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第2章「ここから登る、坂の途中」~真乃×洋輔 編
第58話「お前が飽きたら、俺を捨てていい。けど、俺がお前を捨てることはねえよ」
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(UnsplashのMonika Kozubが撮影)
翌朝まだ暗いうちに、深沢洋輔は真乃のいるレジデンスホテルにやってきた。
顔はあざだらけで腫れあがり、口元が深く切れていた。真乃は部屋のドアを開けて、洋輔を上から下までじろじろと眺めた。
「ずいぶんやられたわね」
「お前のアニキな、あれ、凶器だぞ。本気でやべえよ」
深沢は廊下に立ち、真乃をじっと見おろした。
「さて。ここから先に俺を入れるかどうかは、おまえが決めることだ、真乃」
「そうね」
「先に言っておくが、俺はひとりの女じゃ我慢がきかない。誰がいようと浮気するし、遊ぶ女はいなくならねえ」
「分かるわ」
「それでも、お前の男にするか、真乃」
「そこまで言われて、あんたをあたしの男にするメリットって何なのよ」
真乃にそう言われて、深沢は軽く首を傾げた。ケンカのあとだらけの顔の中で、両眼だけが涼しく光っていた。
「お前が飽きたら、俺を捨てていい。けど俺がお前を捨てることはねえよ」
とくん、と真乃の心臓が跳ねた。
このひとは、あたしを見捨てない? ぜったいに?
そんなことを約束してくれる男なんて、世界じゅうどこにもいない。
真乃が疑わしげに黙っているので、美麗極まりない男は、にやりと笑って言った。
「なあ、一生のうちに一回くらい、自分が信じきれる男と寝てみろよ。てめえの腹の中を、洗いざらい全部見せても安心だっていう男と寝てみろ。お前の裏も表も、俺がそっくり抱《かか》え込んでやる」
「……口がうまい男よね」
「ほかにも、うまいことがあるけどな」
「やってもらわなきゃ、分からないわね」
「試せよ。一度も試さずにおしまいじゃあ、俺はキヨに殴られ損《ぞん》だ」
すっと真乃は身体をひいて、道を作った。
「どうぞ、深沢さん」
深沢が、するりと入り込む。
「俺のことは『洋輔』と呼べ。てめえの女に『深沢さん』なんて呼ばれたくねえよ」
そう言って深沢は、真乃にキスをした。
申し分なく甘く、深く、熱のあるキスだ。深沢の唇と舌が、真乃のなかで縦横無尽に駆け回る。
まるで夏休みの朝を待ち切れずに、家から飛び出した少年のように。
真乃の息が切れるまで丹念にキスをし続けた。
真乃は深沢の二の腕をしっかりとつかみ、足元をぐらつかせないようにしてキスに応えてゆく。
ああ、この唇を離したくない。
渡部真乃は何があっても、この男を放したくない。
そして選択肢は、どちらも真乃の手の中にあった
深沢を握っておくことも捨てるのも、今は真乃の自由だ。
キスの合間に、真乃はけざやかに笑って深沢を見上げた。深沢の目の色が変わっている。見たこともないほど暗く、黒い目だ。
欲情を欲情のまま外界に解放できる男が、真乃の肩を抱いていた。
明日の朝が来るまでに、あたしはこの男の下で何度のぼり詰めるだろう、と真乃は考えた。
何度だっていい。逆に、一度もいかなくってもいい。
ただ深沢洋輔という得体《えたい》のしれない男がそばにいて、抱きしめてくれれば満足だ。
真乃の男。
真乃がはじめて『あたしの男』と呼べる存在が、そこにあった。思わず笑い声をあげると、深沢は軽くうなって真乃の首筋に食らいついた。
「たまんねえな、くそ」
「……洋輔」
「なんだよ」
「呼んでみたかったの」
真乃はゆったりと深沢の首に腕をからめた。引き寄せて二度目のキスをする。
「ようすけ。恋をするって、坂道を登るみたいね」
真乃の身体の上で忙しく手を動かしながら、深沢は面倒そうに答えた。
「そうかい」
はひょいと真乃をかかえ上げ、ベッドに放り投げた。自分は手早くシャツを脱いでしまい、あざだらけの身体で真乃の上にふわりと乗った。
「その坂、てめえひとりで登れるか、真乃?」
真乃は、何もかもを脱ぎ散らかしながら笑う。
「登れない。とてもひとりでは登れないわ。どうしよう、洋輔」
「馬鹿だな。そのために、俺がいるんじゃねえか」
深沢はそっと舌で真乃の乳房を舐めまわった。ときどき顔をしかめているのは、清春にやられた傷が痛むからだろう。
その様子を、真乃は笑ってみていた。
「痛い?」
「痛えよ。ったく、俺が手を出さねえもんだから、キヨのヤロウ、やりたい放題にやりやがった」
「なんでやり返さなかったのよ?」
「そりゃお前」
洋輔は傷だらけの顔で笑って、真乃を見おろした。
「俺があいつなら、相手の男は殺してるな。キヨにとってのお前は、それくらい大事な妹ってことだ――」
翌朝まだ暗いうちに、深沢洋輔は真乃のいるレジデンスホテルにやってきた。
顔はあざだらけで腫れあがり、口元が深く切れていた。真乃は部屋のドアを開けて、洋輔を上から下までじろじろと眺めた。
「ずいぶんやられたわね」
「お前のアニキな、あれ、凶器だぞ。本気でやべえよ」
深沢は廊下に立ち、真乃をじっと見おろした。
「さて。ここから先に俺を入れるかどうかは、おまえが決めることだ、真乃」
「そうね」
「先に言っておくが、俺はひとりの女じゃ我慢がきかない。誰がいようと浮気するし、遊ぶ女はいなくならねえ」
「分かるわ」
「それでも、お前の男にするか、真乃」
「そこまで言われて、あんたをあたしの男にするメリットって何なのよ」
真乃にそう言われて、深沢は軽く首を傾げた。ケンカのあとだらけの顔の中で、両眼だけが涼しく光っていた。
「お前が飽きたら、俺を捨てていい。けど俺がお前を捨てることはねえよ」
とくん、と真乃の心臓が跳ねた。
このひとは、あたしを見捨てない? ぜったいに?
そんなことを約束してくれる男なんて、世界じゅうどこにもいない。
真乃が疑わしげに黙っているので、美麗極まりない男は、にやりと笑って言った。
「なあ、一生のうちに一回くらい、自分が信じきれる男と寝てみろよ。てめえの腹の中を、洗いざらい全部見せても安心だっていう男と寝てみろ。お前の裏も表も、俺がそっくり抱《かか》え込んでやる」
「……口がうまい男よね」
「ほかにも、うまいことがあるけどな」
「やってもらわなきゃ、分からないわね」
「試せよ。一度も試さずにおしまいじゃあ、俺はキヨに殴られ損《ぞん》だ」
すっと真乃は身体をひいて、道を作った。
「どうぞ、深沢さん」
深沢が、するりと入り込む。
「俺のことは『洋輔』と呼べ。てめえの女に『深沢さん』なんて呼ばれたくねえよ」
そう言って深沢は、真乃にキスをした。
申し分なく甘く、深く、熱のあるキスだ。深沢の唇と舌が、真乃のなかで縦横無尽に駆け回る。
まるで夏休みの朝を待ち切れずに、家から飛び出した少年のように。
真乃の息が切れるまで丹念にキスをし続けた。
真乃は深沢の二の腕をしっかりとつかみ、足元をぐらつかせないようにしてキスに応えてゆく。
ああ、この唇を離したくない。
渡部真乃は何があっても、この男を放したくない。
そして選択肢は、どちらも真乃の手の中にあった
深沢を握っておくことも捨てるのも、今は真乃の自由だ。
キスの合間に、真乃はけざやかに笑って深沢を見上げた。深沢の目の色が変わっている。見たこともないほど暗く、黒い目だ。
欲情を欲情のまま外界に解放できる男が、真乃の肩を抱いていた。
明日の朝が来るまでに、あたしはこの男の下で何度のぼり詰めるだろう、と真乃は考えた。
何度だっていい。逆に、一度もいかなくってもいい。
ただ深沢洋輔という得体《えたい》のしれない男がそばにいて、抱きしめてくれれば満足だ。
真乃の男。
真乃がはじめて『あたしの男』と呼べる存在が、そこにあった。思わず笑い声をあげると、深沢は軽くうなって真乃の首筋に食らいついた。
「たまんねえな、くそ」
「……洋輔」
「なんだよ」
「呼んでみたかったの」
真乃はゆったりと深沢の首に腕をからめた。引き寄せて二度目のキスをする。
「ようすけ。恋をするって、坂道を登るみたいね」
真乃の身体の上で忙しく手を動かしながら、深沢は面倒そうに答えた。
「そうかい」
はひょいと真乃をかかえ上げ、ベッドに放り投げた。自分は手早くシャツを脱いでしまい、あざだらけの身体で真乃の上にふわりと乗った。
「その坂、てめえひとりで登れるか、真乃?」
真乃は、何もかもを脱ぎ散らかしながら笑う。
「登れない。とてもひとりでは登れないわ。どうしよう、洋輔」
「馬鹿だな。そのために、俺がいるんじゃねえか」
深沢はそっと舌で真乃の乳房を舐めまわった。ときどき顔をしかめているのは、清春にやられた傷が痛むからだろう。
その様子を、真乃は笑ってみていた。
「痛い?」
「痛えよ。ったく、俺が手を出さねえもんだから、キヨのヤロウ、やりたい放題にやりやがった」
「なんでやり返さなかったのよ?」
「そりゃお前」
洋輔は傷だらけの顔で笑って、真乃を見おろした。
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