ばあちゃんの豆しとぎ

ようさん

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ふるさとの海は有り難き哉 3

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 夏の観光シーズンには海水浴場や地域興しの観光イベント「砂浜まつり」の開催地として賑わう。
 地元有志によって作成されたアニメキャラクターなど砂のオブジェが飾られ、臨時ステージではバンドフェスやカラオケコンテストが開かれたりーーが、オフシーズンの砂浜は風と波が荒く、ひたすら寒く冷たいだけで絶景の他には何にもない。

 遊びに行く約束は結局、時間的な問題で難しくなり、せめて名物の磯ラーメンでも食べに行こうと畑中君の車で出かけて来たのだ。

「委員会の新歓行事で行ったことがありましたよね」

 畑中君のそんな一言で、人気のない砂浜に回り道気味の寄り道をする事になった。

 私達のように物好きな客か地元の人のためか、海岸の駐車場は一部だけ雪掻きがしてあり、積もった雪をラッセルして砂浜に降りる通り道までできていた。砂浜にも波が洗っていない所以外は雪で覆われている。
 やはりベンチコートで完全武装した颯也は「寒いー!」と叫んだり「海に雪が積もってる!」と大騒ぎでシャッターを押したり忙しいーーそして、今に至る。

「仕方ないなあ。お人好しな後輩のために、磯ラーメンは奢ってあげるよ。托鉢だと思って」

 咲恵ちゃんが持ち前の気前の良さをみせると、

「ほんとですか?やったあ」

 畑中君は学生時代に戻ったような無邪気な笑い顔を見せた。

「先輩、ゴチになります」

「ご利益ある?」

「執着を捨てて人に施しができるのが既にご利益ですよ」

「……やっぱりやめようかな」「何でですか!」

 その時、めちゃくちゃに走りながら波と戯れていた颯也がこっちに走って戻って来た。

「畑中さん、鬼ごっこしよう」

「いいよ」

 畑中君は颯也にすっかり懐かれている。

「子どもって元気だなあ。颯也君、海好きなんだね」

 と、咲恵ちゃんが笑った。

「好きっていうか……海無し県の生まれだから、珍しいっていうのもあるかな。二歳くらいの時に初めて海水浴に連れて来たら、波の音が怖いって泣いて、近づきたがらなかったの。何だかショックだった」

「本当に?海のない場所かあ……住んだ事ないから、想像もつかないわ」

「そうだろうね。昔は私もそう思ってた。意外と慣れちゃうもんだよ」

「子どもかぁ……もしできてたら私、今頃どうしてたのかなあ」

 高校までの人生の倍近い長さの、それぞれの人生を歩いて来た女二人が乾いた笑いを浮かべながら、無いものねだり混じりの感慨に浸る。

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