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貴女との夜に②
しおりを挟む『……菊野は、どうした?』
悟志の声はいつもと変わりないように聞こえるが、僅かに緊張が混じっているようにも感じた。
菊野は、俺の行動に驚きハラハラしたように隣で見詰めている。
そんな彼女の肩を抱き寄せて、頬にキスした。
「――っ」
菊野は紅くなり、またすぐに青くなるが、俺は微笑みを向けながらゆったりと話す。
「……さっきまで僕とお喋りしていたんですけどね、疲れて眠ってしまいましたよ」
『――そうか……
今夜は帰れないが、剛君、念のため戸締まりと火元の確認だけ頼むよ』
――帰れない?
菊野をちらりと見ると、気まずそうに顔を逸らした。
俺は、悟志の言葉の意味を頭の中で反芻し、頷き平静を装い答える。
「大丈夫です。
……家も菊野さんも、しっかり守ります」
抱き寄せた彼女の細い肩に触れる指に力を込める。
菊野は更に紅く頬や首筋を染めて俯いていた。
『……剛君がいてくれて、心強いよ』
男らしく優しい悟志の声に、俺は嫉妬の感情が湧いてくる。
俺には無い、逞しさと落ち着きと、おおらかさを持った彼は立派な大人だ。
この優しい声で、彼は菊野に愛を囁くのだろう。
菊野は、隣で微かに震えて息を詰めている。
俺は長い髪をそっと撫で、今、彼女より優位に立っている事を自覚し、征服欲が刺激される。
――だが今、彼女を抱き締めて居るのは俺だ――
「……とんでもありません……
悟志さんも、お疲れ様です……」
『じゃあ、頼んだよ……
お休み』
悟志からの電話は切れた。
俺はスマホを彼女に渡して低く囁く。
「……朝まで、二人きりですね」
「……っ」
彼女の震えが俺の掌に伝わり、いとおしさと欲望で身体がはち切れそうだった。
菊野は、目が合うと、紅く染まった顔を逸らしたが、俺は両手で彼女の頬を包み込み、こちらを向かせた。
「真っ赤ですね……頬も、身体も」
「――!」
その首筋や胸元まで紅く染め上げているのは、なにゆえの感情の作用からなのか彼女に聞きたい。
小さく震える愛しいその唇を指でそっと触れた。
「……何故、こんな風になるんです?」
「こ、こんな風って……」
唇に触れた指を、頬、首筋、胸元に滑らせると彼女は小さく叫び、俺の腕から逃げようと身体を捩る。
「ここも……ここも。白い肌が綺麗な色で火照っています……」
彼女の腰を抱き寄せて、太股に触れると、甘い溜め息を耳元で漏らされ、俺は今にも獣に豹変してしまいそうに昂る。
「やっ……ん……ダメっ……」
「悟志さんにもそういう風に焦らすんですか……」
「――っ」
菊野は泣きそうな顔で首を振るが、俺は再び彼女を倒して組み敷いた。
「やっ……やあっ……ダメっやめて……」
「言われて、止めると思いますか?」
半端に乱れた、彼女の肌を隠すパーカーを脱がし放り投げ、キャミソールの中へと手を這わすと、滑らかな肌が吸い付く様で、思わず俺はゴクリと喉を鳴らす。
菊野は俺の腕を弱々しく掴み、涙を溜めた目で見詰め首を振る。
だが猛った俺は、差し入れた両の掌で其処にある二つの膨らみを思うままに揉みしだき、弄んだ。
「やっ……やあっ……剛さ……やめてっ……」
「菊野さん……」
涙を流す彼女の表情に胸が痛み、俺は動きを止める。
「こ……こんな事、いけないわ……剛さんが……私なんかを……ダメっ……」
彼女はしゃくり上げ、尚も俺の恋心を否定する。
どうしたら、年齢の差や、義理の息子という事を抜きにして俺を見てくれるのだろうか?
男として、俺をどう思うのか、教えて欲しい。
お願いだから、線を引かないでくれ、菊野――
「俺が……貴女を好きになる事が、そんなにいけないですか」
「……」
菊野は、赤い目で唇を噛み、何も答えない。
俺は彼女の曖昧な態度にいい加減に焦れてきた。
痛い程に屹立した獣が、腹の上で今にも爆発しそうだった。
泣き叫ぼうと、この後どうなろうと関係無しに、直ぐ様彼女を突き刺したい。
俺がベルトに手を掛けると、彼女が真っ赤になり叫ぶ。
「や、止めて……ダメよ……ダメっ」
「……もう我慢できません」
ベッドから降りようとする菊野の手を掴み、胸に引き寄せて荒々しく唇を重ねながら、片手でベルトを外していく。
菊野は、苦しげに息を漏らし胸を叩いてくるが、次第にその力が弱くなっていく。
「ふ……んんっ……んっ」
長い長い口付けと、彼女の甘い溜め息だけで爆ぜてしまいそうに興奮した俺は、ベルトを抜き投げ捨て彼女を組伏せ、太股を掴み広げると、ショートパンツの上から猛りを押し付けた。
「――くっ……」
「あ、あああっ」
電流に撃たれたような刺激で俺は呻き身体を仰け反らせるが、菊野も感じたのか矯声を上げる。
直接触れた訳でもないのに、布の上から彼女の窪みに押し当てた俺の獣がビクリと痙攣し、焼ける程に熱くなった。
身体中の血液が逆流し、其処に集まる感覚に俺は顔を歪め、もう一度彼女に押し当てようとした瞬間(とき)、瞼の裏に火花が散る。
「うっ……」
そして、菊野に跨がったまま、天を仰ぎ凄まじい快感に震えた。
俺は、菊野を犯す前に果ててしまったのだ。
しかし、快感に酔ったのは一瞬だった。
気が付けば、組み敷いている菊野は身体をくの字に折り、顔を掌で塞ぎ苦しげに嗚咽している。
太股や、手首には、いつの間にか俺が握り締めた痕が紅く付いていた。
そんなに強くしたつもりはなかったのだが、いや、情欲でたぎった俺は、ただ自分の想いをぶつける事しか考えて居なかったのだ。
「菊野さん……っ」
「や……あ……っ……こ、怖い……っ」
菊野は子供のように泣きじゃくり、抱き締める俺の胸を叩き続け、恨み言ともつかない言葉をぶつけて来る。
「ば……バカアッ……剛さんのバカ……っ!私……私っ……」
「……怖い想いをさせて……すいません……」
彼女の涙を唇で掬い、なるべく優しく語り掛けるが、固めた拳は尚も俺の胸を打った。
「私……どうしたらいいか……わからなっ……」
「――菊野さん……」
――俺は、やはり、貴女を想ってはいけないのだろうか。
真っ直ぐに恋をぶつけても、貴女を苦しめるだけなのか?
菊野は、泣きながらしがみついてきて、俺は一瞬混乱するが、途端に背中に爪を立てられて鋭く熱い感覚が走った。
愛しい人に与えられるものなら、痛みでさえ甘く俺を蝕んでしまう。
俺は、彼女にされるがまま、しかし彼女が疲れて眠ってしまうまで、抱き締めていた。
腕の中で小さな息を立て眠る菊野は、自分よりも十四歳上の大人と思えない程頼りなく、可憐で無邪気な寝顔だった。
俺は、涙で頬に貼り付いた髪を指でよけて、そっとキスをして彼女から離れ、ベッドから降りる。
「……ん……」
小さな声がその唇から漏れ、俺はまた抱き締めたくなる衝動にかられたが、また彼女に触れたら本当に今度こそ滅茶苦茶にしてしまう――
彼女が好きだ。
彼女を自分だけの物にしたい。
心も身体も、全部を。
そんな欲と同時に、傷付けたくないという気持ちも同じにある。
彼女の白い肌に付いた俺の痕を見ると、激しい自己嫌悪と、欲情が同時に襲ってくる。
目から彼女の肌を隠す為に肩まで毛布を上げると、俺はなるべく音を立てずに寝室から出ていき、ドアを閉じた。
俺は、熱いシャワーを頭から浴び、噴き出した精を洗い流そうとするが、既に下半身は硬く大きく姿を変えていた。
「くっ……」
半端に昂ったまま、果たされなかった欲を解き放つように右手でたぎる獣を握り、直ぐ様烈しく動かし俺は呻きながら快感に酔う。
菊野の潤んだ眼差し、紅く染まる肌、甘い溜め息が蘇り、無意識に彼女を呼んでいた。
「菊野さん……っ……
菊野……!」
『ああ……ああんっ』
彼女の窪みに獣を押し当てた時の雷に打たれた様に身体が痺れ、経験した事のない堪らない快感や、その時の彼女の啼き声を思い出しながら、俺は右手を動かす。
掌の中で増大し時折痙攣するように震えるそれは、少しずつ欲望を垂らして指の滑りを善くし、快感に拍車をかける。
菊野が腕の中で喘ぐ姿を思い、悟志に烈しく突かれ美しい乳房を揺らし、髪を乱し腰を振る姿を脳裏に蘇らせ、俺自身が彼女を犯す映像にすり替え、興奮の頂点まで昇り詰めた時、ドクドクと熱い精が溢れ掌を伝い、シャワーで流れ落ちていった。
「ハアッ……ハアッ……」
凄まじい快感だったが、途端に全身がとてつもなく疲労し、重くなる。
先程、彼女を組伏せ、犯す前に果てた事を思い出し、とてつもなく自分が愚かで間抜けに思えてきて笑いが込み上げてくる。
ヒステリックに笑いながら壁に手を突き、俺は、額を幾度と無くぶつけた。
――俺は、バカか……
彼女が泣こうが抵抗しようが、さっさと奪えば良かったんだ……
二人きりの空間で、誰の邪魔も入らず、朝まで彼女を攻めて滅茶苦茶にしてやれば良かったんだ。
どうせ、恋を受け止めて貰えないのなら、身体だけでも奪ってやれば良かった。
だが、彼女が震えて泣く姿に胸が痛み、それ以上の事が出来なかった。
「畜生っ……!」
鈍い痛みと共に、額から血が流れ堕ちた。
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