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はあ、こちらは『異世界行き課』です。
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「おっはよーございまーす♪」
本日も元気に出社される女神様。
蕪木萌香さんの一件から何かしらあるかもしれないかと思っていたが杞憂に終わった。
業務内容も変わらず、『異世界行き』候補者の選定に、財産確認、異世界行き後の後処理等をこなしている。
ただ唯一変わったといえば、事あるごとに「蕪木萌香」さんの動向を鏡のような物で見せてくる。
ただの覗き見の様で嫌悪感があったが、デカデカと上司が見せつけてくるので否応なしに目に入る。
そこには家族を亡くし、それでもこの世界に留まろうと必死に努力を重ねている「蕪木萌香」の姿があった。
学業にボランティア活動、家の事と。休みなく活動しているようで心配になってくる。それでもボランティア活動中は笑顔を絶やさず励んでいる。そんな彼女を目にし「素敵だなぁ」と口をついて出る。自身の発した言葉に驚いた。それだけ見入っていたのだろう。
眼鏡は小さく「ふぅ」と息をつき、パソコンに向かう。
――体調、崩さなければいいですが……
だがそれは最悪のタイミングでやってきた。大事な受験の日、萌香は高熱で動く事が出来ずにいた。さすがに看病に向かおうとも考えたが、ただの職員である自分が一線を越えるわけにはいかないと、グッと堪えた。翌日には回復したようなので、ホッと胸を撫で下ろした。
その様を女神様がニヤニヤと見ていた事に気付けない程に、萌香に心奪われていたようだ。
女神様の方は変わらず「んも~。おばかちゃんね~~♪」と、茶化しながら萌香を眺めていた。
結局萌香の受験は全てうまくいかなかったが、気持ちを切り替えボランティア活動に励んでいる。
心折らずに懸命な彼女に感じ入り、遂に眼鏡は女神様に尋ねる。
「蕪木萌香さんは、このままこの世界に居られるのでしょうか?」
本当は、もっとオブラートに包んだ言い方をしようと思っていたのだが、ドストレートに聞いてしまった。
女神様はキョトンと眼鏡をみる。
「やっだ~~。どっうしちゃったのん? 萌香ちゃんは何したって『異世界行き』よ~♪」
うふふと笑う女神様。
「そう……ですか……」
力無げに言葉を出す眼鏡。
――「ならば、茶化す為だけに日々覗き見なんて、なんとも醜悪ですね」という言葉は飲み込んだ。
静かに息をつく。
「ま♪ 監視はしなきゃだからね♪」
「はぁ」
いつもとは違う、やや納得いっていないという意を込めた「はぁ」である。
「暴走しちゃったら、大変でしょ♪」
「暴走……ですか……」
確かに彼女は暴走気味の時があると、少し腑には落ちる。
――やはり異世界行きは免れないんですね……
――異世界行きが免れないのであれば、残りの時間は自分の為に使ってもらいたいものだが……
なにか手はないかと思ってしまう眼鏡。
「あ、そうそう」
いつもより真摯な顔を向けてくる女神様。
「萌香ちゃんに、伝えてはダメよ~~~。ちゃんと足掻いてもらわないとねっ♪」
いつもの様にうふふと微笑みかけてくるが、威圧を感じる。
「ええ、もちろん承知しております。私は一介の職員ですから」
釘を刺されたようでギクリとするが、努めて平静に返事をする。
何も出来ない自分に不甲斐なさを感じる。ただただ、萌香の幸せを願う眼鏡なのでした。
本日も元気に出社される女神様。
蕪木萌香さんの一件から何かしらあるかもしれないかと思っていたが杞憂に終わった。
業務内容も変わらず、『異世界行き』候補者の選定に、財産確認、異世界行き後の後処理等をこなしている。
ただ唯一変わったといえば、事あるごとに「蕪木萌香」さんの動向を鏡のような物で見せてくる。
ただの覗き見の様で嫌悪感があったが、デカデカと上司が見せつけてくるので否応なしに目に入る。
そこには家族を亡くし、それでもこの世界に留まろうと必死に努力を重ねている「蕪木萌香」の姿があった。
学業にボランティア活動、家の事と。休みなく活動しているようで心配になってくる。それでもボランティア活動中は笑顔を絶やさず励んでいる。そんな彼女を目にし「素敵だなぁ」と口をついて出る。自身の発した言葉に驚いた。それだけ見入っていたのだろう。
眼鏡は小さく「ふぅ」と息をつき、パソコンに向かう。
――体調、崩さなければいいですが……
だがそれは最悪のタイミングでやってきた。大事な受験の日、萌香は高熱で動く事が出来ずにいた。さすがに看病に向かおうとも考えたが、ただの職員である自分が一線を越えるわけにはいかないと、グッと堪えた。翌日には回復したようなので、ホッと胸を撫で下ろした。
その様を女神様がニヤニヤと見ていた事に気付けない程に、萌香に心奪われていたようだ。
女神様の方は変わらず「んも~。おばかちゃんね~~♪」と、茶化しながら萌香を眺めていた。
結局萌香の受験は全てうまくいかなかったが、気持ちを切り替えボランティア活動に励んでいる。
心折らずに懸命な彼女に感じ入り、遂に眼鏡は女神様に尋ねる。
「蕪木萌香さんは、このままこの世界に居られるのでしょうか?」
本当は、もっとオブラートに包んだ言い方をしようと思っていたのだが、ドストレートに聞いてしまった。
女神様はキョトンと眼鏡をみる。
「やっだ~~。どっうしちゃったのん? 萌香ちゃんは何したって『異世界行き』よ~♪」
うふふと笑う女神様。
「そう……ですか……」
力無げに言葉を出す眼鏡。
――「ならば、茶化す為だけに日々覗き見なんて、なんとも醜悪ですね」という言葉は飲み込んだ。
静かに息をつく。
「ま♪ 監視はしなきゃだからね♪」
「はぁ」
いつもとは違う、やや納得いっていないという意を込めた「はぁ」である。
「暴走しちゃったら、大変でしょ♪」
「暴走……ですか……」
確かに彼女は暴走気味の時があると、少し腑には落ちる。
――やはり異世界行きは免れないんですね……
――異世界行きが免れないのであれば、残りの時間は自分の為に使ってもらいたいものだが……
なにか手はないかと思ってしまう眼鏡。
「あ、そうそう」
いつもより真摯な顔を向けてくる女神様。
「萌香ちゃんに、伝えてはダメよ~~~。ちゃんと足掻いてもらわないとねっ♪」
いつもの様にうふふと微笑みかけてくるが、威圧を感じる。
「ええ、もちろん承知しております。私は一介の職員ですから」
釘を刺されたようでギクリとするが、努めて平静に返事をする。
何も出来ない自分に不甲斐なさを感じる。ただただ、萌香の幸せを願う眼鏡なのでした。
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