ばあちゃんの豆しとぎ

ようさん

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後日譚 3〜情けは人の為ならず〜

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「畑中君!スピーチよかったよ!」

 新婦友人として披露宴に呼ばれていた畑中君は、少し光沢の入ったフォーマルスーツ姿がよく似合っていた。

「ありがとうございます、先輩。本日はおめでとうございます」

「畑中さあん。咲ちゃんに聞いたんだけど、お金返しに来たんだって?」

 照れている畑中君のところに絡みに来たのは、シャンパン片手にちょっとできあがり気味の昌弘君だ。彼のお祖母ちゃんの葬儀もやはり畑中君が担当したそうで、すっかり仲良し(?)のようだ。

「竹花のお祖母ちゃんの葬式の時に、お金貸してやった不審者が」

「不審者ではありませんよ。加藤慎太郎しんたろう君です。ちゃんと名前を覚えてあげてください」

 畑中君は眉間を寄せてダメ出ししたが、声は弾んで嬉しそうだった。

 すっかり年も季節も変わり、晃夫達の結婚話まで持ち上がっていた去年の夏の終わり、畑中君の会社にボロボロの荷物を背負った毛羽毛現のような男が訪ねて来たという。あのプレハブ小屋に一泊して北海道に向かった彼ーー加藤君だった。

 畑中君は加藤君に連絡先のメモを渡していたのだが、それはとっくに紛失してしまっていた。共同墓地近くの駐在所に行って事情を話したら、会社の方を教えられて来たのだと言う。畑中君が有名人だけの事はある。

 ただしやはり所持金はなく、どこかで働いて返したいとの事だったのでーー見た目が変わった他に、意思の疎通が若干スムーズになっていたそうだーー今は畑中君が修行に通うお寺で預かってもらっているのだという。

「毛羽毛現が坊主頭に……」

「坊主頭ではないですが、サッパリはしましたね。最初はうちの会社でバイトしてもらおうかと思ったんですが、事務や接客は苦手だと本人が言うので紆余曲折の末……」

 ああ、とつい納得してしまった。

「でも、お坊さんの後輩ができたって事だよね?よかったじゃない」

「よくないでしょ。結局世話焼いてやっただけじゃん。金返してもらえるのだっていつになるか」

「どちらもまだ、どうなるかわかりませんよ。加藤君が自分の居場所を見つけられることの方が大事です」

 畑中君はこれでもかというほど柔和で福々しい笑みを湛え、嬉しそうに合掌してみせた。









 ※※※



 風土という言葉があります

 (中略)

 風は
 遠くから理想を含んで
 やってくるもの

 土は
 そこにあった生命を生み出して
 育むもの

 君、風性の人ならば
 土を求めて吹く風になれ

 君、土性の人ならば
 風を呼びこむ土になれ

 土は風の軽さを嗤い
 風は土の重さを蔑む

 愚かなことだ

 愛し合う男と女のように

 風は軽く涼やかに
 土は重く温かく

 和して文化を生むものを


 ~玉井袈裟男「風土舎創立宣言」より~
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