21 / 41
2 天空への旅
4.夜襲
しおりを挟む
「ホライヨン、起きて!」
痛いくらいに肩先を突つかれ、目を覚ました。葦の根元のちくちくした大地に辛うじて茣蓙を強いて、俺は眠っていた。
まだ深夜だ。月の光が冴え冴えと照り渡っている。
「母さん……」
「寝ぼけてないで。追っ手よ。逃げなさい。これを持って、早く!」
母は、俺の首に革袋を吊るした。呪文で縮めた父の両手の入っている革袋だ。
「落としたら許さない。全速力で走るのよ。私は後から追いつく」
「僕も戦う」
それは当然のことと思われた。
「お前がいたら邪魔!」
それなのにどんと背中を押された。よろめき、やっとのことで立ち止まりと、母は俺を凄い目で睨んだ。
「お前が一番邪魔なの」
それは、全く本意ではなかった。母の邪魔になるのは。
生い茂った水草の間を、俺は、よろよろと走りはじめた。
「あそこだ! いたぞ!」
揺れる葦の茂みに気がついたのか、兵士たちの一団が追いかけてきた。すっかり見慣れたエメドラードの兵士達、叔父の親衛隊だ。
「裏切り者の犬どもめ。私に何か用?」
ふわりと母の体が上空に舞い上がる。湿地から浮き上がり、母は兵士たちを睥睨した。
「タビサ王太妃!」
親衛隊長が敬礼した。とってつけたような礼だった。
「我らが王は、貴女のお命を狙っているわけではありません。ただ、例のものをお返し頂きたいだけです」
「例のものとは?」
嘲るような高い声が、月光を浴びて冴えわたる。
「言わずともおわかりでしょう? 先日貴女が河原で回収された二つのものです」
「なるほど。私としたことが、尾行をつけられていたってわけね」
「偉大なるサハル陛下にご存じないことなど何もないのです。貴女がお持ちであることはわかっています。諦めてお返し下さい」
「変な言い方ね。返すなんて」
「そもそもあれは、サハル陛下がタバシン河に流されたものです」
「やっぱりあの人がサハルが殺したのね」
確信を持って問い詰めた言葉に、親衛隊長は言葉を途切らせた。しまったという表情から、国王から口止めされていたのだとわかる。
してやったとばかり、母は笑った。
「ばらばらにして河に投げ捨てたものに、なぜ今更執着するの?」
「それは……」
「母さん、後ろ!」
俺は叫んだ。
背後の草むらから、今まさに兵士が槍を投げようとしていた。
凄みのある笑みを母が浮かべた。
その華奢な手が、飛んできた槍を掴む。間髪入れず投げ返した。槍は過たず投げた兵士の胸に突き刺さり、兵士は者も言わずに昏倒した。
それが合図だった。
周囲から一斉に矢が放たれた。飛んできた矢は一点でぶつかる。さっきまでそこにいた母は、いなかった。空しく互いの矢じりがぶつかり合った矢たちは、鋭い音を立てて四散した。
母は、高い位置に跳ね上がっていた。もちろん、全くの無傷だ。大きな声で笑いながら両手を上へ差し出す。凄まじい突風が巻き起こった。細かい砂を巻き上げた風は竜巻となり、師団に襲い掛かった。
「気の毒ね。私たちがここにいることがわかってしまった以上、貴方がたを生きて返すわけにはいかないの。ただの一人もね!」
嘲るような声が聞こえた。次の瞬間、うめき声と凄まじい血の雨が、乾いた大地に降り注いだ。
痛いくらいに肩先を突つかれ、目を覚ました。葦の根元のちくちくした大地に辛うじて茣蓙を強いて、俺は眠っていた。
まだ深夜だ。月の光が冴え冴えと照り渡っている。
「母さん……」
「寝ぼけてないで。追っ手よ。逃げなさい。これを持って、早く!」
母は、俺の首に革袋を吊るした。呪文で縮めた父の両手の入っている革袋だ。
「落としたら許さない。全速力で走るのよ。私は後から追いつく」
「僕も戦う」
それは当然のことと思われた。
「お前がいたら邪魔!」
それなのにどんと背中を押された。よろめき、やっとのことで立ち止まりと、母は俺を凄い目で睨んだ。
「お前が一番邪魔なの」
それは、全く本意ではなかった。母の邪魔になるのは。
生い茂った水草の間を、俺は、よろよろと走りはじめた。
「あそこだ! いたぞ!」
揺れる葦の茂みに気がついたのか、兵士たちの一団が追いかけてきた。すっかり見慣れたエメドラードの兵士達、叔父の親衛隊だ。
「裏切り者の犬どもめ。私に何か用?」
ふわりと母の体が上空に舞い上がる。湿地から浮き上がり、母は兵士たちを睥睨した。
「タビサ王太妃!」
親衛隊長が敬礼した。とってつけたような礼だった。
「我らが王は、貴女のお命を狙っているわけではありません。ただ、例のものをお返し頂きたいだけです」
「例のものとは?」
嘲るような高い声が、月光を浴びて冴えわたる。
「言わずともおわかりでしょう? 先日貴女が河原で回収された二つのものです」
「なるほど。私としたことが、尾行をつけられていたってわけね」
「偉大なるサハル陛下にご存じないことなど何もないのです。貴女がお持ちであることはわかっています。諦めてお返し下さい」
「変な言い方ね。返すなんて」
「そもそもあれは、サハル陛下がタバシン河に流されたものです」
「やっぱりあの人がサハルが殺したのね」
確信を持って問い詰めた言葉に、親衛隊長は言葉を途切らせた。しまったという表情から、国王から口止めされていたのだとわかる。
してやったとばかり、母は笑った。
「ばらばらにして河に投げ捨てたものに、なぜ今更執着するの?」
「それは……」
「母さん、後ろ!」
俺は叫んだ。
背後の草むらから、今まさに兵士が槍を投げようとしていた。
凄みのある笑みを母が浮かべた。
その華奢な手が、飛んできた槍を掴む。間髪入れず投げ返した。槍は過たず投げた兵士の胸に突き刺さり、兵士は者も言わずに昏倒した。
それが合図だった。
周囲から一斉に矢が放たれた。飛んできた矢は一点でぶつかる。さっきまでそこにいた母は、いなかった。空しく互いの矢じりがぶつかり合った矢たちは、鋭い音を立てて四散した。
母は、高い位置に跳ね上がっていた。もちろん、全くの無傷だ。大きな声で笑いながら両手を上へ差し出す。凄まじい突風が巻き起こった。細かい砂を巻き上げた風は竜巻となり、師団に襲い掛かった。
「気の毒ね。私たちがここにいることがわかってしまった以上、貴方がたを生きて返すわけにはいかないの。ただの一人もね!」
嘲るような声が聞こえた。次の瞬間、うめき声と凄まじい血の雨が、乾いた大地に降り注いだ。
10
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新!
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話
あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」
トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。
お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。
攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。
兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。
攻め:水瀬真広
受け:神崎彼方
⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。
途中でモブおじが出てきます。
義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。
初投稿です。
初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
内容も時々サイレント修正するかもです。
定期的にタグ整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼不定期連載となりました。
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。
藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。
妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、
彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。
だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、
なぜかアラン本人に興味を持ち始める。
「君は、なぜそこまで必死なんだ?」
「妹のためです!」
……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。
妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。
ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。
そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。
断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。
誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
-----------------------------------------
0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新
悪役令息に転生したので、死亡フラグから逃れます!
伊月乃鏡
BL
超覇権BLゲームに転生したのは──ゲーム本編のシナリオライター!?
その場のテンションで酷い死に方をさせていた悪役令息に転生したので、かつての自分を恨みつつ死亡フラグをへし折ることにした主人公。
創造者知識を総動員してどうにか人生を乗り切っていくが、なんだかこれ、ゲーム本編とはズレていってる……?
ヤンデレ攻略対象に成長する弟(兄のことがとても嫌い)を健全に、大切に育てることを目下の目標にして見るも、あれ? 様子がおかしいような……?
女好きの第二王子まで構ってくるようになって、どうしろっていうんだよただの悪役に!
──とにかく、死亡フラグを回避して脱・公爵求む追放! 家から出て自由に旅するんだ!
※
一日三話更新を目指して頑張ります
忙しい時は一話更新になります。ご容赦を……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる