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翌朝は墓参り 3 〜おじとおば達〜
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父とは逆に、祖母は総じて母のきょうだい達を好ましく思っていなかったようだ。
盆の挨拶などで代わる代わる来訪したときも「よぐ来てけさったなす(よく来てくれた)」と愛想よくしているし、特に親しかったゆり子伯母やさっこ叔母が遊びに来ても丁寧に挨拶はする。
本人は日中はほとんど外にいるので接点も何もほとんどなかったと思うのだが、彼女たちが帰るとこっそり足を踏まれたの、笑われたの、ああやってよく家に来るのは家の土地を狙っているからだのと子ども時代の私に陰で吹き込んだーーもちろん、信じなかったし、母にも言わなかった。
当の母のきょうだい達がこうして、自分の実家の親族以上に息子の力になって自分の葬儀を出せたのだから、祖母も大いに悟っていい仏様になってくれることだろう。
「父が本当にお世話になりました」
私はおば達にあらためて頭を下げた。
「ううん。おらほの時もしーちゃんのお父さんやお母さんにずいぶん手伝ってもらったもの」
さっこ叔母が朗らかに答えた。
「自分が生まれ育った場所なのに、知らないことばかりで」
「みんなそうだよ。お葬式の事なんて、誰も慣れてる人なんていないべ」
「それもそうですね」
父がこの辺りの風習で松の木束に火をつけ、おじ達が祭壇や卒塔婆を点検したり整えたりしている間、女たちでそんな話をし合いながら声を立てて笑う。
「おばさんさなっても、おばあさんさなっても、生きてる間はずっと勉強なんだべな。『親を送って初めて一人前だ』づうども」
さっこ叔母がしみじみと言った。
「親を送って一人前ですか……」
手伝いだけでも今回これだけ大変だったので「どちらの親に何を遺言されても自宅で葬式はやらない」と、私と晃夫でこっそり決めた。
父のしたり顔で的外れな指示にイライラし、母の愚痴にやれやれとつき合い、正論だがやや時代遅れの小言に「そんなこと言われたって」と反発する夏休みのしょうもない日々ーーそれがある時、永久に失われる。そんな事はとても想像できないが、いつかはきっとくるはずで。
「だったら一生、一人前にならなくていいな」
私の情けない本音を叔母はふんわりと受け止めてまたからからと笑った。
「親を送って一人前」というなら、母も叔母達も一人前歴はかれこれ四半世紀以上……という事になる。人間力か親力かーーとにかくもとよりあれやこれやスペック違いなので適うわけもないし、「親らしぐねえ」と時々小言を言われようと仕方ないのかもしれないーー頭には来るけど。
「しーちゃんどうば、何時までいんの?」
本町の叔父が聞いてきた。
「明日の朝帰ります」
「あぃやあ、はぁ帰んの?もっといればいいのに」
「下の子置いて来てますから」
「ほにねえ。しーちゃんもすっかりお母さんだ」
叔母はそう言うともう一度笑った。
親が半人前でも、素直で優しい子に育ってくれた子ども達の方にここは感謝しよう。
ろうそくを灯し、線香を手向けて祖母を拝む。
盆の挨拶などで代わる代わる来訪したときも「よぐ来てけさったなす(よく来てくれた)」と愛想よくしているし、特に親しかったゆり子伯母やさっこ叔母が遊びに来ても丁寧に挨拶はする。
本人は日中はほとんど外にいるので接点も何もほとんどなかったと思うのだが、彼女たちが帰るとこっそり足を踏まれたの、笑われたの、ああやってよく家に来るのは家の土地を狙っているからだのと子ども時代の私に陰で吹き込んだーーもちろん、信じなかったし、母にも言わなかった。
当の母のきょうだい達がこうして、自分の実家の親族以上に息子の力になって自分の葬儀を出せたのだから、祖母も大いに悟っていい仏様になってくれることだろう。
「父が本当にお世話になりました」
私はおば達にあらためて頭を下げた。
「ううん。おらほの時もしーちゃんのお父さんやお母さんにずいぶん手伝ってもらったもの」
さっこ叔母が朗らかに答えた。
「自分が生まれ育った場所なのに、知らないことばかりで」
「みんなそうだよ。お葬式の事なんて、誰も慣れてる人なんていないべ」
「それもそうですね」
父がこの辺りの風習で松の木束に火をつけ、おじ達が祭壇や卒塔婆を点検したり整えたりしている間、女たちでそんな話をし合いながら声を立てて笑う。
「おばさんさなっても、おばあさんさなっても、生きてる間はずっと勉強なんだべな。『親を送って初めて一人前だ』づうども」
さっこ叔母がしみじみと言った。
「親を送って一人前ですか……」
手伝いだけでも今回これだけ大変だったので「どちらの親に何を遺言されても自宅で葬式はやらない」と、私と晃夫でこっそり決めた。
父のしたり顔で的外れな指示にイライラし、母の愚痴にやれやれとつき合い、正論だがやや時代遅れの小言に「そんなこと言われたって」と反発する夏休みのしょうもない日々ーーそれがある時、永久に失われる。そんな事はとても想像できないが、いつかはきっとくるはずで。
「だったら一生、一人前にならなくていいな」
私の情けない本音を叔母はふんわりと受け止めてまたからからと笑った。
「親を送って一人前」というなら、母も叔母達も一人前歴はかれこれ四半世紀以上……という事になる。人間力か親力かーーとにかくもとよりあれやこれやスペック違いなので適うわけもないし、「親らしぐねえ」と時々小言を言われようと仕方ないのかもしれないーー頭には来るけど。
「しーちゃんどうば、何時までいんの?」
本町の叔父が聞いてきた。
「明日の朝帰ります」
「あぃやあ、はぁ帰んの?もっといればいいのに」
「下の子置いて来てますから」
「ほにねえ。しーちゃんもすっかりお母さんだ」
叔母はそう言うともう一度笑った。
親が半人前でも、素直で優しい子に育ってくれた子ども達の方にここは感謝しよう。
ろうそくを灯し、線香を手向けて祖母を拝む。
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