸はまた締めつけられる……。


「そんなこと言われたら、 ……なんか私が特別えっちみたいじゃないですか……」


 少し不機嫌を表に出して平静を装った。


「えっちみたいってゆうか、完全にえっちでしょ」

「えっちじゃないですっ!」

「えっちじゃなかったらあんなこと言わないよ。『 先輩の舌下さい』とかさ」


 三ツ矢先輩は思い出し笑いをしながらそう言った。


 それを見ていたら、三ツ矢先輩を想う気持ちを馬鹿にされたみたいで悲しくなった。振り向いてもらえなくてもいい……。でも、私の真剣な気持ちをからかわないで欲しい……。


 でも、泣かないって約束したから先輩の前で泣くことは出来ない……。また、『泣くならもうこうゆうことはしない』って言われてしまう……


 
 泣きそうになっていることがバレないように、せめてもと下を向く。


 すると、次の瞬間、私の体はふわっと柔らかく包まれた。


 先輩の体だ……火傷しそうなほどすごく熱い体温を背中で感じる……


「ごめん。今のは私が悪かった。 泣かしちゃうようなこと言った……」


 耳元で静かに、素直な反省の言葉を言う。


 そんな先輩の行動に、堪えていた涙が逆に溢れ出す。私は言葉を口に出来ず、ただ首を横に振った。


「大丈夫だよ、私からはもうしないなんてこれ以上言わない。茅野さんのこと、大切にはしてあげられないけど、それでもいいなら、したい時はいつでもしてあげる」


『それでもいい』と断言したはずなのに、それ以上のものを求めてしまう。


 でも、それだけは言っちゃいけない。
 言葉には出来ない思いを、先輩のシャツの裾を引っ張ることで示した。


 優しくしてくれたかと思ったら、数秒後にはそれはただの勘違いだと思わせるのが三ツ矢先輩。シャツにしがみつく私をそっと離して、


「じゃあ、明日はゆっくり休みなね」


 と、背中を向けて手際よく着替え始めた。


「…………はい」



 これで本当によかったのか不安になりながらも、
後戻りの出来ない私はその道を選ぶしかなかった。



 先輩の後を追い、私ももっとゆっくりとしたペースで着替え始める。



 さっきのことが嘘のように会話がない。



 私がスカートに足を通す時には、先輩はもうロッカーの鍵閉めていた。


 
 もう帰っちゃう……
 そしたらまた明後日まで会えなくなる……。



「じゃあ悪いけど先帰るね、お疲れさま」



 まるで、さっきのあの出来事も仕事の一環のような口調でそう言うと、三ツ矢先輩は振り向きもせずに更衣室を出ていった。



「お疲れさまです……」

 

 私の声が届いたのか届いてないのか分からないようなタイミングで、更衣室の扉が無情に閉まる。


「はぁ……」


 一人残された更衣室で惨めに着替えながら心からの溜め息をついた。



 その時、



 ガタッ……




 私がいるロッカーの一列後ろ辺りから物音が聞こえた。着替える手を止めて様子を伺う。



 すると……



「やっぱりね。あすみちゃんの好きな人って三ツ矢先輩だったんだね……」



 ロッカーの陰から、私を刺すような視線で見つめる智鶴ちゃんが現れた。



 後ろめたさに、袖を通しただけのシャツの胸元を右手で握って閉じる。



「あっ……あの……智鶴ちゃん……その……ごめんね……」

「別に謝ることないって。言わなきゃいけないルールなんてないんだし」


 そう話す智鶴ちゃんの口調はいつもとは違った。


「……智鶴ちゃん、ずっと更衣室にいたの……?」

「うん。騙すようなことしたのはごめんね。 でも、あすみちゃんの気持ち、こうでもしないと知れないと思ったから……。三ツ矢先輩と二人きりにしたら何か分かるかなと思ったんだけどまさか二人がここまで進んでるなんて思わなかったよ」


 私は何も言えずに立ち尽くすだけだった。


「あすみちゃんてほんと可愛いいよね。好きだからって思いが叶わなくても初めてを捧げちゃうなんて。そりゃあ三ツ矢先輩も喜ぶよね、羨ましいなぁ、綺麗な体で……とは価値が違うもんなぁー」

「私はただ……」

「ねぇあすみちゃん教えて?三ツ矢先輩のどこが好きなの?」

「それは……」

「いつから好きになったの?」

「あ、あの……」

「どうして好きになったの?」

「私……私は……」



 ガシャンッ……



 人間が入れ替わったようにあきらかに雰囲気の違う智鶴ちゃんは、返事を待たずに強い力で私をロッカーに押さえつけた。


「ち、智鶴ちゃんっ!?……」


 逃れようとすると、私の両腕を握る智鶴ちゃんの
手が更にきつく締まった。


「私が教えてあげる。あすみちゃんはね、三ツ矢先輩を好きなわけじゃないの。あすみちゃんはピュアだから、私と三ツ矢先輩がこの更衣室でしてたことを間近見て、それにドキドキしたことを好きだって勘違いしちゃっただけ。それがたまたま三ツ矢先輩だっただけで、本当は三ツ矢先輩じゃなくてもいいの」


 智鶴ちゃんは私の目を睨み付けるように言った。


「あすみちゃんてさ、本当は誰かと付き合ったこと一度もないでしょ?すぐ女の子に手出す三ツ矢先輩に気まぐれにキスされて、その気になっちゃった?いるんだよねー、レズでもないくせに、一時的に遊び半分でその気になる女」

「違うよ!そんなんじゃない!」


 偽物の恋と言われて黙っていられなかった。睨む目の奥をまっすぐに見る。


「へーそう?」


 すると智鶴ちゃんは、そんな私を鼻で笑い、シャツの胸元を握っていた私の手を強引に外し、ブラジャーを剥いだ。


 ピチャッピチャッピチャッ……

 
「っアァッ!!」


 間髪入れずに、智鶴ちゃんは私の乳首をねっとりとしたいやらしい舌使いで舐めはじめた。


「すごい大きい声出してくれるんだね?ねぇ、私もあすみちゃんのこと気持ちよくしてあげるよ。そしたらあすみちゃん、今度は私のこと好きになるかも……」

「智鶴ちゃん……お願い……やめて……」

  

 私は震えていた。
 心を無視して体が勝手に反応することへ、耐えがたい嫌悪感と不快感が大きな渦になって立ち上る。


「どうして?ほら、気持ちいいでしょ?もうこんなに乳首立っちゃってるよ?」

「……や、やめてぇ!!」


 智鶴ちゃんの体を力いっぱい押しのけたけど、非力な私はその反動でまた押さえつけられてしまった。


 智鶴ちゃんが私のスカートの中へ左手を滑り込ませる。


「自慢じゃないけど私も結構上手いんだよ?あすみちゃん、私の指も気に入ってくれるかも……」


 智鶴ちゃんの指先が三ツ矢先輩に舐めてもらった場所をいじり始めた時、同時に智鶴ちゃんは顔を近づけてきて、唇が触れそうになった。



 いやだ……



 三ツ矢先輩とじゃないと絶対嫌だ……!!




 ガシャンッ!!




 自分でも驚く程の力で、私は智鶴ちゃんを突き飛ばしてしまった。向かいのロッカーに衝突した後、
智鶴ちゃんは床に倒れこんだ。ハッとして慌てて駆け寄る。


「ごめん!ごめんね!」


 乱れたシャツをまた手で抑えながら智鶴ちゃんを覗きこんだ。


「………あすみちゃん……本当に 三ツ矢先輩のこと本当に好きなんだ……」

「……ごめんなさい……智鶴ちゃんを騙そうとしたわけじゃないの……。自分でも……ついていけないくらい、側にいたらどんどん三矢先輩が自分の中に入ってきて……止められなかった……」

「あすみちゃん……私たちって友達かな……?」

「……友達だよ」

「そうだよね。私も、あすみちゃんのことはただの同僚じゃなくて友達だって思ってたんだ」

「………うん」

「だから、今からもう友達やめよう」

「……え………?」

「同じ人を好きになって、友達も何もないでしょ?そんなの綺麗ごとだよ」

「でも………」

「じゃああすみちゃん、『友達』の私のために三ツ矢先輩のこと諦めてくれる?」

「……それは……」

「ね?出来ないでしょ?私も同じ。私もそんなこと出来ない。だからさ、友達やめよう……」


 そう言うと、智鶴ちゃんはその場からすくっと立ち上がった。


「お互い何しても関係ない。後ろめたくなんて思わなくていいよ」



 私は座り込んだまま、一点を見つめていた。


「酷いことしてごめんね……」


 そう言って出て行った智鶴ちゃんが最後に見せたのは、とても悲しそうな横顔だった。












 





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