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第2章「ここから登る、坂の途中」~真乃×洋輔 編
第54話「セックスよりも濃厚で、熱っぽい舌先の愛撫」
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(UnsplashのAlexander Krivitskiyが撮影)
あと2ミリ、あと2ミリ落ちていけば、清春の唇が佐江のうなじにかかる、と真乃が思ったとき、ふいに内線電話が鳴った。
清春はゆっくりと身体を立て直し、何ごともなかったかのように電話を取って話し始めた。
「1204号室です。はい、井上ですが。あ、ではこのまま電話をつないでください。こちらでお受けいたします」
佐江を振り返り、
「パーティにいらしていた岡本のおじさんたちが、お帰りになるそうだ。内線が入っているから話してください。
あなたもご両親と一緒に帰ったほうがいいな。真乃にはおれがついています」
佐江は電話を受け取り、落ち着いた声で電話を受けた。
「お母さま、今は渡部のおじさまのスイートにおります。いったん家へかえって、喪服に着がえたいんです。ええ、これからロビーへ降ります」
コトリと内線電話を置いてから清春を見た。
「着替えてからお通夜にうかがいます。あすのご葬儀には出席できないのですが……」
「いや、もう十分だよ。今日はあなたも疲れただろうから、通夜の心配はしないでください。おれと真乃でつとめます」
「そんな」
佐江は、なおも言いつのろうとする。しかし清春はそっと女の唇に指を乗せて止めた。
切れ長の目元をそばめて、にじむように微笑み、
「おれの言うことを、聞いて。佐江」
清春がそう言うと、佐江は長いまつげを伏せて、あきらめたようにため息をついた。
それから佐江は、清春の指におさえられたままの唇をかすかにひらいた。
次の瞬間、真乃は鏡越しに見える風景を疑った。
信じられない。
怜悧でつつましやかな真乃の親友が、目を閉じたまま、わずかに開いた唇から桃色の舌を出して清春の指をそっとなめたのだ。
びくん、と清春の長い指が震える。
真乃の目の前で、温かい佐江の舌が、いつもひんやりしている清春の指をゆっくりと舐めあげてゆく。
セックスよりも濃厚で、熱っぽい舌先の愛撫。
真乃が見たこともないような、清浄でありながら狂おしいほどの熱を秘めた指へのキスだった。
鏡ごしに、異母兄の広い背中がきつく硬直するのが見える。
やがて佐江の舌は何事もなかったかのように唇の奥にしまわれる。それからゆっくりと目を開けた。
ほんの一瞬だけ、佐江と清春の視線が重なって、ほどけた。
ふわっと佐江が微笑む。
「では、今夜はうかがいません。真乃のことをよろしくお願いいたします」
「……ああ」
佐江は身支度をして最後にもう一度ベッドルームに入ってきた。真乃はあわてて目を閉じる。
しばらく、声もなく真乃の顔を見てから、佐江は足音も立てずにベッドルームから出ていった。
それからいつもの落ち着いた声で、清春に話しかける。
「キヨさんも、どうぞお体にお気をつけて。そうだわ、アシスタントマネージャーに昇格なさったんですってね。おめでとうございます」
「七光りですよ。精進しなくちゃね」
ぱたん、とドアの閉じる音がする。
真乃はブランケットから顔をのぞかせて、もう一度、鏡ごしにリビングスペースにいる異母兄を見た。
清春はさっきと同じ位置に立ち、じっとスイートのドアを見つめていた。
それから切れ長の目を閉じて、長い指先を自分の唇に当てた。
まるで、女の唇が今も指の上に乗っているかのように。
真乃は、美貌の異母兄の唇からもれたかすかな甘い息さえ、聞いたような気がした。
あと2ミリ、あと2ミリ落ちていけば、清春の唇が佐江のうなじにかかる、と真乃が思ったとき、ふいに内線電話が鳴った。
清春はゆっくりと身体を立て直し、何ごともなかったかのように電話を取って話し始めた。
「1204号室です。はい、井上ですが。あ、ではこのまま電話をつないでください。こちらでお受けいたします」
佐江を振り返り、
「パーティにいらしていた岡本のおじさんたちが、お帰りになるそうだ。内線が入っているから話してください。
あなたもご両親と一緒に帰ったほうがいいな。真乃にはおれがついています」
佐江は電話を受け取り、落ち着いた声で電話を受けた。
「お母さま、今は渡部のおじさまのスイートにおります。いったん家へかえって、喪服に着がえたいんです。ええ、これからロビーへ降ります」
コトリと内線電話を置いてから清春を見た。
「着替えてからお通夜にうかがいます。あすのご葬儀には出席できないのですが……」
「いや、もう十分だよ。今日はあなたも疲れただろうから、通夜の心配はしないでください。おれと真乃でつとめます」
「そんな」
佐江は、なおも言いつのろうとする。しかし清春はそっと女の唇に指を乗せて止めた。
切れ長の目元をそばめて、にじむように微笑み、
「おれの言うことを、聞いて。佐江」
清春がそう言うと、佐江は長いまつげを伏せて、あきらめたようにため息をついた。
それから佐江は、清春の指におさえられたままの唇をかすかにひらいた。
次の瞬間、真乃は鏡越しに見える風景を疑った。
信じられない。
怜悧でつつましやかな真乃の親友が、目を閉じたまま、わずかに開いた唇から桃色の舌を出して清春の指をそっとなめたのだ。
びくん、と清春の長い指が震える。
真乃の目の前で、温かい佐江の舌が、いつもひんやりしている清春の指をゆっくりと舐めあげてゆく。
セックスよりも濃厚で、熱っぽい舌先の愛撫。
真乃が見たこともないような、清浄でありながら狂おしいほどの熱を秘めた指へのキスだった。
鏡ごしに、異母兄の広い背中がきつく硬直するのが見える。
やがて佐江の舌は何事もなかったかのように唇の奥にしまわれる。それからゆっくりと目を開けた。
ほんの一瞬だけ、佐江と清春の視線が重なって、ほどけた。
ふわっと佐江が微笑む。
「では、今夜はうかがいません。真乃のことをよろしくお願いいたします」
「……ああ」
佐江は身支度をして最後にもう一度ベッドルームに入ってきた。真乃はあわてて目を閉じる。
しばらく、声もなく真乃の顔を見てから、佐江は足音も立てずにベッドルームから出ていった。
それからいつもの落ち着いた声で、清春に話しかける。
「キヨさんも、どうぞお体にお気をつけて。そうだわ、アシスタントマネージャーに昇格なさったんですってね。おめでとうございます」
「七光りですよ。精進しなくちゃね」
ぱたん、とドアの閉じる音がする。
真乃はブランケットから顔をのぞかせて、もう一度、鏡ごしにリビングスペースにいる異母兄を見た。
清春はさっきと同じ位置に立ち、じっとスイートのドアを見つめていた。
それから切れ長の目を閉じて、長い指先を自分の唇に当てた。
まるで、女の唇が今も指の上に乗っているかのように。
真乃は、美貌の異母兄の唇からもれたかすかな甘い息さえ、聞いたような気がした。
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