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愛ってなんぞや

第二十七話

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 フリントロック式の銃口は正確にバルドゥルに向けられている。

「俺たちはバルド国軍を助けにきたのだぞ。どういうつもりだ?」

「くくっ。助けに来ていただきありがとうございます、とでも言ってほしいか。薄汚い獣人風情が!!」

 の行動にバルドゥルは笑いが漏れそうになる。「薄汚い獣人」はタル王国の人間の常套文句だ。「第一の門の兵士に間者スパイがいたと考えますわ。」というディアナの言葉を裏付けられた証拠だろう。
 
「動くなよ。この銃は最新式で、いかに頑丈な獣人でも、ぐわっ!!」

 ガラガラっどごっ!

 男の体が部屋の中に吹っ飛んで荷箱に突っ込んだ鈍い音が聞こえる。最新式の武器を持って優位だと勘違いした男が銃の引き金を引く前に、バルドゥルが懐に入り殴りつけたのだ。

「よく喋る男だ。ここは戦場だぞ。」

 あまりの無防備さに呆れた声しか出ない。

「最新の銃の話は聞いていましたが、これが本物ですのね。」

 男の手から離れた銃をディアナが拾い上げ、繁々と見つめる。どうやらここにも戦場というのを忘れた人がいるらしい。


「ディアナ、油断するな。」

「はいっ。」

 開け放たれたドアの横で室内を伺う。
 備蓄庫というだけあって、中は箱や棚でいっぱいで中は見渡せない。しかし、中からは人の気配を感じる。

(1…2……2人か。)

 息遣いと、微かな動きがこの閉鎖された空間では思いもかけず大きく響く。
 バルドゥルは声を出さず、ディアナに壁に寄るよう指示する。

「…俺がいいというまで動くな。」

 小さな声で指示を出すと、スルリと部屋の中へ入って行く。

 元は整然と並んでいただろう箱が乱雑に開けられその辺に転がされている。先程の男と一緒に備蓄品を横領するつもりだったのだろう。

 人間の気配は左右に1人ずつ。

 左は棚があり、入り口に回るには大回りするようだろう、とよんだバルドゥルは右側の積み上げられた箱の影にいた男のに襲いかかる。

 バルドゥルの重たい蹴りに、構えていた剣ごと飛ばされた男が積み上げられた箱にあたり崩れ落ちる。倒れた男の腹に拳を叩きつけ、完全に意識を失わせると、左側へと走り込む。
 パンっと乾いた音がして、もう1人の男がバルドゥルに向けて発砲したが、弾はあさっての方向に飛んで行った。その隙に銃を持った腕を掴むと膝に叩きつける。骨の折れる音と絶叫が響き渡り、男は悲鳴を上げながら床を転がる。


「くそうっ!!」

 始めの男が気がついたのか立ち上がり、剣を掴むと部屋の出口に向けて突進する。

「ディアナっ!」

 慌てたバルドゥルが男に向けて棚を蹴り飛ばすのと同時に、パンっと乾いた音がして、男の肩から血が噴き出す。

「ぎゃあぁあ!!」

 棚に押しつぶされ、男は目を回した。

「当たりましたの?」

 ディアナの手には男が落としたフリントロックが握られ、微かに煙を燻らせている。突進されたディアナが思わず引き金を引いたのが上手く当たったようだ。

「ディアナ、大丈夫か?」

 引き金を引いたままで固まっているディアナの元へ走ると、固まったままの手を降ろさせる。
 息を止めていたのか、ディアナが大きく息を吐いて、何度も深呼吸をする。狩りをしたことはあるが、流石に人を傷つけたことはこれが初めてだ。

「……ごめんなさい。動いてしまいました。」

 色々な思いがあるのだろうが、勤めて表情に出さずバルドゥルの指示に従わなかったことを詫びる。

 抱きしめて慰めたい。
 ディアナの瑠璃色の瞳は不安げに揺れているのを見て思うが、きっとディアナが望んでいることは慰めではないだろう。


「こいつらを縛るのを手伝ってくれ。」

「…っはい!」

 バルドゥルからの新しい指示に、ディアナは手にした銃をポケットにしまうと、バルドゥルと共にロープを探しはじめた。





 男たちを縛り上げ床に転がすと、ディアナとバルドゥルは壁の前の箱をどかし始める。箱に隠された壁には、普通のドアよりもサイズの小さいドアが付いている。

「ここか?」

 ディアナは頷くと、小さなドアを開け、隠し部屋へと入っていった。
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