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2 天空への旅
10.雌伏
しおりを挟む8年が経った。
相変わらずタビサはダレイオの体を探す行脚を続けていた。
死者の蘇りの噂だけが頼りだった。けれど、フィラン島の人柱の娘たちやテンドール神殿での噂を最後に、そうした噂もぷっつりと途切れていた。
「サハルがあの人の脚をもっていることは確かよ。中洲の頓宮から転送させたと自分で言っていたのだから。でも、いったいどこに隠したのか。体のほんの一部でもあれば、周囲の死者たちは蘇らずにいられない。なのに、ここのところ、死人の噂は皆無だわ。サハルの奴、よっぽど強い結界を張っているのに違いない」
フィラン島では、島の堤防に、生贄となった乙女たちが埋められていた。神殿に納められたダレイオの腕の周りには結界が張られていたが、神官の血が零れ落ちたことにより、その結界が破られてしまった。彼の生命力は周囲に漏れ出し、乙女たちは死人として復活した。
この騒動が伝わり、タビサは、ダレイオの(というよりその体の一部の)居所を知ることができた。
けれど、あれ以降、死人が蘇ったという噂は聞かない。
「父上は、死人の葬られていないところにおられるのでは?」
息子が言った。
幼かったホライヨンは、17歳になっていた。その羽は猛禽類のようにたくましく成長し、彼は自在に空を飛ぶことができる。
「死人のいない場所? 馬鹿ね。そんなところが、この国にあるわけないじゃないの」
「そうですね」
エメドラードは、それだけ戦乱に明け暮れてきたのだ。
「昔は、王のいるところに戦乱なしと言われていた。貴方の父上はそれだけ、民に慕われてきた。彼は、民の怪我や病をいやし、心を安寧に導いてきたから」
ホライヨンの肌は、依然として褐色だった。だが、その件について、タビサはもう、何も言わない。
緑色の肌の者だけが王位に就けるというのは、まやかしだ。
現在の王、奸計を用いて彼女の夫から王位を簒奪したサハルは、抜けるような白い肌をしている。それでも彼は、国を治めているではないか。
調子に乗ったサハルは、布告を出した。それによれば、王を倒した者こそが、次の王者たりうるという。
王の布告は絶対だ。たとえそれが、兄を殺し、自ら即位した悪逆非道な簒奪者だったとしても。
王位と肌の色の相関関係は失われた。邪悪なサハルを王座から追い出す者は正義であり、かつまた、次の国王となるのだ。
そしてタビサは、それは自分の息子ホライヨンに他ならないと信じている。
たくましく育ったホライヨンこそが、正統なこの国の王となるのだ。
「けれど母上。俺に民の病を癒す力はありません」
ホライヨンの顔色は冴えない。
「まあ、そうかもね。でも、だから何だって言うの?」
タビサは平然としてる。
「少なくともあのサハルよりずっと格上よ。あなたはダレイオと私の息子なのだから」
「はあ。そんなものでしょうか」
なおもホライヨンは自信なさげだ。
「そんなもんよ、世間というものは! とりあえず、サハルを倒せばいいのよ。いいえ、必ずサハルを倒さねばならない。なにしろあいつときたら……」
タビサは言葉を濁した。
彼の暴虐のせいで国は乱れ、王宮は荒れ果てているという。
「王を倒した者が王になるという宣旨は、サハル自身が出したもの。遠慮はいらない。貴方が王になるの。憎いサハルを殺してね」
「俺が、王に? けれど、この国の民がそれを認めるでしょうか」
不安そうな息子に、タビサはふっと微笑んだ。
「大丈夫よ。ばらばらになった父上の御身体を集めればいいの。簡単よ。すでに両腕は私達の手元にあるしね」
「まさか、母上……」
「そう。民の傷や病は、父上に癒してもらいましょう」
ホライヨンにとってそれは、いい考えのように思われた。けれどじっくり考えると、それなら自分が即位する必要はないではないか?
「なら、父上に重祚して頂いたらいかがでしょう」
「馬鹿言うんじゃない。次の王は貴方。だって、息子には私の血も流れている。夫には流れていないけど」
「母上。それはどういう……」
「ダレイオは私を裏切った」
タビサの目が爛々と輝く。
「あろうことか、私の妹とね。しかも、彼女は緑の肌の子を産んだ。私の子どもの肌は茶色いのに」
母が自分の肌の色を気にしていないというのは嘘だな、とホライヨンは思った。そして彼女は、今でも父を許していない。
「けれど、母上。今の父上が復活させるのは、死人ばかりです」
ダレイオの腕で幾度か試してみたが、どうやら切り離された腕には、生者を癒す力はないようだ。
「お黙り。とにかく次の王は貴方。貴方こそダレイオの正当な、たった一人の息子なのだから」
一言吠えて、タビサは息子を黙らせた。
放浪の旅を続けながら、彼女は時機を狙っていた。
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