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第参柱
第十六伝 『生徒会副会長の魅力』
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食堂ではまず席を確保し、食券を買いに券売機へ。これまで毎日食堂利用の朔だが、食券を買って食堂メニューを食べるのは初めて。この数日間はずっとパンを買って適当な場所で食べていた。気になるメニューが多々あっただけに、これも合わせて喜びで胸が躍る。だがあまりにも浮かれて気持ち悪がられるわけにもいかないと思い、その想いはそっと胸の奥へとしまった。
朔はカツ丼、松山はざる蕎麦を。葛葉はきつねうどんを頼んだ。それを見た朔は、やっぱり狐は油揚げが好きなんだな、と思った。
席に着いて食べ始める三人。朔はカツ丼へと箸を運びながら松山に質問を投げる。
「松山はいつも食堂?」
朔からの質問を受け、松山も食べながら笑顔で答える。
「基本的にはそうかな。母さんが仕事休みの時は気まぐれで弁当作ってくれるんだけど。」
「へぇ~。いいなぁ手作り弁当。」
心からの感想だった。朔は幼い頃に両親を事故で亡くしており、母の手作り弁当を食べたのは保育園の時だけ。正直、味どころか何が入っていたかすらあまり覚えていない。単純に作ってくれる人がいる事を羨ましいと思った。
その存在が近くにある時には、なかなか気付けないものである。持ち合わせていない人間程、その大切さをよく知っているものだ。
少し寂しさを含んだ朔の目を、葛葉はチラリと見やる。だが特に声を掛ける事もなく、静かにズルズルとうどんをすすった。
朔の家庭事情を知らない松山は、はははっと笑いながら言葉を返す。
「大した事ないよ。昨日の晩ご飯の残りとか、冷凍の詰め合わせがほとんどだし。」
「それでも作ってもらえるだけ良いよ。」
朔の返しに対し、松山はふと思い出した朔の情報を口にする。手作り弁当を羨ましがる理由を見付けたのだ。
「須煌君は寮だっけ。」
「うん。」
「実家は遠いの?」
「あ~…いや、俺ずっとじいちゃんと一緒に住んでたんだけど、じいちゃん亡くなってさ。」
少し言いづらそうに、でも暗い表情を浮かべるでもなく、朔はポリポリと頭を掻きながら答えた。今普通に話せるのは、先日双葉に話した事が大きかったのかもしれない。既に誰かに話した事で、ふっきれたところがあった。
質問した松山に悪気はない。そこまでの個人情報は知らなかった。何気なく会話の流れで出た質問だったが、不用意に出してしまった言葉を後悔する。松山は申し訳なさそうな顔を浮かべて眉尻を下げた。
「そうなんだ。ごめん、無神経な事訊いた。」
「いや、大丈夫。言ってもじいちゃんも八十過ぎてたし。寮生活ってのにも憧れあったから今はむしろ楽しんでる。」
「そっか。」
明るく話す朔の表情に嘘はなさそうだ。その様子を見た松山は少し安心したようにホッと息をつく。二人の会話を黙って眺めていた葛葉は、特に会話に割って入る事もなく、ただ静かに見守る。その視線に気付いた松山は、同じ内容の質問を葛葉にも振った。
「葛葉君は…。」
「俺も寮。うちは実家遠いから。」
(そりゃ裏の世界の住人だもんな。裏って何処かよく分かんねーけど。)
しれっと答える葛葉に、朔は真顔になる。思わず事実をツッコんでやりたい気持ちになった。だがここはその気持ちをぐっと抑えて言葉を飲み込む。下手な事を言えば、自分が変な奴だと思われ兼ねない。折角まともな人間と話せたのだ。波風は立てたくない。
朔はカツ丼を口に運びながら、しみじみと現状の幸せを噛みしめる。
(やっと普通の高校生活になったって感じするな~。…変な奴もくっついてっけど。でもまぁ今のところ害はなさそうだし。佐藤もめっちゃ良い奴そうだし。)
佐藤は最新版の座席表を朔の為に書いてくれたのだ。
感謝してもしきれない。めちゃくちゃ良い奴である。なんなら転校初日に話し掛けなかった事を後悔したぐらいだ。
このペースで友達の輪を広げていければ…。
そんな事を考えている朔の元に、何やら黄色い声援が届く。
「キャー!松山く~ん!!」
「ん?」
声につられて振り返ると、頬をピンクに染めて瞳を潤わせた女子が三人。真っ直ぐに松山を見つめている。朔と葛葉の事は視界に入っていない様子だ。
そして一人が上目遣いで身体をくねらせながら松山に猫撫で声で話し掛ける。
「今日は食堂なんですか~?」
「うん。生徒会の仕事もないし、彼とゆっくり話したくて。」
そこまで言われて初めて、三人にも朔達の事が視界に入ったようだ。話していない他の女子二人が口元に手を当てながらコソコソと話す。
「誰?この地味モブズ。」
「知らな~い。」
(コソコソ言ってるつもりかもしれねーけど、しっかり聞こえてるよ。)
もしかしたらわざとなのかもしれない。朔なんか松山には不釣り合いだと言わんばかりの敵意に満ちた目だ。朔はムッとしながら女子達を睨み返すも、女子の威圧に圧倒されてすぐさまその目をやめた。普通になんか恐い。
朔が委縮しているのを良い事に、女子が松山へと再び話し掛ける。
「今度は私達ともゆっくり話してほしいです~。」
「またの機会にね。」
「お誘い待ってま~す♡」
その言葉だけを残し、女子達はキャイキャイと去って行った。
その場に取り残されて朔は思う。
(…やっぱ住む世界の違う奴かも。)
まともな友達が出来る日は遠いかもしれない、そんな風にさえ思った。
◇◇◇◇◇
授業が全て終わり、放課後。
この日は特にバイトの予定はなし。朔は帰ってから何をしようかと、ぼんやり考えながら学校を出る。すると、ふと双葉の姿を見付けた。
朔は反射的に電柱の陰に隠れる。そして双葉の後をこっそり尾行し始めた。
ほんの出来心である。双葉の後を尾行したところで、何が分かるわけでもないとは思ったが、少しの期待を乗せて尾行してみる事にしたのである。
普通に家に帰るのだろうか。双葉の住所は知らないが、先日送り届けた場所と同じ方向へと進んでいる。
見失わないように、だが近付きすぎないように。細心の注意を払って後を追う。
朔が路地に隠れてコッソリ顔を出したその時、背後で聞き覚えのある声が上がった。
「ないわ~。流石にそれはないわ~。」
ビクゥゥゥゥッ!!
今朝と同じく、またもや心臓が口から出そうな勢いだった。
朔は破裂しそうな鼓動を抑えながら振り返る。そこには葛葉が呆れた顔を浮かべ、ため息を吐いていた。
「ちょ!おま!なんでついて来てんだよ!」
最大限声量は抑えながら言葉を返す朔。そんな朔の質問には答えず、葛葉は呆れ眼のまま言葉を放つ。
「まぁ気持ちは分からんではないけどな。お前如きじゃあ新●と蘭の間には入り込めんだろうし。」
「何の話だよ!」
「でもいくらあの最強モテイケメン生徒会副会長に勝ち目なさそうだからって、ストーカーはねぇだろ。余計振り向いてもらえなくなんぞ。コ●ン君が駆け付けて来んぞ。」
「だからそういうんじゃねぇって!つーか妖かしのくせに詳しいな!」
完全に勘違いをされている。朔が双葉の事を想っており、イケメン幼馴染の登場に焦りを感じていると思われているのだ。そして双葉達の事を名探偵コナ●に例える葛葉。コナ●は今や国民的有名アニメ・漫画に分類されるが、それを妖かしである葛葉が知っている事に驚きを隠せない。
二人が路地でコソコソやり取りをしていると、双葉はその場に立ち止まり、振り返らずに声を上げた。
「いるんでしょ?コソコソしてないで出てきたら?」
「!!??」
朔と葛葉は冷や汗を垂らしてその場で固まった。
朔はカツ丼、松山はざる蕎麦を。葛葉はきつねうどんを頼んだ。それを見た朔は、やっぱり狐は油揚げが好きなんだな、と思った。
席に着いて食べ始める三人。朔はカツ丼へと箸を運びながら松山に質問を投げる。
「松山はいつも食堂?」
朔からの質問を受け、松山も食べながら笑顔で答える。
「基本的にはそうかな。母さんが仕事休みの時は気まぐれで弁当作ってくれるんだけど。」
「へぇ~。いいなぁ手作り弁当。」
心からの感想だった。朔は幼い頃に両親を事故で亡くしており、母の手作り弁当を食べたのは保育園の時だけ。正直、味どころか何が入っていたかすらあまり覚えていない。単純に作ってくれる人がいる事を羨ましいと思った。
その存在が近くにある時には、なかなか気付けないものである。持ち合わせていない人間程、その大切さをよく知っているものだ。
少し寂しさを含んだ朔の目を、葛葉はチラリと見やる。だが特に声を掛ける事もなく、静かにズルズルとうどんをすすった。
朔の家庭事情を知らない松山は、はははっと笑いながら言葉を返す。
「大した事ないよ。昨日の晩ご飯の残りとか、冷凍の詰め合わせがほとんどだし。」
「それでも作ってもらえるだけ良いよ。」
朔の返しに対し、松山はふと思い出した朔の情報を口にする。手作り弁当を羨ましがる理由を見付けたのだ。
「須煌君は寮だっけ。」
「うん。」
「実家は遠いの?」
「あ~…いや、俺ずっとじいちゃんと一緒に住んでたんだけど、じいちゃん亡くなってさ。」
少し言いづらそうに、でも暗い表情を浮かべるでもなく、朔はポリポリと頭を掻きながら答えた。今普通に話せるのは、先日双葉に話した事が大きかったのかもしれない。既に誰かに話した事で、ふっきれたところがあった。
質問した松山に悪気はない。そこまでの個人情報は知らなかった。何気なく会話の流れで出た質問だったが、不用意に出してしまった言葉を後悔する。松山は申し訳なさそうな顔を浮かべて眉尻を下げた。
「そうなんだ。ごめん、無神経な事訊いた。」
「いや、大丈夫。言ってもじいちゃんも八十過ぎてたし。寮生活ってのにも憧れあったから今はむしろ楽しんでる。」
「そっか。」
明るく話す朔の表情に嘘はなさそうだ。その様子を見た松山は少し安心したようにホッと息をつく。二人の会話を黙って眺めていた葛葉は、特に会話に割って入る事もなく、ただ静かに見守る。その視線に気付いた松山は、同じ内容の質問を葛葉にも振った。
「葛葉君は…。」
「俺も寮。うちは実家遠いから。」
(そりゃ裏の世界の住人だもんな。裏って何処かよく分かんねーけど。)
しれっと答える葛葉に、朔は真顔になる。思わず事実をツッコんでやりたい気持ちになった。だがここはその気持ちをぐっと抑えて言葉を飲み込む。下手な事を言えば、自分が変な奴だと思われ兼ねない。折角まともな人間と話せたのだ。波風は立てたくない。
朔はカツ丼を口に運びながら、しみじみと現状の幸せを噛みしめる。
(やっと普通の高校生活になったって感じするな~。…変な奴もくっついてっけど。でもまぁ今のところ害はなさそうだし。佐藤もめっちゃ良い奴そうだし。)
佐藤は最新版の座席表を朔の為に書いてくれたのだ。
感謝してもしきれない。めちゃくちゃ良い奴である。なんなら転校初日に話し掛けなかった事を後悔したぐらいだ。
このペースで友達の輪を広げていければ…。
そんな事を考えている朔の元に、何やら黄色い声援が届く。
「キャー!松山く~ん!!」
「ん?」
声につられて振り返ると、頬をピンクに染めて瞳を潤わせた女子が三人。真っ直ぐに松山を見つめている。朔と葛葉の事は視界に入っていない様子だ。
そして一人が上目遣いで身体をくねらせながら松山に猫撫で声で話し掛ける。
「今日は食堂なんですか~?」
「うん。生徒会の仕事もないし、彼とゆっくり話したくて。」
そこまで言われて初めて、三人にも朔達の事が視界に入ったようだ。話していない他の女子二人が口元に手を当てながらコソコソと話す。
「誰?この地味モブズ。」
「知らな~い。」
(コソコソ言ってるつもりかもしれねーけど、しっかり聞こえてるよ。)
もしかしたらわざとなのかもしれない。朔なんか松山には不釣り合いだと言わんばかりの敵意に満ちた目だ。朔はムッとしながら女子達を睨み返すも、女子の威圧に圧倒されてすぐさまその目をやめた。普通になんか恐い。
朔が委縮しているのを良い事に、女子が松山へと再び話し掛ける。
「今度は私達ともゆっくり話してほしいです~。」
「またの機会にね。」
「お誘い待ってま~す♡」
その言葉だけを残し、女子達はキャイキャイと去って行った。
その場に取り残されて朔は思う。
(…やっぱ住む世界の違う奴かも。)
まともな友達が出来る日は遠いかもしれない、そんな風にさえ思った。
◇◇◇◇◇
授業が全て終わり、放課後。
この日は特にバイトの予定はなし。朔は帰ってから何をしようかと、ぼんやり考えながら学校を出る。すると、ふと双葉の姿を見付けた。
朔は反射的に電柱の陰に隠れる。そして双葉の後をこっそり尾行し始めた。
ほんの出来心である。双葉の後を尾行したところで、何が分かるわけでもないとは思ったが、少しの期待を乗せて尾行してみる事にしたのである。
普通に家に帰るのだろうか。双葉の住所は知らないが、先日送り届けた場所と同じ方向へと進んでいる。
見失わないように、だが近付きすぎないように。細心の注意を払って後を追う。
朔が路地に隠れてコッソリ顔を出したその時、背後で聞き覚えのある声が上がった。
「ないわ~。流石にそれはないわ~。」
ビクゥゥゥゥッ!!
今朝と同じく、またもや心臓が口から出そうな勢いだった。
朔は破裂しそうな鼓動を抑えながら振り返る。そこには葛葉が呆れた顔を浮かべ、ため息を吐いていた。
「ちょ!おま!なんでついて来てんだよ!」
最大限声量は抑えながら言葉を返す朔。そんな朔の質問には答えず、葛葉は呆れ眼のまま言葉を放つ。
「まぁ気持ちは分からんではないけどな。お前如きじゃあ新●と蘭の間には入り込めんだろうし。」
「何の話だよ!」
「でもいくらあの最強モテイケメン生徒会副会長に勝ち目なさそうだからって、ストーカーはねぇだろ。余計振り向いてもらえなくなんぞ。コ●ン君が駆け付けて来んぞ。」
「だからそういうんじゃねぇって!つーか妖かしのくせに詳しいな!」
完全に勘違いをされている。朔が双葉の事を想っており、イケメン幼馴染の登場に焦りを感じていると思われているのだ。そして双葉達の事を名探偵コナ●に例える葛葉。コナ●は今や国民的有名アニメ・漫画に分類されるが、それを妖かしである葛葉が知っている事に驚きを隠せない。
二人が路地でコソコソやり取りをしていると、双葉はその場に立ち止まり、振り返らずに声を上げた。
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