「帰ったら、結婚しよう」と言った幼馴染みの勇者は、私ではなく王女と結婚するようです

しーしび

文字の大きさ
2 / 24

1

しおりを挟む
 アリーチェはルッツと王都から離れた田舎で、同じ家で共に育った。

 魔族に連れ去られ、知らない森を彷徨っていたアリーチェをルッツが見つけ、そのまま彼の家で暮らすこととなった。
 彼の両親は極度のお人好しで、その血を引き継ぐ彼も困った人を見捨てる事のできない正義感に溢れた人だった。

 みなしごだと近所の子によくいじめられたアリーチェだったが、ルッツがいつも庇ってくれた。
 ルッツはアリーチェを揶揄う奴らを蹴散らすと、あんな奴らのせいで泣いてはダメだとアリーチェの涙を拭ってくれた。
 アリーチェにとっては彼は頼れる兄のような優しい幼馴染み。

 それに変化が訪れるのはすぐだった。
 十二歳を過ぎたルッツは、どんどんアリーチェと体格の差が大きくなった。
 少し低くなった彼の声、より引き締まった端正な顔つきに、どんどん大きくなる体。
 アリーチェは次第にルッツを男性として意識するようになった。

『アーチェ』

 彼はアリーチェをそう呼んで、いつも手を引いてくれた。
 アリーチェを一人にすることはなかったし、何かあればすぐに駆けつけてくれた。
 心配性で、薬草を摘みに外に出る時でも、彼はついてきた。
 自分にだけ向けられる、穏やかなその響きがアリーチェは好きだった。

 成長とともにその整った容姿に磨きがかかると、同じ年頃の少女たちは彼に色めき立っていたが、彼は関係ないとばかりに、無表情に対応していた。
 しかし、決して彼女たちを無碍にするわけではなく、律儀に向き合って断る姿は彼らしいものだった。
 彼の表情が乏しいのは通常運転。
 けれど、彼の振る舞いには思いやりがあって、見て見ぬふりなんて絶対できない人。
 そんな不器用なルッツが大好きだった。

 大好きは日に日に強くなって、いつの間にかルッツがアリーチェの全てになっていた。

 だから、彼が勇者と判明し、王都に連れていかれそうになった時、アリーチェは後先考えずについて行くことを決めた。
 アリーチェには、彼と離れるなんてありえないことだった。

 そんなアリーチェにルッツは問いかけた。

「アーチェ、本当にいいのか? 」

 ルッツは、真面目な顔でアリーチェに確認する。
 アリーチェはそれに当然だと頷いた。

「だってルッツが私を見つけた時から、私はルッツについて行くって決めてるもの」

 それ以外の選択肢はアリーチェにはない。
 森でアリーチェを見つけたのは他の誰でもなくルッツだ。
 そしてそれからの共に過ごした時間は決して消えることはない。

 そんなアリーチェの決断をルッツは受け取ってくれた。

 「なら、逃げるなよ」

 ルッツはアーチェの知らない声色でそう呟いた。

 すると、アリーチェのおでこに彼の唇が触れた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

(完結)婚約者の勇者に忘れられた王女様――行方不明になった勇者は妻と子供を伴い戻って来た

青空一夏
恋愛
私はジョージア王国の王女でレイラ・ジョージア。護衛騎士のアルフィーは私の憧れの男性だった。彼はローガンナ男爵家の三男で到底私とは結婚できる身分ではない。 それでも私は彼にお嫁さんにしてほしいと告白し勇者になってくれるようにお願いした。勇者は望めば王女とも婚姻できるからだ。 彼は私の為に勇者になり私と婚約。その後、魔物討伐に向かった。 ところが彼は行方不明となりおよそ2年後やっと戻って来た。しかし、彼の横には子供を抱いた見知らぬ女性が立っており・・・・・・ ハッピーエンドではない悲恋になるかもしれません。もやもやエンドの追記あり。ちょっとしたざまぁになっています。

勇者様がお望みなのはどうやら王女様ではないようです

ララ
恋愛
大好きな幼馴染で恋人のアレン。 彼は5年ほど前に神託によって勇者に選ばれた。 先日、ようやく魔王討伐を終えて帰ってきた。 帰還を祝うパーティーで見た彼は以前よりもさらにかっこよく、魅力的になっていた。 ずっと待ってた。 帰ってくるって言った言葉を信じて。 あの日のプロポーズを信じて。 でも帰ってきた彼からはなんの連絡もない。 それどころか街中勇者と王女の密やかな恋の話で大盛り上がり。 なんで‥‥どうして?

婚約者に愛する人が出来たので、身を引く事にしました

Blue
恋愛
 幼い頃から家族ぐるみで仲が良かったサーラとトンマーゾ。彼が学園に通うようになってしばらくして、彼から告白されて婚約者になった。サーラも彼を好きだと自覚してからは、穏やかに付き合いを続けていたのだが、そんな幸せは壊れてしまう事になる。

旦那様は私より幼馴染みを溺愛しています。

香取鞠里
恋愛
旦那様はいつも幼馴染みばかり優遇している。 疑いの目では見ていたが、違うと思い込んでいた。 そんな時、二人きりで激しく愛し合っているところを目にしてしまった!?

最近彼氏の様子がおかしい!私を溺愛し大切にしてくれる幼馴染の彼氏が急に冷たくなった衝撃の理由。

佐藤 美奈
恋愛
ソフィア・フランチェスカ男爵令嬢はロナウド・オスバッカス子爵令息に結婚を申し込まれた。 幼馴染で恋人の二人は学園を卒業したら夫婦になる永遠の愛を誓う。超名門校のフォージャー学園に入学し恋愛と楽しい学園生活を送っていたが、学年が上がると愛する彼女の様子がおかしい事に気がつきました。 一緒に下校している時ロナウドにはソフィアが不安そうな顔をしているように見えて、心配そうな視線を向けて話しかけた。 ソフィアは彼を心配させないように無理に笑顔を作って、何でもないと答えますが本当は学園の経営者である理事長の娘アイリーン・クロフォード公爵令嬢に精神的に追い詰められていた。

【完結】私たち白い結婚だったので、離婚してください

楠結衣
恋愛
田舎の薬屋に生まれたエリサは、薬草が大好き。薬草を摘みに出掛けると、怪我をした一匹の子犬を助ける。子犬だと思っていたら、領主の息子の狼獣人ヒューゴだった。 ヒューゴとエリサは、一緒に薬草採取に出掛ける日々を送る。そんなある日、魔王復活の知らせが世界を駆け抜け、神託によりヒューゴが勇者に選ばれることに。 ヒューゴが出立の日、エリサは自身の恋心に気づいてヒューゴに告白したところ二人は即結婚することに……! 「エリサを泣かせるなんて、絶対許さない」 「エリサ、愛してる!」 ちょっぴり鈍感で薬草を愛するヒロインが、一途で愛が重たい変態風味な勇者に溺愛されるお話です。

【完結】本当に愛していました。さようなら

梅干しおにぎり
恋愛
本当に愛していた彼の隣には、彼女がいました。 2話完結です。よろしくお願いします。

処理中です...