ばあちゃんの豆しとぎ

ようさん

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祖母の晩年 5〜介護認定と瓶牛乳〜

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 八十代後半に差し掛かった祖母は、昼間は自分の部屋か茶の間かサンルームでうつらうつらしている時間が多くなり、昼夜が逆転するようになった。

 祖母の姑である曽祖母は、父の自立を見届けて六十代後半で楽隠居を決め込んでいたのだが、それも祖母の愚痴の定番ネタだった。
 祖父との苦労と辛抱と努力の碑である農地は売ったり諦めたりした残りを父に引き継ぎ、稀客にかいを渡すまで此岸と彼岸を永遠に往復し続ける渡守の役目に、祖母はやっと終止符を打つことができた。

 市日の収入は無くても年金は入ってくるし、衣食住や税金の心配もない。念願のストレスフリーな隠居生活を叶えたにしては、お盆の帰省の時に会う祖母にはどこか覇気が無かった。
 それでも昼間、私の夫や子どもたちに対する「外づらのよさ」は健在だったが夜中になると「あれがない、これがない」と騒ぎ出したり、発作的に母の悪態を吐きつき出したりして、父と弟が二人がかりでなだめるーーといったことがたびたびあった。朝になると本人はけろりと忘れていて「ゆんべな昨夜は寒ぐながったが」などと聞いてくる。

 その頃の故郷の真夏は窓を開けてさえいたらエアコンなど必要ないほど夜は涼しく、朝方には風邪を引いてしまいそうなくらいだった。
 颯也は夜中の修羅場について覚えてはいないようだが、それはそれでいいかと思っている。

 さて、祖母の元の言動が言動なものだから、体が利かなくなって機嫌が悪いのか認知症の始まりなのか、両親もしばらくは判断に迷っていた。
「爺様先生と大喧嘩事件」「孫捜し事件」「花売り事件」「金庫の鍵事件」ーーと立て続けに起きるに至ってついに、介護保険の利用を決めた。
 本人を医者に診せるまでがまた一騒動あったそうなのだが、ケアマネージャーさんが家に来た時だけはニコニコと愛想良く、しっかり受け答えしていたという。

 祖母をデイサービスに通わせたりカウンセリングを受けさせたりするのはかなり難易度が高かったが、専門の医者に通わせる事は何とかできた。服薬も最初は嫌がったが父が根気強く言い含めて薬を飲ませていた。

 母と祖母はそれぞれの主治医から骨粗鬆症対策を勧められ、メーカーの違うカルシウム入りの牛乳を、自分のお財布でそれぞれ別な販売店に配達を頼んでいた。
 しかし、祖母の方は時々飲むのを忘れてしまい牛乳が溜まりがちになってしまう。父が「牛乳飲め」なんて事で怒鳴るので、さすがにあんまりだと思っていたが、医者からも頭ごなしに怒鳴るのは止められたそうだ。それでもたまに時々怒鳴っているが、気をつけてくれるようになったのはよかった。

 ところで子どもたちが配達用のびんの瓶の牛乳を珍しがるもんだから、祖母と母はそれぞれ週3で配達される自分達の牛乳を彼らにあげてはご機嫌になっていた。余剰在庫も捌けておばあちゃん二人はニコニコ、家内は平和なのだが何の改善にも解決にもなっていない。

 そんな平和でしょうもない夏休みが当たり前のように繰り返され、望むと望まざるとに関わらず私達も祖母も一年ずつ歳をとっていく。

 祖母と最後に会った去年の夏、玄関のいつもの場所に祖母宛の葉書が配達されているのをふと見つけた。
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