完結『まず、キスから始めよう~キスを待つ頬骨② オトナの恋愛小説です

水ぎわ

文字の大きさ
47 / 73
第2章「ここから登る、坂の途中」~真乃×洋輔 編

第47話「3年後~満開の花がこぼれるようだ」

しおりを挟む
(UnsplashのNathan Bingleが撮影)
 
 女が一番美しく見えるのは何歳の時だろう?
 真乃は、ドリー・Dのドレスを胸に当てながら考えた。

 20歳、21歳? あるいは、今の真乃の年齢である25歳だろうか。

 目の前の鏡には、繊細なドレスを胸に当てる若い女が見える。
 小柄だが均整の取れた体つき。小さくて、ややしゃくれた顎にまっすぐ伸びた鼻、ふっくらした頬。ピンク色に輝く唇は厚みがあって柔らかい。

 3年前に父親の所有するコルヌイエホテルで働きはじめて以来、真乃の美しさには磨きがかかってきた。
 たぶん今が一番きれいなんだろうな、と真乃は思った。あとは、坂をくだるだけだ。

 「だとしたら、値段を気にせず一番きれいに見えるドレスを買うべきね」

 真乃は試着スペースの中でドレスを着はじめた。
 胸元から腹にかけて大きくビーズで刺しゅうをしたドレスは、ため息が出るほど美しい。
 来週のパーティのために、わざわざ親友の佐江のショップで取りよせてもらったものだ。

 黒一色のドレスはとろりとしたシルクで、動くたびに完璧に配置されたビーズと生地が輝き、人目を引きつける。
 匂いやかな女の肌を包むためのドレス。
 真乃はドレスを着たまま、ドリー・Dの試着エリアに置かれたソファに座った。裾を引っ張ってみる。
 その動作を、親友の岡本佐江に見とがめられた。

「真乃、6ケタの金額のドレスよ。雑に扱わないで」
「これを買うわ。小物もあるんでしょう?」
「もちろんよ、全部、着《つ》けてみて」

 佐江は170センチに近い長身を優雅に折り曲げて、床にハイヒールを置いた。それからテーブルの上にパールのネックレスとピアス、深紅のパーティバッグを乗せた。

 真乃と同じ25歳の佐江は、むしろ昔より優雅さが増した気がする。
 満開の花がこぼれるようだ。
 それもそのはず。佐江は大好きなデザイナー”ドリー・D”の直営店で働き、ファッションにイノチをかけている。
 センスの良さは真乃をはるかに追い抜き、今では真乃が社交の場に着ていくドレスや小物のコーディネートは、すべて佐江が担当している。
 佐江が決めたスタイルは、まちがいなく真乃を世界で一番うつくしく見せる。

 真乃が試着ボックスで着替えてくると、佐江は数歩下がって上から下まで丹念に見た。

「あんた、痩せたわね」
「そう?」
「ウェストのラインが変わったわ。ちょっと手直しするからじっとしていてね」

 佐江はすばやく真乃のウェストにそってドレスをつまみ上げ、ピンを打って行った。その手が、かすかにふるえているのを真乃はふしぎそうに見ている。

「佐江、寒い?」
「ううん。どうしてよ」
「手が震えているから」

 真乃がそういうと、佐江は手をピクリとさせてから神経質そうに笑った。

「緊張するのよ。一ミリ間違えたって、ドレスのラインが変わってしまうから」
「そんなもんなの」

 真乃は、感心してつぶやいた。
 佐江はひざまずいている位置から、真乃を見あげた。

「ちょっとゆっくり回ってみて。そう、うん、ちょうどいいわね」
「スカート丈も直してよ、佐江」
「ダメ。スカート丈を変えると、ウエストから流れてきているドレープの動きが壊《こわ》れちゃうから」

 そして、回る真乃の動きをほれぼれしてながめつつ、

「もう脱いでいいわ。そのまま試着ボックスに移動してちょうだい。背中のジッパーを下げてあげる」

 真乃はヒールをはいたまま、ゆっくりと試着ボックスに向かった。
 その後ろを、まるで侍女のように佐江のたおやかな長身が従ってゆく。
 ボックス前で足を止めると、真乃のドレスのジッパーに佐江の指がかかった。佐江はちらりと周囲を見回して、誰もいないことを確認してから一気に真乃の背中を引き開けた。

 そして真乃をカーテンで閉じられたボックスに押し込む。

「真乃、ピンがついているから気を付けて脱いでね」
「ああ、面倒くさい。佐江、あんた入ってきて脱ぐのを手伝ってよ」

 真乃がそう言うと、十年来の親友はなぜか息をのんだような音を立てて、それからするりと広い試着スペースに入りこんできた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...