ばあちゃんの豆しとぎ

ようさん

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母のファミリーヒストリー 3

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「じゃあお母さん、小さい時に函館にいた事があるの?全然知らなかった」
 
「いや、生まれる前の話だ。みっこ姉さんは函館生まれだから覚えてんでねぇ?」

「小さかったすけ、私もあんまり……」

 みっこ伯母さんは表情をかげらせた。

「確か船だが鉄道だがの仕事で大怪我してさ、お母さんやお兄さんお姉さんと一緒に病院にお見舞いさ行ったのだけは覚えてるよ。まだ小さかったけど、助かるかどうかわからないんだっていうのは何となく伝わって、怖かったから。あの時助かってよがったねえ」

ほにほに本当にんでねぇば、おらぁ生まれでねえものそうでなければ私は生まれていないもの

「その後、またこっちさ帰って来て郵便局の仕事さ就いて、かずこちゃんやさっこ叔母ちゃんが生まれだんだ」

 母や伯母はさらりと言うが、下手すると母も私も叔母も、一家ごとこの世にいなかったかもしれないという事に衝撃を受けた。
 おそらく当時は戦時中で、運輸関係なら食いっぱぐれがないと祖父は踏んだのかもしれない。祖父にもしもの事態を免れなかったら、上のきょうだい達だって親戚に引き取られたり養子に出されたりとバラバラになっていて盆暮れや冠婚葬祭のたびに行き来する事すら難しかったかもしれない。

 人生のハーフタイムも見えて来たこの歳になって、今ここに生きている事の奇跡を感じるーーそれにしても、母のきょうだいにやたら教員や公務員が多いのは、幼少期の不安定な生活の反動だったりするのだろうか?

 幼児時代に死別した祖父の人となりまでは、私の記憶には残っていない。きっと優しく穏やかなお祖父さんだったのだろう。
 山師体質だろうが貧乏人のナントカだろうが、風の人を通り越して季節風の人だろうがーー頑張って生きてくれてありがとう、お祖父ちゃん。

「かずちゃんは優しいものね。よく、おばあさんの面倒みたね」

 みっこ伯母があらためて母をねぎらった。

「近所の人にもそう言われた」

 母はほっとしたような、寂しそうな顔で微笑んだ。

せっちょうはいだ大変だったども、良がったがなって」

 そして話は祖母の最後の日のことになった。
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