愛しては、ならない

ペコリーヌ☆パフェ

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貴女との夜に①

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貴女に口付けるのは、もう何度目だろうか。


こんなに柔らかく、心も身体も甘く乱す物を、俺は他に知らない。


唇を塞いだ瞬間、彼女は身体を強張らせたが、髪を撫でながら唇を愛すると、小さな溜め息を漏らした。


だが、華奢な腕が懸命に胸を押し戻そうと闘っている。


俺は彼女の唇を舌で割ろうとするが、抵抗が強くてまだ叶わない。


石鹸とシャンプーの薫りが、俺をゾクリと酔わせる。



抵抗が出来なくなるまで抱き締めてやる――


腕に更に強く力を込めると、苦しそうに顔を歪め瞳を潤ませている。



――菊野……

貴女は、俺の義理の母であり、保護者であり、祐樹の実の母親で、悟志の妻――


悟志が貴女を心から愛して大切にしている事は端から見ていれば嫌という程分かる。


だが、俺も貴女を大切に思い、愛している。


愛するという事がどんな風なのか、俺はまだ理解していないのかも知れない。


だが、こんなにも貴女を欲しい。
理屈や常識をひっくり返し破壊したくなる程に。

間違った愛なのかも知れない。


俺が貴女を好きでいる事により、誰かが幸せになるだろうか?


否、誰も幸せになどならない。






――呼吸まで苦しそうだ。

俺は、そっと唇を離し彼女に息をさせてやる。


彼女は無心に息を吸い、そして咳き込む。


背中を擦ってやり、ようやく呼吸が整うが、腕の中からすり抜けようとしたので再び捕まえ、抱き上げる。


脚をばたつかせ、哀願するように俺を見詰めるが、その仕草は逆効果だと彼女は分かっているのだろうか?



こんな事をしている最中に悟志が帰ってきたりしたら、俺は殺されるだろうか。



いや――構いはしない。

貴女を抱き締める事が出来るなら、殺されたって――



「お、降ろして……
からかうのは止めて……っ」


「からかう……?」


思いもよらない言葉に俺が眉を上げると、菊野は涙を溜めた目を伏せて声を震わせる。



「わ……私をからかって、遊んでるだけ……でしょう?」



俺の中で、何かを塞き止めていた糸がその一言でプツリと切れた。






胸の中で、真っ赤に焼けた火柱がパチリと音を立て崩れ去るような感覚に苛まれた。


無言で彼女を見ると、怯えの色がその瞳に宿る。

俺が怖いのだろうか。


「つ……よしさん……
お、お願い……」


甘くか細い声が、ショートパンツから伸びた柔らかな太股が、俺を極限まで欲情させる。



俺は彼女を抱えたまま夫婦の寝室へ向かい、ドアを開け暫し部屋の奥の、ラベンダーのシーツのタブルベットに視線を向ける。



忘れもしない、あの夜に、悟志に身体を貫かれ喘ぐ彼女をここで見た――

あれからも、きっとここで彼女は毎晩……



「……剛さん?」


不安げに、彼女が腕の中から見上げた瞬間(とき)、俺はベッドへとその身体を沈め、口付けた。







「ふっ……んっ……んんっ」


俺のシャツを掴み、脚をばたつかせ抵抗の仕草をしながら、甘い吐息を漏らし、時折身体を震わせる。


長く長く、唇を貪っていたが、彼女がまた苦しそうに顔を歪めたので離してやると、頬を打たれた。



打たれた頬に思わず触れ、俺は低く笑った。



「初めてですね……
貴女にぶたれるのは……
以前、祐樹と悪戯した時には尻を叩かれましたけど……」



「……っ……ぶ、ぶちたくてぶったんじゃないの……
つ、剛さんが悪いんだから……っ!」



菊野は、俺を殴ったのを早くも後悔しているようだ。


涙を流し、打った俺の右頬にそっと手で触れ、撫でた。


その仕草は、まるで母親が転んで泣いている幼子を
"痛くない、痛くない"
と宥めあやしているかの様に優しく、俺の胸を甘く熱くさせる。


彼女の、そういうところが、たまらなく愛しい。







「菊野さんだって……
貴女だって悪いですよ……」


「わ、私――!?」


彼女は泣きながら睨み付けてきたが、俺が頬の涙を拭っていた手を太股に移動させた時、鮮やかに頬を染めて絶句する。


「……誘惑したのは、貴女です」


「そ……そんなっ」



俺は、太股を優しく撫でながら、軽く唇を吸う。

「んっ……だ、ダメっ!」

また彼女が頬を打ち、そして顔を歪め俺を見て頬に触れる。


「いくらでも殴って構いません……
それだけの事を、俺は貴女にしているんですから……」


頬に触れたその小さな手を掴み、彼女を見詰めながら口付ける。


「だ、だから……
何故、私をそうやってからかうの?」


俺は苦笑する。


「からかっていません。
貴女が欲しいからです」


「――っ!?
う、嘘つき!」


「えっ?」


彼女に思いきり拳で胸を叩かれ、俺は咳き込んだ。


「あ、ああっ……
ごめんなさい……」



「俺の心配をしている場合じゃないですよ……」



彼女の腕を一纏めにし、パーカーのジッパーを一気に降ろすと、セクシーなキャミソールが顕れ、俺は息を呑んだ。



「やだっ……」


菊野は顔を逸らす。








ごくごく細い肩紐には花のモチーフの飾りが散りばめられ、総レースの布地は菊野の肌を透けさせ、美しい乳房の形が微かに見えてしまう造りだった。

胸の突起だけは辛うじて隠れているが、可憐で淫らなその姿に、俺は一気に興奮の頂点に達してしまいそうになり、思わず呻いた。



「くっ……菊野さ……
堪りません……っ」


「えっ……な、何が……」

彼女が何かを言う前に、俺は胸の膨らみに顔を埋め布の上から口付けた。


「やっ……だめっ」



「やっぱり、俺を誘惑してるんじゃないですか……」

「や……あんっ」



上擦る声で耳に囁くと、彼女は甘く喘ぐような声を上げ、俺に消えない火を点けてしまう。








「好きです……菊野さん……」


「う、嘘……
こんなの、全部嘘よ!」


彼女はまた胸を叩いてくるが、先程よりも強い力で、俺は流石に眉をしかめた。


「だから……
嘘なわけないでしょう……俺は」


「――清崎さんに、キスしてた癖にっ!」


菊野が、爆発したように叫び、俺の頬を打ち、また打とうと手を振り上げる。

素早くその手を掴み、彼女に尋ねた。



「……見ていたんですか?」



「……っ……す、すごく熱烈に、してたじゃない……っ……
し、しかも、ホ、ホテルで……っ」


彼女の瞳はまた涙で盛り上がり、瞬きと同時に大粒の滴が落ちる。


――見られていた?
……確かに、彼女があのタイミングで現れた事を考えてみれば、それも不思議ではないかも知れない。

あの時には、確かに清崎の可憐さに夢中になっていたが、まさかあの場を菊野が見ていたとは――


俺は暫し狼狽えるが、ふと、菊野が今こうして泣いているのは、嫉妬しているからだろうか、という考えに突き当たり、不意に頬が緩む。






菊野が、俺の表情を見て唇を噛みそっぽを向いた。


「あ、あんなに可愛い恋人が居るのに、私なんかにちょっかい出して悲しませたらダメでしょっ……」

「――彼女とは、セックスしていません」


「――っ」


菊野が、俺がその単語を出した事に驚き、真っ赤になる。


俺よりもずっと大人なのに、何故貴女はこんなに愛らしいのだろう。


今すぐ抱き潰したくなるのをぐっと堪え、俺は小さな子供に言い聞かせる様に話す。


「確かに、流れでああなりました。
こんな事を言うと菊野さんは軽蔑するかも知れませんが、俺は健康な十五才の男です。
魅力的な女の子に誘惑されれば、当然欲も湧いてきます……」



「ほ、ほらっ!
やっぱりそうじゃない!
剛さんは、彼女との事を邪魔した私に意地悪してるんでしょっ!?」



菊野は険のある声で被せる様に言い放つが、俺はその唇をキスで塞いだ。






舌を割り込ませ、咥内を凌辱していく内に、彼女の身体の力が抜けていく。


唇を離すと、組み敷かれた彼女がうっとりと目を潤ませてこちらを見詰めていて、俺の胸は痛む程にときめき、身体の中心が疼いた。



「……わ、私、分からない……
何故、今こんな事になってるのか……
私っ……」



彼女が、唇を震わせまた涙を流す。



「――俺が、貴女に恋しているからです……」


俺は、自分のシャツのボタンを外しながらベッドに沈む小さな彼女を見詰める。


彼女は染まった頬を更に鮮やかに綺麗に染め、俺を見上げているが、その胸の中では何を想っているのだろうか。


俺は、貴女が好きだ。

少女の様なその身体をそっと大切に包みたい。

俺を欲しいと叫ばずにいられなくなるまで滅茶苦茶に乱したい。


相反する矛盾した気持ちと欲望。


だが、これが俺の本心なのだ。



貴女を奪うだけの力を何も持たない俺は、ただ愛を囁くしか出来ない。


俺は、言った。


貴女に恋を告げた。



貴女はどうなのか。


――俺を、どう想っている?






シャツのボタンを全部外し、脱いで放り投げると、菊野は目を丸くしベッドの上を後ずさる。


俺もじりじりと近付き、彼女はもう逃げ場がない。


「……俺に最初会った時に言った事を覚えていますか」


「……っ……」


彼女の身体の横に手を突き、脚の間に腰を割り込ませ、身動き出来ない様にして見詰める。


「俺の事を欲しい、と言った……」


「そ……それは」


彼女が頬を染め俯くが、顎を掴み上を向かせた。


「今、もう一度……
その言葉を言って下さい」


「……」



「菊野さん……」



彼女は、抵抗を忘れた様に潤んだ目でただ俺を見返し、何も言わない。

込み上げる恋情と欲情が限界を迎え溢れ、彼女の首筋に痕を付ける様にキスした。


「やっ……やめてっ……」

「――俺に貴女を下さい……っ」


「だ、ダメっ……
さ、悟志さんが」


その名前に、俺は、動きを止めて彼女を鋭く見る。



「……悟志さんが、何ですか?
帰って来て、こんな処を見られたら困ると言いたいんですか」



「――」


菊野は言葉に詰まっていた。







その時、ベッドサイドに置いてあるスマホが鳴り、菊野はビクリと震え視線を泳がせる。


俺は彼女を見詰めたまま言った。


「……どうぞ」


菊野ははだけたパーカーの胸元をかき集め、スマホを取ると青ざめる。


画面を凝視したまま取ろうとしない彼女の隣に腰掛け、チラリと見ると、どうやら悟志からの電話らしい。


「……出ないと怪しまれますよ」


「でも……」


「なんなら、言えばいい。
俺に襲われてるって」


「――っ」


「今、助けを求めても彼は間に合うかな?」


怯える彼女の姿に、俄に可虐心が芽生え、わざと意地悪く言うと、菊野は青ざめ、また涙を浮かべた。



「冗談ですよ……
そんな顔をしないで下さい」


しゃくり上げ始めた彼女の頭をそっと撫で、俺はスマホを取った。



『もしもし……
菊野?』


「……剛です」


電話の向こうで悟志の息を呑む気配が伝わった。


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