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第1章「夏」
2.入道雲センチメンタル(3)
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大地と力を合わせ、車の荷台にカプセルを積み込んだ。直径60センチはある球体だったが、思ったよりもずっと軽い。二人でも難なく持ち上げることができた。
「よし、さっそく開けてみるか!」
大地の目はきらきらと輝いている。
「まるでタイムカプセルみたいだね」
陽菜も目を輝かせながら頷いた。
ふふん、この二人ってばいい感じじゃない。思わずニヤリと笑みがこぼれる。
「よいしょっと」
陽菜がカプセルをしっかりと抑え込み、大地が慎重にカッターを入れていく。息の合った共同作業だ。中を見ると、タッパーや真空パックできっちりと密閉された機材がびっしりと詰まっていた。
「ねえ大地、これって何?」
「んにゃ、正直よく分からん。でもこの配線を見る限り……こいつがメインのコンピューターっぽいな」
大地が指さした先には、特に念入りに梱包された箱が鎮座していた。その側面からは大量のケーブルが飛び出し、他の機材へと繋がっている。隙間からケーブルが通る部分は、すべてボンドできれいに目止めされていた。随分と手の込んだ作りだ。
「よし、開けた!」
箱の中からは案の定、小型のコンピューターが姿を現した。泥まみれの外装とは対照的に、内部は驚くほどきれいだ。サビやカビで台無しになってしまった、なんてタイムカプセルにありがちな悲劇は免れたようだ。目に入ったのは、昨日取り付けられたばかりのような新品同様のUSBメモリ。
「おっ、ほとんど錆びてないな」
大地が慎重にUSBメモリを取り出し、端子をこっちに向けた。
「イエーイ! これでデータが読み出せるかもね!」
私は歓声を上げて陽菜とハイタッチを交わした。
その声に誘われたのか、羽合先生ものんびりとした様子でやって来た。「どうだい? うまくいってる?」
「当時の理科部の技術力、半端なかったんスねー。1、2回の試作じゃ絶対作れないっすよ、こんなの」
感心した様子の大地が、先生にUSBメモリを手渡す。先生もその端子をまじまじと見つめ、感心したように頷いた。
「そうだろうね。失敗に失敗を重ねて、やっとたどり着いた結果なんだろう」
大地がUSBメモリをパソコンに差し込むと、陽菜も画面に顔を寄せた。
映像は、ガタガタと揺れる屋上のシーンから始まったーー。男子生徒がカメラを覗き込み、念入りに最終チェックをしている。背後に見えるのは銀色に輝く天文ドーム。見慣れた光景だ。紛れもなく、私たちの高校の屋上だった。
再びガクンと大きく揺れた直後、カプセルはもう宙を舞っていた。ぐるぐると回転する不安定な映像の片隅に、一瞬だけ制服姿の理科部員たちが写り込む。見上げる空に向かって手を振る、10名ほどの生徒たち。その中に、弾けるような笑顔で手を振る少女の姿があった。
「お姉ちゃん……!」
思わず叫んでしまった。
「マジか。ちょっと戻してみよう!」
「お願い……」
大地が慌てて映像を少し戻す。私は画面に釘付けになって指差した。
「やっぱり……ここに映ってる! ねえ先生、ほら!」
「ああ、本当だ……」
先生は小さく呟くと、じっと画面を見つめた。私は興奮のあまり、思わず陽菜に抱きついた。
「きゃー! 信じられない! 陽菜ぁ!」
「澪、本当によかったね! 間違いなくこれは、6年前にお姉さんが打ち上げた気球なんだね」
そう言いながら、陽菜は私の頭をそっと撫でた。その瞳には、嬉し涙が光っている。
「じゃあ、続きを見てみようか」
大地がそう小声で提案し、再生ボタンをクリックした。
「よし、さっそく開けてみるか!」
大地の目はきらきらと輝いている。
「まるでタイムカプセルみたいだね」
陽菜も目を輝かせながら頷いた。
ふふん、この二人ってばいい感じじゃない。思わずニヤリと笑みがこぼれる。
「よいしょっと」
陽菜がカプセルをしっかりと抑え込み、大地が慎重にカッターを入れていく。息の合った共同作業だ。中を見ると、タッパーや真空パックできっちりと密閉された機材がびっしりと詰まっていた。
「ねえ大地、これって何?」
「んにゃ、正直よく分からん。でもこの配線を見る限り……こいつがメインのコンピューターっぽいな」
大地が指さした先には、特に念入りに梱包された箱が鎮座していた。その側面からは大量のケーブルが飛び出し、他の機材へと繋がっている。隙間からケーブルが通る部分は、すべてボンドできれいに目止めされていた。随分と手の込んだ作りだ。
「よし、開けた!」
箱の中からは案の定、小型のコンピューターが姿を現した。泥まみれの外装とは対照的に、内部は驚くほどきれいだ。サビやカビで台無しになってしまった、なんてタイムカプセルにありがちな悲劇は免れたようだ。目に入ったのは、昨日取り付けられたばかりのような新品同様のUSBメモリ。
「おっ、ほとんど錆びてないな」
大地が慎重にUSBメモリを取り出し、端子をこっちに向けた。
「イエーイ! これでデータが読み出せるかもね!」
私は歓声を上げて陽菜とハイタッチを交わした。
その声に誘われたのか、羽合先生ものんびりとした様子でやって来た。「どうだい? うまくいってる?」
「当時の理科部の技術力、半端なかったんスねー。1、2回の試作じゃ絶対作れないっすよ、こんなの」
感心した様子の大地が、先生にUSBメモリを手渡す。先生もその端子をまじまじと見つめ、感心したように頷いた。
「そうだろうね。失敗に失敗を重ねて、やっとたどり着いた結果なんだろう」
大地がUSBメモリをパソコンに差し込むと、陽菜も画面に顔を寄せた。
映像は、ガタガタと揺れる屋上のシーンから始まったーー。男子生徒がカメラを覗き込み、念入りに最終チェックをしている。背後に見えるのは銀色に輝く天文ドーム。見慣れた光景だ。紛れもなく、私たちの高校の屋上だった。
再びガクンと大きく揺れた直後、カプセルはもう宙を舞っていた。ぐるぐると回転する不安定な映像の片隅に、一瞬だけ制服姿の理科部員たちが写り込む。見上げる空に向かって手を振る、10名ほどの生徒たち。その中に、弾けるような笑顔で手を振る少女の姿があった。
「お姉ちゃん……!」
思わず叫んでしまった。
「マジか。ちょっと戻してみよう!」
「お願い……」
大地が慌てて映像を少し戻す。私は画面に釘付けになって指差した。
「やっぱり……ここに映ってる! ねえ先生、ほら!」
「ああ、本当だ……」
先生は小さく呟くと、じっと画面を見つめた。私は興奮のあまり、思わず陽菜に抱きついた。
「きゃー! 信じられない! 陽菜ぁ!」
「澪、本当によかったね! 間違いなくこれは、6年前にお姉さんが打ち上げた気球なんだね」
そう言いながら、陽菜は私の頭をそっと撫でた。その瞳には、嬉し涙が光っている。
「じゃあ、続きを見てみようか」
大地がそう小声で提案し、再生ボタンをクリックした。
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