今日もその手を…

榊󠄀ダダ

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第3章

第36話 撤回

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 私がシートベルトをするとすぐに、三ツ矢先輩はアクセルを踏んで車を走らせた。こっちに視線を向けるわけじゃないけど、何かを言いたげな雰囲気が伝わってくる。


「どうしたんですか?」

「何が?」

「私が中谷さんと何を話してたか気になってるんでしょ?」

「戻って来るの遅かったから、普通になんかあったかと思っただけだよ」

「今日の配達、あともう2軒だけで全然余裕ありますよね?どうして時間がないなんて嘘をついたんですか?中谷さんに」


 三ツ矢先輩は黙って何も答えない。いつも平常心な三ツ矢先輩が、中谷さんの話題になっただけでどこかおかしい。なんだかすごく癪に障った。


「三ツ矢先輩、もしかしてあの人と何かあったんですか?」

「……別に何もない」

「あの人、なんかえっちな感じでしたよ?思いっきり肌を見せるとかじゃないけど、誘ってるって思わせても仕方ないような着こなしっていうか……。あれって、三ツ矢先輩が来ると思ったからなんですかね?」


 三ツ矢先輩は私の言葉で、鮮明なあの人の姿を想像した様子で、大きく息を吸い、自分を落ち着かせる様にまたゆっくりと息を吐いた。


 あの日、更衣室で私のことを心なく力任せに抱いた三ツ矢先輩は今、触れてもいない頭の中だけのあの人に欲情している……。一つしか開けていなかった私のユニフォームのシャツのボタンが三つ目まで開いて、胸の谷間がもろに見えていることには、微塵も気づきもしないくせに……。


 許せない……


「私行ってくるからここで待ってて」


 次のマンションに着くと人通りの少ない敷地に車を止め、三ツ矢先輩は私の方を全く見ることなく運転席のドアに右手をかけた。私は、そのまま出ていこうとする先輩の左腕を掴み強く自分の方へと引っ張った。


「ちょ、ちょっとっ!」


 その勢いで運転席へ深く沈んだ三ツ矢先輩は、やっとこっちを振り返って、やっと私を見つめてくれた。そして、その視線はすぐに少し下へと移った。


「胸元のボタンめっちゃ外れてるよ?」

「今さら気づいたんですか?朝はすぐ気づいてくれたのに。三ツ矢先輩って、中谷さんのこと考えてると回りなんか何にも見えなくなっちゃうんですね」


 何も言わないまま、視線もそらさない。


「ねぇ、三ツ矢先輩、私が隣にいるんです。もっと私のことを見て下さい。あの人のことなんかもう考えないで……」


 その目をじっと見つめたまま、私は捕まえた左手を開いた胸元の中へゆっくりと差し込んだ。あの人のことを想像しただけで呼吸を乱した三ツ矢先輩は、そんな状態でも瞳孔すら動かない。囚われた自分の左の手の行き先をまるで他人事のように見届けている。


 悔しくなった私は、ブラジャーの中にまで無理矢理導き、強制的に自分の胸を触らせた。動かない指先が一番感じる部分に当たると、私の体は自動的にビクッと反応した。

 
 それだけでもっと欲しくなってしまいそれを目で訴える。だけど、それでも三ツ矢先輩は、冷たい目をして観察するように私を見ていた。恥も情けなさも無視して、私は負けたくない気持ちでこみ上げる感情を押し殺し、その瞳の奥をじっと見つめ続けた。


「こうゆうことはしないんじゃなかったの?つい数時間前まで最もらしく豪語してたけど」


 言葉も視線と同じくらい冷たい。


 血の通わない物のような左手は私の胸の上にただ覆い被さるだけで、欲望の欠片すら宿っていない。それなのに、私だけがまるで目だけで体ごと犯されてるように感じていた。


「……だって……だって……三ツ矢先輩が………」


 真っ当な言い分になるようなことなんか何もないのに、先輩のせいにしようとしたその時、電池の切れていた三ツ矢先輩の中指が、私の乳首の上でグニグニと小さな弧を描き始めた。


「あっ……!!」


 その障碍に耐えられず、私の背中は助手席の背もたれから反発して離れた。



「そんなに私にして欲しいの?」

「………して欲しい……先輩が……欲しいです……」

「結局我慢出来ないんだね。あんなにきっぱり体より心って言ってたのに。ほんと呆れるよ」

「……だって……だって………」


「ほらすぐ言い訳しようとする」


 三ツ矢先輩は落ち着いた声で冷静に説教を続けた。だけど、左手だけはどんどん情熱的になってゆく。


「……もうすごい固くなってるじゃん、智鶴のここ」

「んんっ………」


 名前を呼ばれてさらに感じる。


「……だって……そんなにえっちに触るから……」

「触らせたのは智鶴じゃん。智鶴がえっちな体なだけでしょ」

「……こうゆう時だけすごい名前呼ぶ……」

「だって、その方が気持ちいいだろうから」

「……気持ちいぃ……先輩……私……すごく気持ちよくて、もうすごい濡れてる……確かめて下さい……」


 私は左の胸を三ツ矢先輩に征服されながら、自分でベルトを外しズボンを下ろした。


「智鶴ってされたい側のくせにだいぶ積極的だよね。そうゆうとこは悪くないと思うよ?」


 世間話のように淡々と話しながら、三ツ矢先輩はあいている右手の指をパンツの脇から中へ侵入させてきた。


「はぁ………はぁ………」


 まだ触られていないのに、興奮で体が熱を帯び、息苦しい……


「ほんとだ。すごい濡れてる。乳首だけじゃなくて、こっちも固くなってる」


 中には入れず、固くなった部分を愛でるように優しく撫で続ける。同時に2箇所をいじられて、私は思考がままならないほどに気持ちよくなっていた。すると、そんな中、三ツ矢先輩は胸を刺激していた左手をシャツの中から抜いてしまった。


「あっ!やだ!三ツ矢先輩!一緒にして欲しいよぉ!」


 突如やめられてしまった私は素直に懇願した。


「違うよ、この方がよくない?」


 そう言うと、三ツ矢先輩は私のシャツを下からやくりあげ、今度は右の胸を露わにさせた。


「あっ……」

「なに?まだ何もしてないのに」


 今からされることを想像して、先に声が出た。三ツ矢先輩の意地悪な顔をぼうっと見ていると、先輩は私の右のおっぱいを出して左手で鷲掴みにしながら、すぼんだその先をしゃぶるように舐め始めた。


「あッ………三ツ矢せんぱ……い…… すごい……すごい気持ちいぃよぉ……」

「ね?こっちの方がいいよね」


 同意を求められたけど、もうちゃんと返事をする余裕はなかった。私の耳には恥ずかしいほどの自分の喘ぎ声が聞こえ続けていた。その間も、先輩の舌は乳首の回りを何度も何度も繰り返し回る。それに同調して、パンツの中で動く指も膨れた部分を絶妙な力加減で撫で回すように動いている……


「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ………」


 小刻みに延々に、快感が私を襲い続けていた。私は体を反らせてながら存分にその快感に溺れていた。言動とは正反対に、大切に私の一部分を舐めてくれている三ツ矢先輩を見てると、愛しくて堪らなくなり胸がはちきれそうになった。


「入れて欲しいでしょ?」


 舐めることはやめずき横目で私を見上げて言う。いやらしく動き続ける舌がよく見えて、血が上るようにもっと感じる。


「うん……三ツ矢先輩の指……中でも感じたい………」

「だよね。すごい欲しそうなそ顔してる。でもダメだよ、入れてあげない」

「……どうして?!せんぱい……おねがい……おねがいだから入れてよぉ………」

 
 我慢出来ず腰を振りながら頼んだ。


「そんなに欲しがってもダメ。智鶴はもう少し、我慢すること覚えた方がいいよ。自分勝手過ぎるから」

「先輩の方か自分勝手だよ!こんなにさせといて……!」


 与えてもらえない苦しさで泣きが入る。


「ほらまた言い訳するし」

「だって……今すごく気持ちぃのに……」

「ダメ。今日は絶対に入れない。これだけで我慢しな」


 三ツ矢先輩は本当に中には入れてくれず、そのまま固くなりすぎた乳首と、はちきれそうに膨れた部分だけで私を感じさせ続けた。


「あっ……きっ、きもちぃ………もぉだめ……せんぱい……き……きもちぃ……」

「もしかしてイきそうなの?」

「そのままそれされ続けたら……イっちゃう……」


 私がそう言うと、三ツ矢先輩はいきなり舌と指の動きをわざとゆっくりにした。すでにこれ以上ないほどにぷっくりとした二つの突起は、その遅すぎるほどの動きにヒクヒクと反応しながら限界点へと近づいて行く。もう自分の体は自分のものじゃないみたいだった。体中が鳴いているように、ひきつけを起こしている。


 だめ……ゆっくりでも……もぅイっちゃう……


 その時、再び息を吹き返したように突然舌と指が激しい動きへと変わった。


「あ……すごい、まだ固くなれるんだね……」


 三ツ矢先輩の言葉には感情なんてまるでないのに、それを分かりながらその声に体の芯までを締め付けられ、もっともっと気持ちよくなっていく。


「もぅ……本当にだめ……我慢……出来ない……三ツ矢せんぱ……い………」

「我慢しなくていいからイきなよ」


 グチュグチュグチュグチュ………


「そんなに音立てないで下さい……」

「恥ずかしめられるの好きそうじゃん。嫌い?」

「……好き……だけど……」

「じゃあもっとしようよ」


 グチュグチュグチュグチュ…


 三ツ矢先輩は半ば面白がるようにして更に大きな音を私に聞かせた。そんな仕打ちにちゃんと傷ついてる自分もいるのに、目の前の非道な三ツ矢先輩を私は力いっぱい抱きしめた。


「……イっ……イっちゃう………」

「うん……イって……」

「……ああッ!!!」



***


「じゃあ行ってくるから」


 私が絶頂してしまうと、三ツ矢先輩はスッとすべての動きを止めて私の体を引き剥がし、何の余韻もなくそう言った。


「はい……」


 息の上がる声で返事をすると、先輩は即座に運転席から降り、荷台から荷物を取り出してそれを小脇に抱え走っていった。



 私は一人静まった車の中で身なりを整え、シャツのボタンを戻し、眼鏡をかけた。しばらくして戻ってきた三ツ矢先輩は、


「あ、また真面目モードに戻ってる。 忙しいな」


 と笑った。


 すべての配達を終え、車は営業所に向かっていた。


 もっと上手くやるはずだった。こんな、計画性のない欲にかられた行動を起こすつもりなんてなかった。


 だけど、私には解っていた。


 感情なんて簡単にコントロールしてきた私にも、三ツ矢先輩に対する想いだけは、どうすることも出来ないということを。考えていた計画なんて、三ツ矢先輩を前にしてしまえば、なんの意味も成さなくなる。それ程までに私は、もうすっかり三ツ矢先輩に心を奪われている。


「今日はこれで終わり!一日お疲れさま!」


 営業所に着き解散する時、三ツ矢先輩は今日一番の嬉しそうな顔をした。それが何より憎らしかった。まるで、面倒なヤツからようやく解放され、喜びが隠しきれないみたいだ。


「ねー、ねー、三ツ矢先輩!この後二人でどこかに飲みにいきません?」

「行かない」

「……どうせそう言うと思ってました」


 今日一日一緒に過ごす前までは、三ツ矢先輩のさらりとした言葉にめげず、打たれても打たれても前へ進もう!と思えていた。だけど今日、三ツ矢先輩の中に『中谷さん』という不動な存在を見つけてしまって、単純に進むだけでは何もならないと思い知らされた。自分からせがんであぁゆうことはしてもらったけど、ただしてもらっただけ……。今さらの虚しさが全身を纏う。


「珍しく諦め早いね」

「粘ったらどうにかなりますか?」

「絶対なんない」

「むかつく!」

「ハハハ!じゃ、本当にお疲れ!今日はしっかり働いてくれてほんと助かった!ありがとね!」


 本気でむかついている私を置いて、三ツ矢先輩は爽やかにお礼を言って去っていった。


 やっぱりこのままじゃ物足りなくてしばらく勝手に更衣室で待っていたけど、三ツ矢先輩は一向に戻ってはこなかった。


 仕方なく一応着替えを済ませ、荷物を持って更衣室を出るともう一度事務所を覗いた。すぐにその姿を見つけることは出来たけど、三ツ矢先輩は事務の女の人と終わる兆しのない長話をしていた。


 お世辞にもとても綺麗だとは言えないその女の人にすら、もしかして三ツ矢先輩は下心を持って接しているんじゃないかと嫉妬をした。


「あ、深沢さんだ!お疲れ様!」
「ほんとだ!お疲れさまー!」


 戻ってきたドライバーさんたちが次々と私に気づき、声をかけてくる。


「あ……お疲れ様です!」


 流石に気まずくなり、楽しそうに笑っている三ツ矢先輩を横目で睨みながら私は営業所を後にした。





















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