17 / 450
第3章 恵里花のスーツケースの中身は?
017★ホットワインは魅力的?
しおりを挟むひと口…口にしたら…あまりの美味しさに…つい…味わうこともなく飲み干して後悔する彼らに、視線でもう一杯と強請られて、オスカー達は困ってしまう。
そんな無言のやりとりをしながらも、彼らにとって得体の知れないゼリーを恵里花に進められるかもとしれないと思い、戦々恐々という表情を無意識で浮かべていた。
そんな彼らに、何も知らない恵里花は声を掛ける。
そう、まさか喉ごしツルリのぷるぷるエネルギーチャージを怖がっているとは、思ってもいなかったから…………。
「オスカーさん、床に寝ている神官様達と
魔法使い様達に、これを飲ませてください」
やっぱり、ソレは重症者に与えるモノだったかとオスカー達は思った。
が、自分達は飲む方ではなく与える方だからと、自分を叱責して恵里花の差し出すゼリー入りのコップを受け取った。
こうして、《魔力》枯渇を起こした神官及び魔法使い達は、騎士達により強制的にゼリーを食べさせられるコトになった。
どんなに嫌でも、彼らは、オスカー達に差し出されるゼリーを拒否することは出来なかった。
涙目で嫌そうにしている彼らに、自分達は食べる必要が無いので、にこやかに笑って騎士達が言う。
「姫君が、貴方達の為に、わざわざ用意した
異界渡りのエネルギーの入ったモノを
拒否するんですか?」
騎士達の嫌みったらしい言葉に、重症者は、涙目でギンッと音がしそうなほどの目つきでゼリーの乗ったスプーンを睨む。
が、口惜しそうに静かに口を開けるのだった。
1口2口とゼリーを口に含むと、重症者の顔色はどんどん良くなっていく。
その様子を見て恵里花もオスカー達も、神官や魔法使い達もほっとする。
こうして、恵里花の指示で命が助かった彼らは、これ以降恵里花を《聖女》として扱うのだった。
そんな彼等だが、つい空のコップ(逃避でグイッと飲んでしまったホットワインが入っていた)に、視線を落としてしまう。
その様子を見た恵里花が、オスカーに話し掛ける。
「オスカーさん、神官様達や魔法使い様達に
もう一杯ワインを飲ませた方が
良いんでしょうか?」
「そうですねぇ~………これから《結界》の
補修に駆り出されることを考えると…………
完全回復させるという意味を込めて
与えてもよろしいと思います
界渡りのアメを与えるよりは、安全かと」
〔あっ…やっぱり…アメはダメですか……
それじゃ、少しでも、回復できるなら……
せめてもう一杯飲ませておきたいな
あと、騎士様達にも………〕
「そうですね…だったら、あの場に居た
オスカーさん達を含む騎士様達も…
一杯飲んでおいた方がイイと思います」
恵里花の言葉に、《魔力》枯渇などで運ばれたり、連れて来られたりして者達が飲む、ホットワインをちょっと羨ましいと思っていたオスカーは、にっこりと笑う。
「では、姫君のお言葉に甘えて…………」
オスカーの言葉を聞いた者達は、嬉しさで自然と顔が綻んでいた。
室内にいた者達は恵里花を除いて、全員がホットワインを飲んだ。
その直後に、緑色の汚れを甲冑に付着させた騎士が静かなノックと共に入って来た。
拳を握った右手を曲げて胸の前に付けて、騎士はオスカーに報告した。
「副団長、神殿の中庭に出現した
緑魔を排除しました」
「ああ、マイケルか、緑魔なら
きちんと燃やし終えたか確認したか?」
「はい、サーチ(探査)で確認しました
種子も残っておりません」
「《魔石》は?」
「こちらに回収しております
予想していたサイズより大きかったので…
含有する《魔力》量は…多いと思います…」
マイケルは、自分の後ろに控えていた部下ドナルドに視線を向ける。
するとドナルドは、《魔石》を入れる特殊な防御を付与された袋からくすんだ緑色の《魔石》を取り出し、マイケルに差し出す。
それを受け取ったマイケルは、オスカーに差し出した。
くすんだ緑色の《魔石》を、恵里花は物珍しいというか好奇心一杯の表情で見詰めていた。
《魔石》を受け取ったオスカーは、恵里花に笑ってそれを差し出した。
「姫君は《魔石》を初めてご覧になるのでは?」
「ええ、初めてよ……ええとぉ《魔石》って
素手で触っても大丈夫なんですか?」
「大丈夫ですよ…《魔石》は、単に《魔力》を
凝縮して貯めているモノですから……
人間と違って…魔物は、余った《魔力》を
《魔石》に変換して体内に
留めておけるという能力を有しているんです
その《魔力》を使えるから
人間より強くなるんです
人間は余った《魔力》を
貯めておくことができませんから…………」
「ふぅ~んそうなの…
《魔力》を使い切った《魔石》に
人間が自分の《魔力》を貯めて
後でそれを使うことは出来ないの?」
「出来ますが…………」
「何か問題があるの?」
「姫君の手にしているぐらいの大きさがないと
我々の《魔力》を貯めることが出来ないんです
理由はわかりませんが…………
そして…《魔力》を注いだ人間以外は
その《魔力》を取り出せませんので…」
「う~ん確かに使い辛いですね……
ところで…皆さん戦って来たんですから…
ホットワインを飲みませんか?」
《魔石》を持ってきた者達にもと、優しい声をかけられ、思わず許可が欲しくて副団長・オスカーの顔を見る。
しっかり、眼力を込めて飲みたぁ~い飲みたぁ~いを送る。
その視線をはっきりと認識したオスカーは、1つ嘆息してから命じる。
「マイケル、お前が飲む前に
この辺りを警備している騎士全員に
交代で飲みに来るように指示しておけ」
その答えに、彼が獣人だったら、盛大に尻尾を振っていただろう、幻影の尻尾が恵里花には見えた。
〔えっとぉ~…そんなに嬉しいの?
幻のお尻尾が見えるんだけど………〕
そんなマイケルは、恵里花の視線に気付くことなく答える。
「はい、指示しておきます」
そして、マイケルは、一緒に報告に来た部下を連れて部屋を出て行ったのだった。
44
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます
かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~
【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】
奨励賞受賞
●聖女編●
いきなり召喚された上に、ババァ発言。
挙句、偽聖女だと。
確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。
だったら好きに生きさせてもらいます。
脱社畜!
ハッピースローライフ!
ご都合主義万歳!
ノリで生きて何が悪い!
●勇者編●
え?勇者?
うん?勇者?
そもそも召喚って何か知ってますか?
またやらかしたのかバカ王子ー!
●魔界編●
いきおくれって分かってるわー!
それよりも、クロを探しに魔界へ!
魔界という場所は……とてつもなかった
そしてクロはクロだった。
魔界でも見事になしてみせようスローライフ!
邪魔するなら排除します!
--------------
恋愛はスローペース
物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私が美女??美醜逆転世界に転移した私
鍋
恋愛
私の名前は如月美夕。
27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。
私は都内で独り暮らし。
風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。
転移した世界は美醜逆転??
こんな地味な丸顔が絶世の美女。
私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。
このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。
※ゆるゆるな設定です
※ご都合主義
※感想欄はほとんど公開してます。
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる