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第3章 恵里花のスーツケースの中身は?
015★習っていないのに、得体の知れない魔法が使えました
しおりを挟む恵里花が無意識に怪しい厨二病思考に埋没し、スーツケースを撫でている時、その現象は起こった。
そう、まさに何時の間にかという状態で、スーツケースやリュックサック、ショルダーバックにウエストポーチまでが、何故か2つになっていたのだ。
どうやら、恵里花は無意識に魔法を使ったらしい。
ぼんやりしていた恵里花と違って、神官や魔法使い達にオスカー達は、その異様な魔法に驚いていた。
その為に、彼らは、ただ、黙って、恵里花を見ていた。
一方の恵里花はというと、まだ思考の海に浸かっていたので、その視線に気が付くことは無かった。
〔いやだわぁ~…本当に……
使ったら終わりなんて、当たり前のコトなのに
なに、恥ずかしいことを考えていたのかしら…
じゃなくて、早く蜂蜜やお砂糖を溶かす為の
ワイン樽を確認しないと………〕
恵里花は自分がやるべきことをようやく思い出し、無意識にスーツケースから手を離して、ワインの空き樽の前に移動する。
そして、空き樽を覗き込んだ恵里花は、中が綺麗に乾いているのを確認した。
どうやら、中身を使い終わった後に、洗浄して天日干したらしい。
〔良かった……綺麗に管理されているから……
これなら、直ぐに使える状態だわ………〕
樽の中の状態を見た恵里花は、この中にお湯を入れて、蜂蜜と砂糖を溶かしたいと思った。
そして、オスカーが光りを作り出し、天井のライトに明かりを灯したことを無意識に思い出した。
その時には、無自覚で人差し指を空中に伸ばし、恵里花はくるくると指で螺旋を空間に描き…………。
スイッとそのまま、樽の中に指先を向けていた。
すると指先から、湯気の立つお湯が溢れ、樽の中に満たされていくのだった。
恵里花は、自分の指先から溢れるお湯に目を見張った。
〔なにこれ? えっとぉ~…もしかして…魔法?
恵里花ってば…チート能力をもらっていたの?
いや、でも、誰か(神様)に…夢とかで……
逢ったりとか……無かったはずけど……
でも…詠唱もしないで使えるって…便利ねぇ~
《聖女召還》って分類のネット小説
色々と読んだことあるけど………
《召還》された者は、本当に…
チートな能力や《魔力》を持っているのねぇ~
なんか…嬉しくなっちゃう…うふふ…
ここって…本当に…剣と魔法の世界なのねぇ…
って、コトは…《聖女》で《召還》なんだから
《浄化》とか《治癒》が使えるはず
良し…このお湯に…《治癒》をイメージして…
《魔力付与》してみようっと〕
恵里花は、意識して治癒魔法を付与してみた。
すると、お湯が柔らかい金色の輝きを放つ。
それを見た恵里花は、思った通りの魔法が使えたと確信したのだった。
〔うふふ…成功って感じね…
次は…この魔法で出したお湯に
蜂蜜と砂糖を溶かしてみましょうか?
たしか…先に熱いお湯を器に入れて
後から、お酒を入れる方が
香りが良いって何かで読んだしね
蜂蜜とお砂糖を溶かしたお湯に
こっちの世界のワインを先に入れて…
最後に…恵里花が持ってきた
ワインを入れればイイよね
とりあえず…試してみよう…〕
恵里花は何も考えずに、厨二病全開の思考で、思いついたことを次々と実行していく。
いや、深く考えることをこの時、拒否していただけなのだが………。
恵里花が、スーツケースから蜂蜜と砂糖とワインを、取り出す為に、自分の持ち物の群れに振り返ると………そこには。
スーツケースもリュックサックもショルダーバックもウェストポーチも、各2つ有ったのだ。
それを認識して、呆然と驚いている恵里花に、オスカーがやっとの思いで声を掛ける。
「姫君………その…貴女が使った魔法は
何というモノなんですか?」
オスカーからの問い掛けに、本人の意思を離れて、条件反射のように勝手に口が答える。
「えっ? 荷物が増えたのは、コピー………
じゃなくて…複写の魔法です…たぶん?」
恵里花の言葉に、オスカーは首を傾げながら、ゆっくりとひと言ひと言の言葉を復唱する。
「ふ・く・しゃの魔法?」
そんなオスカーの様子に気付く余裕の無い恵里花は、はたから見ると、動揺のカケラもないように見えていた。
なぜなら、淡々と質問に答えていたから…………。
「ええ、まったく同じモノを、作り出す魔法よ」
恵里花の言葉から、そういう魔法があると認識したオスカーは、そこを追求しなかった。
その代わりに、恵里花の体調を聞く。
「そうですか……
それで、魔法を使ってどうでしたか?
頭痛がする、吐き気がする、目眩がするとか
そういう症状はありませんか?」
オスカーの問いかけの意味もわからないまま、恵里花は感じたままを答える。
「う~ん…そうねぇ……ちょっと目眩したかな?
あと…カキ氷を食べたときに感じるような……
キンときた感じが…頭に…しましたね~…」
小首を傾げて答える恵里花に、オスカーは心配そうな表情で、更に問い掛ける。
「どこも、なんとも無いんですね」
そう確認された恵里花は、躊躇(ちゅうちょ)なく答える。
そして、現実逃避しながら言う。
「うん…大丈夫よ…ってコトで…
スーツケースの中にあるモノを
出したいんだけどぉ~…」
出しても良いかな?的な言葉に、オスカーはあっさりと答える。
「どうぞ」
オスカー達が、複写魔法にソコまで反応しないので恵里花は、自分が習ってもいない魔法が使えたことを、思考の片隅へと追いやった。
「良し、やってみますか」
独り言を言いながら恵里花はスーツケースの鍵を外して、ゆっくりと開けたのだった。
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