ばあちゃんの豆しとぎ

ようさん

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祖母の小屋 2

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 祖母の小屋に行くと、冬から春の間は天井からは縄で括られた味噌玉が仙台の七夕飾りのようにずらりとぶら下がっていた。
 味噌玉とは潰した大豆を塩や糀と混ぜて玉に丸め、発酵のために縄で吊しておいたものだ。床には夏に穫れたジャガイモも冬じゅうたべられるように床に転がしてある。天井見れば味噌ッコ、床見れば芋ッコ……いや、詩的でも何でもなかった。

 これが北関東の平地なら、たまに雪が降っても土までは凍らないから芋類は畑に穴でも掘って埋めておけば保存できるし、その畑にも年中何かしら青物がある。
 首都圏の出荷にも便の良いそんな優良農地が後継者不足でどんどん耕作放棄地となり、いくら政令指定都市住まいでも所詮田舎育ちの夫婦だから、カエルや鳥の鳴く郊外の環境が気に入って子育てを始めたアパートのご近所は、ここ十年のうちに新興住宅分譲地に激変した。
 余所様のマイホームの夢にケチをつけるつもりはないし、むしろ私達も目指している所なのでそれを言う資格はないのかもしれないが、ゆくゆくは国じゅうで「住む所は立派だが食べる物ははて、どこから手に入れよう?」とはならないのだろうか。
 グローバル何とかだかTPPうんちゃらで、海の向こうから安く買って来るから心配ない?

 それはそうと祖母の小屋には、某アルプスの少女もののアニメよろしく「クララのおばあさまの隠し部屋」並にまだまだ色々な宝物があったーーただしオルゴールの宝石箱や絵本や、ドイツ職人芸の粋を集めたカラフルな仕掛け時計なんてキラキラと心踊るメルヘンティストな物の代わりに、地元特産の寸胴の地這いキュウリや赤カブの古漬け、梅干しや沢庵といった日常系の「色気より食い気」方面なのだけど。
 もちろん、甘くてカラフルなチョコレート菓子や横文字の洋食メニューが至高にして究極だった子どもの頃はその価値になんか気づく訳がない。

 雪のちらつく初冬の夕方、私が学校からもうもうと白い息を切らして帰って来ると、祖母はいつも小屋の前にいてドラム缶で何かを煮ていた。

 凍み大根しみでぇこ、凍み菜、凍み豆腐……冬の保存食は基本的に煮たものを夜に凍らせ日中に乾燥させることを繰り返す。
 今風に言えば「フリーズドライの健康食品」だが、最新の加工技術と違っても天然の冷気頼みだから食味はぼそぼそとあまりよろしくない。

 大根菜で作る「凍み菜」には外で干したバージョンと細かく刻んで丸めたものにラップをかけて冷凍庫で凍らせたバージョンの二通りがあって、後者の「人工凍み菜(?)」はまだ幾分食味がましだった。
 どれにしても飽食の時代の子ども達が喜んで食べるような代物ではない。

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