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第1章「まず、キスから始めよう 」~佐江×清春 編
第18話「あなたがイヤになったら、あたしを止めて」
しおりを挟む(CHRIS carrollによるPixabayからの画像 )
清春は静かにキスをした。軽いキスを重ねて吐息にまぎらせて、佐江に言う。
「こうやって、キスの合間に男が合図をしたらだまって口を開けろよ」
「合図って?」
「決まったものはないよ。だけどキスをしていればわかる。おれなら――」
清春は軽く佐江の下唇をかんだ。岡本佐江のほっそりした身体が、ぴくんと跳ねた。
はずみで佐江の口が開く。その隙間に清春はするっと舌を滑り込ませた。
そのまま、清春はしたいように佐江の口の中を甘やかに犯していく。ゆったりと唇を離してから、佐江の目元や頬骨をそっと指でなぞっていった。
「普通のキスと、違うだろ?」
佐江が黙ってうなずく。清春は微笑んだ。
「ディープキスはセックスの前哨戦だ。どんなにいいと思う男でも、ディープキスが下手なやつとは、これ以上進むな」
「なぜ?」
清春は笑いながら佐江の髪を撫でた。
「深いキスは、セックスの疑似体験だからだよ。
舌を入れられて何も感じないような男とは、どれだけセックスをしても佳《よ》くならない。そいつがへたくそか、きみの身体との相性がよくないんだ。だからそこで終わりにしろ」
「わかりやすいのね」
「考えてみろよ。舌さえ我慢できないような男の身体を、きみは受け入れられるか?
セックスっていうのは、最終的にきみの身体のナカに別の人間を飲みこむことだ。女性にとっては大変な事なんだ」
佐江は清春からわずかに身体を離して、じっと目をのぞきこんできた。
「なぜこんなに、いろいろなことを知っているんです?」
清春は肩をすくめた。
「理論的に、体系的に勉強したんだ」
「たくさんの人と、したっていうこと? それはとても大事なことなのかしら。
だから真乃はしょっちゅう相手を取り換えるの?」
ふう、と清春は息を吐いた。
真乃、真乃、真乃。彼女の中には、清春の異母妹しかいない。
わかって始めたことだが、実際に直面すると身体の柔らかい部分を粗いヤスリで削られてゆくようだ。
痛い。
そして予想していた以上に、つらかった。
痛みを飲み込んで、清春は答えた。
「大勢とやればいいってことじゃない。人数の問題じゃないよ。
大事に思える相手と、やることが大事なんだろう」
「では今、あたしがしていることは何です?」
清春は、思わず奥歯を噛んだ。岡本佐江が利口な女であることを忘れていた。
「これはリハーサルで、トレーニングだ。色恋《いろこい》とは別物だよ」
それを聞いて、岡本佐江は目を閉じた。
「よかった。じゃあ、今あたしがもっと続きをしたいと思っても、真乃は気にしないわね。それは色恋とは別ね?」
「違うと、思うよ」
そう思うことが、清春には腹立たしい。むっとした顔をしていると、佐江が笑って清春の顔に手を伸ばした。
「ねえ――あなたがイヤになったら、あたしを止めてくれればいいんですよ?」
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