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第5章
第61話 手がかり
しおりを挟む「そ……そうです!!お知り合いなんですか!?」
わずかな間も待っていられず前のめりになって必聞き返すと、その人は警備員や受付の人たちに話をつけて、私をエントランスの隅にあったベンチに座らせてくれた。
「中谷さんの友達なの?」
「……友達っていうか……あの、でも本当に怪しいものじゃなくて……」
「大丈夫だよ、私は別に怪しんで聞いてる 訳じゃないから。ごめんね、嫌な思いしたでしょ?うちの会社って防犯にかなり力入れてるの。受付の人達もマニュアルに従って対応してただけだから許してあげて」
「……そうなんですね。確かに、よく素性も分からない人間を、普通だったら大事な社員さんに簡単に取り次いだりなんかしないですよね。焦ってたので私こそご迷惑をおかけして……」
落ち込む私にその人は『まぁもう過ぎたことだから!』と言って、あっけらかんとした笑顔で励ましてくれた。
「 私、中谷さんと同期で同じ第一営業部の吉井って言うの」
「吉井さん!先ほどは本当にありがとうございました!遅れました、私は三ツ矢って言います。中谷さんとは、友達というのは少しおこがましいけど知り合いで……でもある日、突然連絡が取れなくなってしまって、それで探してたんです……」
「……そっか……」
吉井さんは私の話を聞くと、いきなり悲しそうな受け答えをした。
「あの……中谷さんは今、お仕事中ですか……?」
「……中谷さんね、今はここにいないの」
「外出中なんですか?」
「……ううん。もう三ヶ月以上前になるけど、海外に赴任になって、今はシンガポールの支社にいる」
「……シンガポール?!」
私は頭が真っ白になった。
「多分、最低でも二年は日本に戻らないと思う。戻ってきてもきっとまたすぐに別の海外支社に移るだけで……。中谷さん仕事出来たから上の人に大抜擢されてね、少し悩んでたみたいだけど、結局覚悟決めてそっちの方面でやってくって決めたみたい。聞いてなかったんだね……?」
「……はい……知りませんでした……」
あの人は、この広い日本のどこにもいなかった。
私が探しても探しても見つかるはずのない、海外へ旅立った。
もうとっくに私のことなんて踏ん切りをつけてたんだ。
どっかでまだ信じていた……
今もまだあの人は私を思い続けてくれてると。
忘れられないでいたのは私だけだった。
その日からは魂が抜けたようにただただ仕事をした。明るく振る舞うことも、喋ることもしたくなくなって回りの人達はとても心配してくれたけど、私はその気遣いすら鬱陶しく感じてしまっていた。
智鶴は相変わらず、時おり更衣室で待ち伏せたり、営業所の外で声をかけてきたり、一向に諦めた様子を見せなかった。時には、もういい加減にしてくれと強めにぶつけることもあったけど、中谷さんがどこかへ引っ越したことをどこかから耳にしたようで、それをチャンスと思ったのか、懲りずにくっついて回ってきた。
だけど私は、いくら迫ってこられようと、以前のようにそれに乗っかるようなことはもうしなかった。皮肉なことに、あの人を失って空っぽになった私を支えているのは、いなくなったあの人への想いだった。
週末、その日は普段と比べて荷物がかなり多く、営業所に戻るのがかなり遅い時間になってしまった。泥のように疲れて更衣室の扉を開けた瞬間、
「お疲れ様です……」
「お……お疲れ様」
そこには茅野さんがいた。まさか、今さらまた茅野さんまで?と面倒な気持ちが表れ、苦い顔をしてしまった。
「あのっ!そういうんじゃないですから!三ツ矢先輩を待ってはいましたけど、先輩が思ってるようなことじゃなくて!」
何も言わずして私の心情を察した茅野さんは、瞬時に弁明を始めたかと思ったら、次はバッグの中から何かを取り出して私に渡してきた。
「昨日、部屋のベッドを動かした時に見つけたんです。きっとあの夜、三ツ矢先輩が家に泊まっていった時に落としていったんだと思って。ぐしゃぐしゃになってたから、もう必要ないのかもしれないけど、それでも、私が捨ててしまうのは違うと思って……」
茅野さんの言っていることは全く理解出来なかった。とにかく私はその丸められた紙を開いてみた。
【三ツ矢さんへ。どうか、最後にもう一度だけお話をさせてもらえませんか?
080-*2*3-6**9
これは私の番号です。今週の日曜日、24時まで連絡を待ってます。もしそれまでに電話がこなかったら、今度こそ本当に諦めます。だけど、もしたった少しでも可能性があるなら電話を下さい。
中谷 】
「……なにこれ」
喉の奥からかすれた震えた声が出た。
自分宛てに書かれたらしきそのメモは、走り書きながらもあの人の真剣な想いが滲み出ていた。
意味が分からない……
私はこんなもの、見たことがない。
どうしてこれが茅野さんの家に?
茅野さんが持ってたならわざわざこんな回りくどいことをするはずない。
あの夜のことを思い出して考えた。
あの夜、茅野さんの家にいたもう一人は……智鶴だ……。もしかして、智鶴がこれを持ってた?
だとしても、どうして……
その時、私はまた思い出した。
あの人の所へ智鶴を配達にやった時、智鶴は帰ってくるのが異様に遅かった。もしかして、あの時……?
考えごとにふけり、そのメモを握りしめ続けていた私に茅野さんが声をかけてきた。
「……三ツ矢先輩、大丈夫ですか……?」
「……うん」
「……じゃあ……私の用はそれだけですから。お先に失礼します」
ガチャ……
茅野さんが出て行く直前、私は彼女を呼び止めた。
「茅野さん!」
「はい?」
「わざわざありがとう……」
「いえ。お疲れ様です」
バタンッ
智鶴があの人から渡されたメモを私に渡さなかったことを許せなかった。だけど、今はそれよりも、
あの人へ繋がる新たな道を見つけた喜びに浸っていた。ただ問題は、この番号が海外へも繋がるような契約になっているかだ……。
あの人はきっと何も疑わず、私が自分に繋がる番号を知っていると思っている。それなら、提示した期限が例え過ぎても、私からの連絡を今もまだ待ってくれているかもしれない。私の中の希望の灯火はまだ消えていなかった。
ぐしゃぐしゃになったそのメモを大切にバッグにしまい、更衣室を出た。
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