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マリッジブルー・プリンセス②

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「う――ん……」


 美名はバニッぴーを抱き締めながら、先程の綾波の言葉を反芻してみる。

 眠気で意識が混濁していたのか、記憶も覚束なかったのだ。

 彼と抱き合っている最中や、終わった後にした会話を頭の中で辿りながら、美名は時折赤面したり顔を覆い叫びながらベッドの上を転げたりした。




『お前が心配する様な事はしない……』


『日比野と話してくる』



 美名は弾かれた様に起き上がり呟いた。



「――大変……!剛さんを止めなきゃ……」


 立ち上がりベッドから降りるが、鏡に映る裸の自分を見て小さく悲鳴を上げた。



 首筋や胸元を、彼に付けられた無数の紅い華が彩っているのだ。



「や……やだっ……こんなに……!?」



 美名は真っ赤になり狼狽えながら着る服を探した。






「あ、あれ?」



 美名は自分のバッグを探りクローゼットを開けるが、自分の着る物が一切無い事に愕然とした。



 下着の一枚も入っていない。



「な、なんで!?」



 美名は焦りながら先程まで着ていた服を捜す。



 いつもなら綾波が畳んでベッドの脇に置いてあるのだが、今日に限ってはそのパターンではなかった。



「……無くなる筈もないし、盗られる訳もないのに……?」



 美名は困惑しながらバニッぴーを胸に抱き、ベッドの上に再び座るが、落ち着かない。




 先程見た綾波の瞳の色が頭から離れない。


 静かな蒼い焔がその中に見えた気がした。



(それに……日比野さんの事を呼び捨ててた……)



 心配する様な事はしない、と彼は言ったが、この状況で"心配するな"という言葉は説得力がない。







「……どうしよう」


 まさか、この格好で部屋の外へ出て行けるわけもない。



「あっ……そうだ!桃子に着る物を借りよう!」



 桃子も今夜は此処に泊まる事になっている。

 あの子の事だから下着も服も余分に持ってきている筈だ――と考え電話すると、何回かのコールの後に桃子が出た。



『……お姉ちゃん?どうしたの?』



 桃子は小声だった。



「あのね……頼みがあるんだけど」



『お姉ちゃんごめん、三広君が具合が良くなくてね、今休んでるの……私、傍についていなきゃだから……』



「えっ……大丈夫?」



『一日ゆっくりすればいいと思うんだけどね……あ、綾波、そろそろ部屋に戻ると思うよ?旦那様に頼みなよ~!じゃあね?』



「え……桃子、ちょっと!」



 既に電話は切れていた。


 美名はスマホを持ったまま唖然とする。










 すると突然ドアが開き、心臓が飛び出す程に驚いてベッドから転げてしまった。



 バニッぴーを胸に抱いたまま、美名は痛みに顔をしかめるが、綾波の呆れた声が聴こえ、顔を上げた途端頬が熱くなる。



「何してんだ……」



 綾波は出ていった時とは違い髪は整えられシャツのボタンも締められていた。


 その瞳は凪いだ湖の様に静かで、美名は安堵すると同時に彼のそんな様にときめいていた。



 綾波に抱えられてベッドまで運ばれる。


「ね、ねえ……剛さんっ」

(日比野さんと話したの?)



 そう聞きたいのに、日比野の名前を口に出すのが憚られ、それ以上何も言えずに彼の目を見詰めた。



 綾波は、フッと涼やかに笑い、美名をベッドに降ろして彼女の姿を舐める様に見る。



「……生まれたままの美しい姿の姫様のお出迎えは、なかなか刺激的だな」








 美名は全身が沸騰したかの様に、顔も身体も恥ずかしさに紅くなり、隠す様にバニッぴーを胸に抱いた。



「だ、だだだだって……服が」



 どもる美名の頭を撫で、綾波は事も無げに言った。



「無いだろ」



「うん……て、剛さんっ?」



「俺が隠した」



 綾波はニヤリと笑う。



「は、はあ――っ?」



 美名の大きな声は部屋に響き渡り、綾波は耳を塞ぐ。


 口をパクパクする美名を他所に、彼は大きな紙袋を出し中身をベッドの上に広げて行く。



「な、なんでっ?なんでそんな悪戯を?小学生でもやらないような悪さじゃないの――!剛さんのバカっバカっ!」


 美名は真っ赤になりそっぽを向いて怒鳴るが、肩を掴まれてくるりと彼の方を向かせられる。






「美名……すまん」



 彼が、美名の大好きな低い蕩けさせる声で囁くが、美名は拗ねて怒ってまた顔を逸らす。



「――知らないっ!」


「美名」



 顎を掴まれて上を向かせられた時に、彼の澄んだ優しい眼差しに射抜かれ、目を逸らせなくなる。



「……っ」



 真っ赤になり目を潤ませる美名に、綾波はそっとキスした。

 触れるだけの柔らかいキスに、美名の瞳から涙が溢れると、綾波は困った様に笑い、彼女を抱き締めた。


「も……もうっ!何でこんな事するの……わ、私が……他の人にキスされたなんて言ったからなの?お仕置きのつもりなのっ?
私だって、訳が分からなくて困ってるのに……剛さんのバカア――!」



 美名は彼の胸を叩いていたが次第に力が弱くなり、その腕は背中に回される。







 震えてしゃくり上げる美名は、苦し気に胸のうちを彼に訴えた。



「……わ、私……剛さんが日比野さ……んを殴って蹴って刺してバラバラにしちゃうんじゃないかって……心配してたのよ――!
剛さんが、剛さんが私のせいで三面記事に載っちゃうと思って……なのに、バカ――!」


 美名は今度は綾波の背中を思いきり殴った。


「あてっ……てっ!おいおい……人を勝手に凶悪犯にするなっ!刺してバラすだとか何処の極道の話だ!」



 美名は、ようやく殴るのを止めて彼を上目遣いで見詰める。



「――何も、してない?」


「当たり前だろ」



「殴ってない?」



「まあ、今日のところはな……」



「――え?……ふぐっ」


 微妙な言い回しに目を剥く美名は、顔に何か布を押し付けられ、手に取ってみて絶句した。



「取り敢えず、それを着てろ」



 綾波は、ベッドの上に胡座をかき、ニヤニヤしている。



 美名は、渡された服を広げてまた赤面した。



「な……な……何これっ……ちゃんとした服は無いの?」



 裾が拡がったピンクの胸元のフリルが可愛いミニワンピースだが、シースルーで全部透けてしまう。

 下着も渡されたが、ブラジャーは乳房を隠す部分が異様に小さく、ショーツは前から見ると普通だがお尻の部分が丸く穴が開いていた。






「着てみろ……」



「ヤダ!」



 美名は、抵抗の意思を示すかのように毛布を頭から被り丸まり、バニッぴーの頭だけを外に出す。


 綾波が吹き出すのが聴こえた。



「……まあ、そう言うだろうとは思ったが……寧ろそうして恥ずかしがりながら着る姿を見るのがイイんだがな……」



「な――っ!?……も、もうっ!やっぱりお仕置きじゃないのよ――!酷いっ!」



 美名は、毛布の中で絶叫しながらバニッぴーの頭を動かしてみせた。



「くく……何の人形劇なんだ?」



「お、怒ってるんだから――!私も、バニちゃんも!」



「ハハハハ……」



 彼の笑いを聴きながら、美名はプリプリ怒る。



「もう!剛のバカ!アホ!スケベ――!もう結婚なんてしないっ!結婚止める――!」



 怒りのまま叫ぶと、彼の笑いが止んだ。


 美名が、ハッと息を呑んだ時に、物凄い力で毛布を剥ぎ取られた。



「きゃ……」






 両の腕を掴まれ、バニッぴーが床に落ちた。


 美名は身体を覆う物が何もない恥ずかしさと、自分がつい言ってしまった言葉への後悔に目を瞑る。


 彼が無言で胸元に顔を埋め、擽ったさに美名がビクリと身体を震わせると、消え入る様な声で彼は言った。



「……美名……そんな事を……言うな」


「――」



 聴いた事のない彼の弱々しい声に美名は驚き瞼を開けると、潤んだ二つの瞳が見詰めている。



「……俺を嫌いになったのか」



「ち、ちがうよ……!た、ただ、恥ずかしかっただけ……」



 美名が必死に言うと、綾波は目を臥せて呟く。



「俺が……好きか?」



「あ、当たり前じゃないっ」


「……バカでアホでスケベで変態な俺は、大嫌いなんだろ?」



 綾波は、美名の肩先に頬を付けて憂いの眼差しを向けた。


 陰のある表情は、彼を最高に魅力的に見せる。


 美名は胸を烈しく高鳴らせて首を振った。



「そ、そんな事ないよ……
それでもいいっ……」






「……いいのか?」


 置き去りにされた仔犬の様な彼の表情に、美名の胸の奥が締め付けられ、気が付けば何度も頷いていた。


「い……いいよ……何でも……だって……私は剛さんが好……あっ」


 綾波に足首を掴まれて、美名は悲鳴を上げた。


「や……だっ!」


 秘蕾が見えてしまう霰もない体勢にされ恥ずかしがり涙ぐむが、綾波は先程までのしおらしさは何処へ行ったのかと思う獰猛な光をその目に宿していた。


「……何をしても、いい、と言ったな? 」


「や……っ……何でもなんて言ってないよ!」


「今更聞かないぞ」



 じたばたする美名を押さえ付けると、綾波は美名の足首にショーツを通し、腰まで一気に引き上げた。



「――やんっ!
そんな恥ずかしいの、絶対に着ない――!」



「ちょっと黙れ……」



「ん……んんっ」



 綾波は強引に美名の唇を塞ぐと、その舌を割り込ませ咥内を甘く烈しく蹂躙し始めた。



 暴れていた美名も、彼の巧みなキスに翻弄されて動けなくなり、甘い吐息を漏らすしかない。





 口付けながら首筋を撫でていたその指が、やがて鎖骨に降り、胸の膨らみに伸びる。


 綾波は、美名の唇を存分に犯してから首筋に唇を落とし乳房の頂のごく近くにキスする。



「ん……んん……あっ!」

 


 繊細な彼の長いしなやかな指が柔やわと乳房を揉みしだき、美名が一番感じる頂を絶妙に避けてキスをいくつも落とす。



「や……あっ……剛さ……っ」


 綾波は、彼女の胸から顔を上げニヤリと笑う。


「……旦那様の、言うことを聞くか?」


「なっ……い、意地悪……バカあっ!」



「……可愛いな……」


 突然耳元に甘い声で囁かれ、美名はビクリと震え紅くなった。


――もっと怒りたいのに、そんな風に囁かれたら、何も言えなくなるじゃない――



 美名の反応に気を好くした綾波は、自分が用意したブラを掴み、素早く美名の腕に通す。


「ちょ、ちょっと……いやんっ……あっ――」



 美名は身体を捩るが、背中に腕を廻しながら彼が耳朶を甘噛みして来て、力が抜けてしまう。







「よしよし……良い子だ……」


「んっ」



 綾波は、美名の頬にチュッと音を立ててキスしながら器用にブラを着せると、ワンピースを広げ、美名の身体に宛がい薄く笑う。



「さあ……着た所を見せてくれ……俺の姫様……」



 半端に乱されて淫らな欲を醒まされてしまった美名だが、せめてもの抵抗の様に、彼を睨んだ。


「剛さんて……本当に、本っ当――に……えっちだよね……」


「それでもいい、て言ったろう?」


「あっ……」


 美名は頭から薄い布を被せられ、あっという間に彼の思うがままに着せかえられた。






 恥ずかしさに背を向ける美名だが、彼の指が薄い布越しに背中をつつ、と撫で、丸く空いているヒップの割れ目の部分に触れて来て、悲鳴を上げた。


「いい眺めだ……」


「も、もうっ!見ちゃダメ――!」


 綾波の指がするりとヒップ全体をなぞり、今度は強く掴み揉み上げる。


「ひっ……イヤッ!」


「イヤ……か?」


 彼が指をつつつ、と背中に移動させると、擽ったさに美名が悶えベッドの上を跳ねた。


「きゃ……ダメっ」


 素早く肩と腕を掴まれて、身体を反転させられ仰向けに向かせられた。


 綾波は、自分が着せた下着とワンピースが、美名の身体の曲線をより美しく淫らに引き立てているのを見て、満足げに笑った。


 美名は恥ずかしさにまた涙ぐみ、唇を噛むが、彼がその唇に触れて囁く。


「そんな顔で睨むな……」





 美名は唇を結んだままそっぽを向くが、冷たい硬質な感触を胸元に感じ、吃驚して目を見開くと、綾波が人差し指と親指に銀色に光る細い鎖をぶら下げて笑っていた。


 華奢な鎖の先には何やら見覚えのある愛らしいチャームが付いている。


「……これで機嫌を直してくれるか?」


 彼がそっと握らせたそれを見て、美名は頬を綻ばせ目を輝かせる。


 兎の形をしたチャームが付いたプラチナのネックレスだった。


 しかも、美名の好きなバニっぴーと有名ブランドのコラボレーションモデルだ。


 バニっぴーの目の部分には小さなルビーが埋め込まれ、とてもキュートなデザインだった。


 美名の髪を指に絡ませ弄びながら、綾波は彼女が喜ぶ顔を見て優しく笑っている。



「まあ、これは……プリキーを頑張ってきた歌姫への、御褒美みたいなもんだ」





 美名は、現金な程に怒りを忘れてしまったようで、掌の中のネックレスを見て嬉しそうに笑う。


「ありがとう……凄く可愛い……」


「どういたしまして、姫様」


 綾波は、美名の長い髪をクシャリと指先で乱して額にキスした。


「ねえ……これって、おいくらしたの……?」


「おい……そこは聞くなよ」


 苦笑する綾波に、美名は食い下がる。



「だって気になるし……限定物ってお高い……んじゃないの?なんだか……貰ってばかりで悪いよ……」



 綾波は、美名の鼻を軽く摘まむと、顔を近付けて囁いた。



「阿呆。そんなもの……お前が喜んでくれりゃ、安いもんなんだよ」



「……っ」







 綾波は、鼻から指を離すと美名の首筋に触れて悩ましく口付け、更に囁く。



「それに……お前がそういう格好で目を楽しませてくれるしな……」



 彼の唇が、首筋から鎖骨、胸元に降りて、長い指は髪を優しく撫でているが、身体の底からゾワゾワと沸き上がる甘美な予感に美名は吐息を漏らす。



「あっ……こ……これは、剛さんが無理矢理着せたんじゃないの……っ」



「――これから毎日、俺が出した物を着ろ」



 綾波は、乳房に鼻先を埋め指で弄びながら囁いた。

 美名は悶えながら反論する。



「あんっ……て、今までもそうだったじゃない……!」






 綾波は、ごく小さな布地――
薔薇の花を形どったレースがあしらわれたブラが辛うじて、美しい美名の乳房の突起を隠していた――

 布地に包まれた豊かな双丘を両の掌で掴み円を描く様に揉む。


「あ……ああっ」


 仰け反り倒れそうになる美名を支え、唇を啄みながら綾波は囁き続けた。


「綺麗だ……俺の花嫁……」


「ん……んっ……ま、まだ……予定……だしっ……ああんっ」


 精一杯の抵抗に心にも無い言葉を口にする美名を、彼はその指から繰り出す巧みな愛撫で黙らせる。


 布の上から胸の突起を摘まみ、絶妙な圧を加え、また緩め、また圧を加えながら耳朶を噛む。


「あ……ああっ!」



 美名は、何度も抱かれて絶頂を味わった筈なのにまた彼に乱されてしまう。





「……何の為に、プリキーを休業したと思ってる……ん?」



 綾波は、耳に低く囁き美名の顎を掴み、上を向かせる。



「何の為って……けけ結婚準備……でしょっ?」


 結婚、という単語を口にするだけで未だに照れてどもる美名を、綾波は堪らなく可愛く思う。


 今からそんな風で本番は大丈夫なのか?と心配にもなるが……


「むがっ」


 綾波は美名の頬をむんずと摘まみ、おどけて言う。


「ブー!外れだ……」


「ええっ?」


 綾波は、美名を膝の上に跨がらせて見上げる体勢になり、魅惑の眼差しで悩殺する。



「結婚の準備もそうだが……お前を俺だけが存分に独り占めする為さ。誰にも邪魔されずに……」


「なっ……」



 美名は呆気に取られながら、顔だけでなく身体まで紅く染める。






「い、い意味がわからないよっ!私は剛さんの恋人なんだから剛さんが独り占めも何も……っ」


 綾波は美名の両手をそっと握り笑う。


「――お前は、自分をわかっていない……どれだけ周りの人間を惚れさせて惑わせるのか……」



「そんな事ないよっ……」


「そんな事あるんだよ……」



 綾波は、突然下から腰を動かして美名を刺激した。


 綾波の腰に跨がっていた美名は、丁度敏感な場所に彼の猛りが布越しに当たり、甘く反応をしてしまう。



「ああっ……やっ」


 乱れる美名の長い栗色の髪が揺れて頬や唇が艶めき、そして漏れる美声に綾波はゾクリとした。



「……俺は、お前のマネージャーであり、お前を愛する男でもあるが……例え一時でも……何の制約も立場も関係なく……お前を思い切り愛して……独占したいんだ……そう思って、悪いのか?」


「あっ……!」



 再び下から腰を突き上げられ、美名は仰け反り叫んだ。






「あっ……ん」


 どうしても視界に入ってしまう淫らな自分の姿が恥ずかしい。


 辛うじて突起を隠すブラは、美名の豊かな双丘の形を余すところなく綾波に見せ付けている。


 そして透けるワンピースから覗く胸から腰の美しい曲線が綾波を強烈に誘い、更なる行為へ駆り立てる。



「……くっ……堪らん……美名……いいか……」


「えっ……」



 
 綾波は素早くズボンを降ろすと起き上がり、美名と向き合う形になり、トランクスを片手で脱ぎながら口付ける。




「ん……ん」




 美名は、口付けられながらいつの間にかまたベッドに倒され、彼に見下ろされていた。


 綾波は、ワンピースの生地の上から美名の身体に悩ましい手付きで触れていく。


 鎖骨から胸の膨らみをなぞり下腹部へ移動すると、美名は身体を震わせて吐息まじりに喘いだ。



「んっ……はあっ……だ、ダメ……」






「……ダメなものか……お前の身体は悦んでるだろ?……ん?」



 綾波はワンピースの裾から手を入れて美名の尻を撫で、下着の大きな穴の部分から指を這わせ、敏感な場所をまさぐった。



「や……やあ……あっ!」



 美名は綾波の胸を叩きながら甘く叫ぶ。


 もうとっくに彼に愛される事を望んだ身体は熱く濡れている。


 綾波は巧みに蕾の中を掻き回し、啼く美名の表情を楽しみながら囁いた。



「……俺が、毎日、お前が最高に綺麗に厭らしく見える服を着せてやる……俺が選んだ服を着たお前を……じっくり眺めながら……毎日クタクタになるまで愛してやる……」



「あっ……ああっ――!」



 美名は綾波の横暴さに怒りたかったが、巧みな指の責めに乱れに乱れまともに口が利けない。





「俺に……抱かれるのが好きなんだろう……?」


「あ……あっ!」



 綾波は極限まで猛った自分を欲のままに、濡れた蕾の入り口に押しあてて少しずつ沈ませていく。




「うっ……美名……っイイぞ……っ」

「あんっ……や……やだあっ!」



 美名を何十回、いやそれ以上――何百回以上だろうか、貫いて、なぶり、愛して来たのに、その柔らかい何もかもを包みながら呑み込む蕾に入る瞬間の快感と興奮には毎回ゾクゾクする。


 そして自分が動きを与える度に美名が頬を染めながら感じて甘く叫び、涙を流ししがみついてくる時、天にも昇る幸福感で満たされるのだ。



 烈しく突き立てたくなるのを堪え、ゆっくりと緩慢な動きで律動を繰り返し、繋がる感触を楽しみながら美名に口付けた。



「……どうだ……このまま……朝までヤるか……?」


「……ん……ば……バカッ!――ああんっ」




 口答えする美名の乳房を揉みながら、腰の動きを少し速めると途端に正気を無くして啼く。








 美名の長い栗色の髪がベッドに拡がり、シーツの純白がその艶やかさを引き立てている。


 綾波は指先で髪を掬い、大事そうに口付けた。

 責める動きが緩やかになり、美名はホッと胸を撫で下ろし呼吸を整えようとするが、それも束の間、綾波が最奥まで沈ませた腰を更に円を描く様に悩ましく廻し、美名を叫ばせた。


「っ……っ…………なっ……」


 シーツを掴み、葉にならない甘い叫びを上げる美名の揺れる乳房を綾波は眺め楽しみ、彼女の声を堪能しながら、蕾の中がギュウと締まる感覚に心行くまで酔いしれる。


「いやらしい姫様だ……っ……俺を……こんな風に……狂わせ……くっ」



「つ……っ……ああっ!」


――剛さんのせいなんだから!
と言いたいのだが、次から次へと彼によってもたらされる快感に、まともに口を利けない。


 美名は彼にしがみついて甘く啼くしか出来なかった。


――もう……剛さんの……バカ……バカ!剛さんこそ、私をこんな風にして……!






 綾波は、美名を絶頂に導きながら果てを迎えようとしていた。


 際どくセクシーな部屋着を着たままの恋人の姿は、予想以上に綾波を猛らせ、興奮させ、美名自身もこれまでにない程淫らに乱れている。


「あ……あっ……もうダメっ……」


 美名が、泣き出しそうに瞳を潤ませ身体を仰け反らせた。


 綾波は、その妖艶さに息を呑み、素直に感じる美名を強烈にいとおしい、と思う。


「……キツかったら、言え……」



 綾波は美名の両足首を肩に掛け上擦る声で囁いたが、美名もこれから最高潮まで昇りつめる予感に頬を染め、そして彼にそうされる期待に唇を開いた。



「きて……剛さん……」



「美名……っ」



「ああ――……っ」



 綾波は、身体中の欲望を美名にぶつけ、美名はそれを受け止め悦びに甘く叫び、二人の愛の交わりは日が落ち夕暮れに空が紅く染まり一番星が輝き出す頃まで続いた。



※※





 日比野は唇を歪ませ、二人の愛の交歓の音や声をヘッドフォンで聞きながら、自分専用のデスクで客の資料を開いていた。



 客室を用意する時、ベッドの下に盗聴器を仕掛けたのだ。



 ベッドの軋む音に、時折美名の切なげで悩ましい吐息が混じり、言葉にならない甘い叫びが鼓膜に張り付き、日比野は溜め息を吐いた。



 綾波に責められている美名は、さぞかし美しいのだろう。


 一生を添い遂げる誓いを立てた恋人達は、今まさに幸福の絶頂にあるのだろうと思われる。



――だが……




 日比野はニヤリと笑い椅子から立ち上がり、壁に飾られているこのホテルで式を挙げたカップル達のポートレイトを眺めた。



 式を挙げる前に些細な事で仲違いし、結婚を止めてしまうカップル、或いは式をどうにか挙げてもその後に離婚したカップルは少なくない。


 ましてや美名は人気ミュージシャン。所詮芸能人の結婚だ。


 彼女の周囲には誘惑が多いだろう。







 彼女に口付けた時の甘い香りと身体の柔らかさを思い出し、日比野は目を瞑りヘッドフォンから聴こえる美名の吐息や喘ぎを堪能する。


 あのキスの時、彼女の反応は満更でも無かったようだ。


 日比野はほくそ笑みながら、今綾波に突き上げられているであろう美名の姿を想像し、身体を震わせた。



 先程日比野を睨み付けた綾波の眼差し。


 どうやら自分はもう彼に疑惑の目で見られているのだろう。



――潰しに来るなら来ればいい。俺は俺のやり方で彼女を揺さぶり続けてやる……



 美名の絶頂の叫びが耳に届いた時、日比野は魅惑的に妖しく笑った。



「……いつか、俺が君にとびきりの絶頂を与えてあげますからね……」



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