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 アリーチェはルッツと王都から離れた田舎で、同じ家で共に育った。

 魔族に連れ去られ、知らない森を彷徨っていたアリーチェをルッツが見つけ、そのまま彼の家で暮らすこととなった。
 彼の両親は極度のお人好しで、その血を引き継ぐ彼も困った人を見捨てる事のできない正義感に溢れた人だった。

 みなしごだと近所の子によくいじめられたアリーチェだったが、ルッツがいつも庇ってくれた。
 ルッツはアリーチェを揶揄う奴らを蹴散らすと、あんな奴らのせいで泣いてはダメだとアリーチェの涙を拭ってくれた。
 アリーチェにとっては彼は頼れる兄のような優しい幼馴染み。

 それに変化が訪れるのはすぐだった。
 十二歳を過ぎたルッツは、どんどんアリーチェと体格の差が大きくなった。
 少し低くなった彼の声、より引き締まった端正な顔つきに、どんどん大きくなる体。
 アリーチェは次第にルッツを男性として意識するようになった。

『アーチェ』

 彼はアリーチェをそう呼んで、いつも手を引いてくれた。
 アリーチェを一人にすることはなかったし、何かあればすぐに駆けつけてくれた。
 心配性で、薬草を摘みに外に出る時でも、彼はついてきた。
 自分にだけ向けられる、穏やかなその響きがアリーチェは好きだった。

 成長とともにその整った容姿に磨きがかかると、同じ年頃の少女たちは彼に色めき立っていたが、彼は関係ないとばかりに、無表情に対応していた。
 しかし、決して彼女たちを無碍にするわけではなく、律儀に向き合って断る姿は彼らしいものだった。
 彼の表情が乏しいのは通常運転。
 けれど、彼の振る舞いには思いやりがあって、見て見ぬふりなんて絶対できない人。
 そんな不器用なルッツが大好きだった。

 大好きは日に日に強くなって、いつの間にかルッツがアリーチェの全てになっていた。

 だから、彼が勇者と判明し、王都に連れていかれそうになった時、アリーチェは後先考えずについて行くことを決めた。
 アリーチェには、彼と離れるなんてありえないことだった。

 そんなアリーチェにルッツは問いかけた。

「アーチェ、本当にいいのか? 」

 ルッツは、真面目な顔でアリーチェに確認する。
 アリーチェはそれに当然だと頷いた。

「だってルッツが私を見つけた時から、私はルッツについて行くって決めてるもの」

 それ以外の選択肢はアリーチェにはない。
 森でアリーチェを見つけたのは他の誰でもなくルッツだ。
 そしてそれからの共に過ごした時間は決して消えることはない。

 そんなアリーチェの決断をルッツは受け取ってくれた。

 「なら、逃げるなよ」

 ルッツはアーチェの知らない声色でそう呟いた。

 すると、アリーチェのおでこに彼の唇が触れた。
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