7 / 34
第壱柱
第六伝 『解放の条件』
しおりを挟む
如月は境内入口で足を止める。相手の出方が分からない故だ。
朔が人質となっている為、無暗矢鱈に突っ込めない。朔を傷付けさせるわけにはいかない。
そうして如月が様子を窺っている事に、朔を押さえ付ける男子も気付いていた。
男子はニヤリと笑って言葉を返す。
「それはお前が俺の条件を飲むかどうかによる。」
「…条件って?」
「分かってんだろ?ここの封印を解け。」
「!」
「五大妖怪の封印が弱まってきてる今が好機だろ。」
ピクリと眉を動かす如月。その反応を見て、男子は勝ち誇ったような顔を浮かべた。
朔を見殺しには出来ないだろう。この状況では封印を解かざるをえまい。
そう考えたのだ。
如月の様子を注意深く見ていたのは男子だけではない。朔もそうだ。
朔は男子と如月とを見比べ、『マズイ!』そう思った。そして如月に向かって叫ぶ。
「ダメだ、如月さん!!」
「!」
如月と男子との睨み合い。緊迫した空気が流れている。
まさかそんな空気の中、朔が割って入って来るとは思っていなかった。
如月は少し驚いた表情を浮かべて朔の方へと目を向ける。朔は男子に押さえ付けられながらも続けて叫んだ。
「ここって何かスゲー場所なんだよな!?」
(こいつ…!)
自分の命より封印を優先しろとでも言うつもりか。
そんな事は言わせまいと、男子の力は更に強くなる。
だがそれでも朔は叫び続けた。
「どんだけ重要な場所か知らないけど!封印解きたくない気持ちは分かるけど!人一人の命掛かってるんで!何とか助けて下さいお願いします!!」
ずるっ。
なんか思ってたのと違う言葉が飛び交った。
如月と男子は共にあっけに取られる。
だが少しの間を置いて先に男子が我に返り、自らの下に敷き込んでいる朔に向かって盛大にツッコんだ。
「ここでその発言!?おかしいだろ!!俺が言うのもなんだけど!!ここはフツー『俺なんかより封印を優先してくれ~!』だろうが!」
そのツッコミを受けて、朔は先程までは如月に向けていた視線を男子へと移した。
「何処の世界の普通!?俺にとっちゃこっちのが普通だよ!」
「はぁ!?」
「だって俺、彼女にとって通行人Aのレベルだからな!?なんか凄そうな封印とモブAだったら絶対封印取るだろ!」
「言われてみりゃそうだな…。って、だったらお前人質に取った意味なくね!?」
「だから言ったんだよ!!」
「・・・・・。」
目の前でギャーギャーと騒ぎ立てる二人。何故か如月がアウェーに。
如月は白けた目つきで二人を見守っている。
と、ここで再び朔が如月へと目を向けた。
「如月さん!すんません!封印って言うからには解いたらまた施せばいいんだろ!?それ手伝うんで何とか!!」
「!」
朔の言葉に何やら反応する如月。
だが如月が言葉を返す前に再び男子が朔へと怒号を浴びせた。
「お前情けなさ過ぎだろ!男として恥ずかしいと思わねーのか!!」
「恥ずかしく思う心も命あってこそのもんだろ!死んじまったら元も子もねーんだよ!!つーかお前どーしたいんだよ!むしろお前の味方になってる俺の味方しろよ!」
と、そこまで発言したところで、ふと朔は何かに気付いたように表情を変える。
そして男子に真面目な顔を向けて一つの提案をしてみた。
「…あれ?だったらお前が俺を離してくれたら丸く収まるんじゃね?」
「あ、そうだな。…って離すかァ!!」
やっぱり駄目か。
軽く「チッ」と舌打ちをする。
そしてここで、一人取り残されていた如月が眉根を寄せながら口を開いた。
「ちょっと。」
ハッとなる男二人。
メインゲストそっちのけで何やってんだ。
男子は如月へと目を向けて言葉を返した。
「あ、悪ィ悪ィ。で?どうする?ここの封印解かなきゃこいつは解放しねぇ。」
「・・・・答えは、ノーよ。」
「!!」
ピシャーン!!
雷に打たれたような衝撃でショックを受ける二人。(特に朔)
朔は涙目で男子に訴えた。
「ほら!だから言っただろ!!」
「半分はお前のせいだよ!」
「なんでだよ!」
「あんな情けねー懇願されたら助ける気も失せるわ!」
「はァ!?」
「今から宿題しようとしてる子どもにお母さんが『早く宿題しなさい!』って言って、やる気失せさせるアレと一緒だよ!」
「なんつー例えだよ!でも分かりやすいな!!…えっ!?マジで!?それで!!??」
まさかの自分のせい!?
朔は慌てて如月へと目を向ける。
視界に入れた如月は、護符を構えて何かを念じていた。
『水矢』
そして次の瞬間、昨夜のように護符から水が発生し、一直線に男子へと襲い掛かる。
「ぐっ!」
「やった!解けた!」
男二人で言い争っていた事で、男子に隙が生じていた。その隙を狙って攻撃を仕掛けたのだ。如月の攻撃は見事、男子だけを襲って朔から引き剥がす事に成功。男子は水圧で社の柱へと打ち付けられる。
一方朔は、男子の拘束から放たれた事で立ち上がり、如月の傍へと駆け寄った。
柱に激突した男子は、そのままズルリと地に腰を付ける。
その様子を見た如月は男子へと言葉を投げた。
「形勢逆転ね。大人しく裏の世界に帰るならこれ以上は何もしないわ。」
どう見ても如月が優勢。
だが男子は「へっ。」と笑みを漏らした。
「“これ以上何も出来ない”の間違いだろ?ここが何処か…知らないわけじゃねーよな…?」
「!!」
男子は座った姿勢のまま右手を伸ばした。次の瞬間、朔と如月の周りに、いくつもの青白い炎が浮かび上がり、二人は囲まれる。
「いくら水が優勢でも、ここは俺に加護のある領域だ。」
(これ冗談抜きでヤバイやつだろ…!!)
その火力は昨晩の比ではない。大きく燃え上がってゆく炎に、朔は冷や汗を垂らした。
「くらえ!!」
そして男子は伸ばした右掌をぐっと握る。次の瞬間、炎は二人目掛けて襲い掛かった。
もう駄目だ、終わった。
朔がそう思ったのとほぼ同時に、如月は朔を押しのける。
朔は囲まれた炎のサークルから突き出され、如月だけが炎の攻撃を一身に受けた。
「!?」
朔が人質となっている為、無暗矢鱈に突っ込めない。朔を傷付けさせるわけにはいかない。
そうして如月が様子を窺っている事に、朔を押さえ付ける男子も気付いていた。
男子はニヤリと笑って言葉を返す。
「それはお前が俺の条件を飲むかどうかによる。」
「…条件って?」
「分かってんだろ?ここの封印を解け。」
「!」
「五大妖怪の封印が弱まってきてる今が好機だろ。」
ピクリと眉を動かす如月。その反応を見て、男子は勝ち誇ったような顔を浮かべた。
朔を見殺しには出来ないだろう。この状況では封印を解かざるをえまい。
そう考えたのだ。
如月の様子を注意深く見ていたのは男子だけではない。朔もそうだ。
朔は男子と如月とを見比べ、『マズイ!』そう思った。そして如月に向かって叫ぶ。
「ダメだ、如月さん!!」
「!」
如月と男子との睨み合い。緊迫した空気が流れている。
まさかそんな空気の中、朔が割って入って来るとは思っていなかった。
如月は少し驚いた表情を浮かべて朔の方へと目を向ける。朔は男子に押さえ付けられながらも続けて叫んだ。
「ここって何かスゲー場所なんだよな!?」
(こいつ…!)
自分の命より封印を優先しろとでも言うつもりか。
そんな事は言わせまいと、男子の力は更に強くなる。
だがそれでも朔は叫び続けた。
「どんだけ重要な場所か知らないけど!封印解きたくない気持ちは分かるけど!人一人の命掛かってるんで!何とか助けて下さいお願いします!!」
ずるっ。
なんか思ってたのと違う言葉が飛び交った。
如月と男子は共にあっけに取られる。
だが少しの間を置いて先に男子が我に返り、自らの下に敷き込んでいる朔に向かって盛大にツッコんだ。
「ここでその発言!?おかしいだろ!!俺が言うのもなんだけど!!ここはフツー『俺なんかより封印を優先してくれ~!』だろうが!」
そのツッコミを受けて、朔は先程までは如月に向けていた視線を男子へと移した。
「何処の世界の普通!?俺にとっちゃこっちのが普通だよ!」
「はぁ!?」
「だって俺、彼女にとって通行人Aのレベルだからな!?なんか凄そうな封印とモブAだったら絶対封印取るだろ!」
「言われてみりゃそうだな…。って、だったらお前人質に取った意味なくね!?」
「だから言ったんだよ!!」
「・・・・・。」
目の前でギャーギャーと騒ぎ立てる二人。何故か如月がアウェーに。
如月は白けた目つきで二人を見守っている。
と、ここで再び朔が如月へと目を向けた。
「如月さん!すんません!封印って言うからには解いたらまた施せばいいんだろ!?それ手伝うんで何とか!!」
「!」
朔の言葉に何やら反応する如月。
だが如月が言葉を返す前に再び男子が朔へと怒号を浴びせた。
「お前情けなさ過ぎだろ!男として恥ずかしいと思わねーのか!!」
「恥ずかしく思う心も命あってこそのもんだろ!死んじまったら元も子もねーんだよ!!つーかお前どーしたいんだよ!むしろお前の味方になってる俺の味方しろよ!」
と、そこまで発言したところで、ふと朔は何かに気付いたように表情を変える。
そして男子に真面目な顔を向けて一つの提案をしてみた。
「…あれ?だったらお前が俺を離してくれたら丸く収まるんじゃね?」
「あ、そうだな。…って離すかァ!!」
やっぱり駄目か。
軽く「チッ」と舌打ちをする。
そしてここで、一人取り残されていた如月が眉根を寄せながら口を開いた。
「ちょっと。」
ハッとなる男二人。
メインゲストそっちのけで何やってんだ。
男子は如月へと目を向けて言葉を返した。
「あ、悪ィ悪ィ。で?どうする?ここの封印解かなきゃこいつは解放しねぇ。」
「・・・・答えは、ノーよ。」
「!!」
ピシャーン!!
雷に打たれたような衝撃でショックを受ける二人。(特に朔)
朔は涙目で男子に訴えた。
「ほら!だから言っただろ!!」
「半分はお前のせいだよ!」
「なんでだよ!」
「あんな情けねー懇願されたら助ける気も失せるわ!」
「はァ!?」
「今から宿題しようとしてる子どもにお母さんが『早く宿題しなさい!』って言って、やる気失せさせるアレと一緒だよ!」
「なんつー例えだよ!でも分かりやすいな!!…えっ!?マジで!?それで!!??」
まさかの自分のせい!?
朔は慌てて如月へと目を向ける。
視界に入れた如月は、護符を構えて何かを念じていた。
『水矢』
そして次の瞬間、昨夜のように護符から水が発生し、一直線に男子へと襲い掛かる。
「ぐっ!」
「やった!解けた!」
男二人で言い争っていた事で、男子に隙が生じていた。その隙を狙って攻撃を仕掛けたのだ。如月の攻撃は見事、男子だけを襲って朔から引き剥がす事に成功。男子は水圧で社の柱へと打ち付けられる。
一方朔は、男子の拘束から放たれた事で立ち上がり、如月の傍へと駆け寄った。
柱に激突した男子は、そのままズルリと地に腰を付ける。
その様子を見た如月は男子へと言葉を投げた。
「形勢逆転ね。大人しく裏の世界に帰るならこれ以上は何もしないわ。」
どう見ても如月が優勢。
だが男子は「へっ。」と笑みを漏らした。
「“これ以上何も出来ない”の間違いだろ?ここが何処か…知らないわけじゃねーよな…?」
「!!」
男子は座った姿勢のまま右手を伸ばした。次の瞬間、朔と如月の周りに、いくつもの青白い炎が浮かび上がり、二人は囲まれる。
「いくら水が優勢でも、ここは俺に加護のある領域だ。」
(これ冗談抜きでヤバイやつだろ…!!)
その火力は昨晩の比ではない。大きく燃え上がってゆく炎に、朔は冷や汗を垂らした。
「くらえ!!」
そして男子は伸ばした右掌をぐっと握る。次の瞬間、炎は二人目掛けて襲い掛かった。
もう駄目だ、終わった。
朔がそう思ったのとほぼ同時に、如月は朔を押しのける。
朔は囲まれた炎のサークルから突き出され、如月だけが炎の攻撃を一身に受けた。
「!?」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
月華後宮伝
織部ソマリ
キャラ文芸
★10/30よりコミカライズが始まりました!どうぞよろしくお願いします!
◆神託により後宮に入ることになった『跳ねっ返りの薬草姫』と呼ばれている凛花。冷徹で女嫌いとの噂がある皇帝・紫曄の妃となるのは気が進まないが、ある目的のために月華宮へ行くと心に決めていた。凛花の秘めた目的とは、皇帝の寵を得ることではなく『虎に変化してしまう』という特殊すぎる体質の秘密を解き明かすこと! だが後宮入り早々、凛花は紫曄に秘密を知られてしまう。しかし同じく秘密を抱えている紫曄は、凛花に「抱き枕になれ」と予想外なことを言い出して――?
◆第14回恋愛小説大賞【中華後宮ラブ賞】受賞。ありがとうございます!
◆旧題:月華宮の虎猫の妃は眠れぬ皇帝の膝の上 ~不本意ながらモフモフ抱き枕を拝命いたします~
翡翠の歌姫-皇帝が封じた声-サスペンス×中華×切ない恋
雪城 冴 (ゆきしろ さえ)
キャラ文芸
宮廷歌姫の“声”は、かつて皇帝が封じた禁断の力? 翠蓮は孤児と蔑まれるが、才能で皇子や皇后の目を引き、後宮の争いや命の危機に引きずり込まれていく。
『強情な歌姫』翠蓮(スイレン)は、その出自ゆえか素直に甘えられず、守られるとついつい罪悪感を抱いてしまう。
そんな彼女は、田舎から歌姫を目指して宮廷の門を叩く。しかし、さっそく罠にかかり、いわれのない濡れ衣を着せられる。
翠蓮に近づくのは、真逆のタイプの二人の皇子。
優しく寄り添う“学”の皇子・蒼瑛(ソウエイ)と、危険な香りをまとう“武”の皇子・炎辰(エンシン)。
嘘をついているのは誰なのか――
声に導かれ、三人は王家が隠し続けてきた運命へと引き寄せられていく。
【中華サスペンス×切ない恋】
ミステリー要素あり/ドロドロな重い話あり/身分違いの恋あり
少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。
昼寝部
キャラ文芸
俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。
その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。
とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。
まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。
これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる