上 下
51 / 106
第四章

11:悔悟<二>

しおりを挟む
「それは雨流ユーリウ様が悪いですね。分かりました、私からそこはちゃんと伝えておきましょう。……いいですか。あなたは自分の過去がとても可愛そうなものだと思っている。なんと言葉をかけてよいか分からないほど辛い話でした。それは間違いありません。そして自分の想いを完全に理解できるのは自分だけです。似た体験を誰かがしたとしても、それはその人だけの想い。あなたの感じた無力感や悲しみも、どんなに同じ境遇の人がいても、あなたにしか持てない感情です」
「う、うん」
「逆に、そんなにひどい境遇ではない人がいたとして。仮にあなたの過去と比べたとしてもどちらがひどい、なんてことは言えるわけがないでしょう? だから、あなたも相手の言葉に耳を傾けてあげてください。自分を理解してもらいたいと思うなら、自分の話を聞いてもらうのと同じだけ、相手のことも知ってあげてください」
「うん……難しいな」
「相手に話をするのなら、相手の話もちゃんと聞いてあげましょうって、そういうことです。……さて、ここからが本題です。あなたと雨流ユーリウ様が共に行動して。琥美フーメイの嘘を織り交ぜた会話と比べ、雨流ユーリウ様はそんなに信用に値しない存在でしたか?」
「え、ええと……」

 ここにきていきなり核心をついた質問を投げかけられて雷狼レイランは戸惑った。しどろもどろになりながら、雨流ユーリウと共に過ごした日々を振り返る。

雨流ユーリウは……俺が花琳国の兵士から追われてたとき、助けてくれたよ。それから王宮に乗り込んで義兄さんに嵌められていたことを見抜いて、俺の無実を証明してくれた」

 あのときは誰一人雷狼レイランのことを信用してはいなかった。王李皇帝の知り合いである雨流ユーリウがいなかったら、雷狼レイランの無実は証明できなかっただろう。

「それから、義父さんを捕まえるために一緒についてきてくれるって言ってくれた。……花琳国を出てからはいつも食事を作ってくれたし、自分はほとんど食べないのに、俺のためだけに腹が膨れるようにって、いろいろ……。石窟では俺のこと庇ってくれた。蘇緑に来たのだって、雨流ユーリウの都合じゃない。俺の為にここまで付き合ってくれたんだ。それに俺、雨流ユーリウに何も言わないで夜屋敷を抜け出して行ったのに……」

 雨流ユーリウは元々琥美フーメイのことを警戒していた。信じ切っていたのは雷狼レイランの勝手な思い入れだ。それに、雨流ユーリウが不在だったので勝手に琥美フーメイと石窟に行ってしまったが、よく考えれば書置き一つでも残すべきだった。たまたま雨流ユーリウが逃げる琥美フーメイを見つけてくれたからこうして助かったものの、本来なら勝手に抜け出して心配をかけて、雨流ユーリウに怒られてもおかしくなかったのだ。

 そこまで考えて雷狼レイランは気付く。
 本当は雨流ユーリウにも一緒にあの場にいてほしかったのだ。それが……十蓮シーリェン百臣バイチェンだけだったので……何故雨流ユーリウが来ないのかとがっかりした。

(いや、内緒にしてたくせに自分で何もできなくて、助けに来てもらうこと自体が情けないけど……)

 しかしそれも随分と勝手な考えだったと思い知る。

「そうだ。俺、雨流ユーリウに色んなことして貰ってる。何の見返りもないのに、俺のために危険な場所に行ったり、面倒事を引き受けたり。俺が勝手な行動してるのに助けにきてくれた……」
「それは、信頼に値するのでは?」

 雷狼レイランは俯いて頷く。
 出会ってから今に至るまで、雨流ユーリウ雷狼レイランに数えきれないほどたくさんのことをしてくれた。

「俺、十蓮シーリェンが来てくれたとき、嬉しかった。百臣バイチェンが支えてくれたことも嬉しかった。でも、できたらそこに雨流ユーリウもいてほしかったんだ」

 ようやくたどり着いた答えを、ぽつりと零す。

雷狼レイランには見えなかったでしょうけど、雨流ユーリウもちゃんとあなたのことを助けていたんですよ」
「あの場所にいなかったのに?」
「いましたよ勿論。霊が一斉に空に還っていったでしょう? あれは雨流ユーリウ様の術ですよ」
「し、知らなかった……でも、何で姿を見せなかったんだ?」
「それは……」

 十蓮シーリェンが少し目をそらし、クスリと笑う。

「あれで、照れ屋なんですよ。雨流ユーリウ様は。自分が術を使うところを余り見せたがらないんです。皆が騒ぎ立てるものですから」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

八雲先生の苦悩

BL / 完結 24h.ポイント:1,086pt お気に入り:6

薬で成り立つ生なんてー僕みたいな存在は滅びるべきなんだー

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:944pt お気に入り:1

星喰い(ほしくい)

児童書・童話 / 完結 24h.ポイント:830pt お気に入り:1

追いかける雑草

SF / 完結 24h.ポイント:745pt お気に入り:0

王妃となったアンゼリカ

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:169,393pt お気に入り:7,830

信長に死に装束を

歴史・時代 / 完結 24h.ポイント:852pt お気に入り:1

どこにもいけない君を待ってる、海の底

青春 / 完結 24h.ポイント:3,578pt お気に入り:2

婚約破棄?私には既に夫がいますが?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:91,206pt お気に入り:655

処理中です...