ばあちゃんの豆しとぎ

祖母の晩年 4〜祖母、リタイアする〜

　東京の会社に就職していた私は北関東出身の夫と結婚して移住した。颯也に続いて悠也に恵まれ、年一度の夏の帰省がやんちゃ坊主二人のドタバタで大賑やかになってきた頃、国内外でワーキングホリデー式放浪生活を繰り返していた晃夫が一体何をどうしたのか、過疎の町での貴重な勤め口を得て実家に帰ってきた。

  　飄々ひょうひょうかつ適当だし、父や母に通り一遍の事を言われてもナントカに釘&腕押しで苦にしているようには見えなかったのだが、私が北関東に永住する事がいよいよ本決まりとなり、長男の責任云々といったようなものを本人なりに感じていたのかもしれない。 　
　あるいは私よりは頻繁に実家に立ち寄っていたので、年々衰える祖母と祖母に振り回される両親の姿を見兼ねていたのかーーまさか祖母がお約束の難癖で「孫どうばそっこり孫達をみんな、遠ぐさやってしまって」などとお門違いに母を責めるのを苦にした訳でもあるまいが。 

　その頃と前後して、定年退職目前の父が土日農業を始めた。
　最初の一年ほどは一緒に畑に行ったり、あれは植えたか、これはこうしろとあれこれ口を出してたまには市にも出かけていたようだが、次の年になると父に任せて大丈夫だとホッとしたのか、あるいは長年しんどい思いを堪えながら働き続けていた反動か、完全にバトンタッチを決め込んで、父から聞かれない限り口も出さなくなった。

  最も手間暇と肉体労働の要る田んぼの方は、そのだいぶ前ーー十年以上前から近所の人に貸していた。

　よくある話だが、「先祖からの土地を荒地にしたくない」「農業を続けてくれるだけありがたい」ので土地代は無料、収穫した米の一部を気持ちでもらえればありがたいーーというやつだ。
　その人も祖母と数歳しか違わない高齢者なので、頼み込んで続けてもらっていたようなものなのだがついに数年前、その人も引退する事になり田んぼを返してきた。
 　夏に祖母と星や蛍を見ながら歩き、冬は稲の刈跡を踏みながら晃夫や近所の悪童達と競って凧ゲイラカイトを揚げた思い出の祖母の田んぼは、ご近所の田んぼ共々草だらけの広大な耕作放棄地になってしまった。

　いつか幻のバイパス計画が実現する日が来たら、ショッピングモールなり若い世代向けの新興住宅地に変貌するのかもしれないが、それにしてもこの町には同じような空き地が余り過ぎているのだ。