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第四章
11:悔悟<二>
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「それは雨流様が悪いですね。分かりました、私からそこはちゃんと伝えておきましょう。……いいですか。あなたは自分の過去がとても可愛そうなものだと思っている。なんと言葉をかけてよいか分からないほど辛い話でした。それは間違いありません。そして自分の想いを完全に理解できるのは自分だけです。似た体験を誰かがしたとしても、それはその人だけの想い。あなたの感じた無力感や悲しみも、どんなに同じ境遇の人がいても、あなたにしか持てない感情です」
「う、うん」
「逆に、そんなにひどい境遇ではない人がいたとして。仮にあなたの過去と比べたとしてもどちらがひどい、なんてことは言えるわけがないでしょう? だから、あなたも相手の言葉に耳を傾けてあげてください。自分を理解してもらいたいと思うなら、自分の話を聞いてもらうのと同じだけ、相手のことも知ってあげてください」
「うん……難しいな」
「相手に話をするのなら、相手の話もちゃんと聞いてあげましょうって、そういうことです。……さて、ここからが本題です。あなたと雨流様が共に行動して。琥美の嘘を織り交ぜた会話と比べ、雨流様はそんなに信用に値しない存在でしたか?」
「え、ええと……」
ここにきていきなり核心をついた質問を投げかけられて雷狼は戸惑った。しどろもどろになりながら、雨流と共に過ごした日々を振り返る。
「雨流は……俺が花琳国の兵士から追われてたとき、助けてくれたよ。それから王宮に乗り込んで義兄さんに嵌められていたことを見抜いて、俺の無実を証明してくれた」
あのときは誰一人雷狼のことを信用してはいなかった。王李皇帝の知り合いである雨流がいなかったら、雷狼の無実は証明できなかっただろう。
「それから、義父さんを捕まえるために一緒についてきてくれるって言ってくれた。……花琳国を出てからはいつも食事を作ってくれたし、自分はほとんど食べないのに、俺のためだけに腹が膨れるようにって、いろいろ……。石窟では俺のこと庇ってくれた。蘇緑に来たのだって、雨流の都合じゃない。俺の為にここまで付き合ってくれたんだ。それに俺、雨流に何も言わないで夜屋敷を抜け出して行ったのに……」
雨流は元々琥美のことを警戒していた。信じ切っていたのは雷狼の勝手な思い入れだ。それに、雨流が不在だったので勝手に琥美と石窟に行ってしまったが、よく考えれば書置き一つでも残すべきだった。たまたま雨流が逃げる琥美を見つけてくれたからこうして助かったものの、本来なら勝手に抜け出して心配をかけて、雨流に怒られてもおかしくなかったのだ。
そこまで考えて雷狼は気付く。
本当は雨流にも一緒にあの場にいてほしかったのだ。それが……十蓮と百臣だけだったので……何故雨流が来ないのかとがっかりした。
(いや、内緒にしてたくせに自分で何もできなくて、助けに来てもらうこと自体が情けないけど……)
しかしそれも随分と勝手な考えだったと思い知る。
「そうだ。俺、雨流に色んなことして貰ってる。何の見返りもないのに、俺のために危険な場所に行ったり、面倒事を引き受けたり。俺が勝手な行動してるのに助けにきてくれた……」
「それは、信頼に値するのでは?」
雷狼は俯いて頷く。
出会ってから今に至るまで、雨流は雷狼に数えきれないほどたくさんのことをしてくれた。
「俺、十蓮が来てくれたとき、嬉しかった。百臣が支えてくれたことも嬉しかった。でも、できたらそこに雨流もいてほしかったんだ」
ようやくたどり着いた答えを、ぽつりと零す。
「雷狼には見えなかったでしょうけど、雨流もちゃんとあなたのことを助けていたんですよ」
「あの場所にいなかったのに?」
「いましたよ勿論。霊が一斉に空に還っていったでしょう? あれは雨流様の術ですよ」
「し、知らなかった……でも、何で姿を見せなかったんだ?」
「それは……」
十蓮が少し目をそらし、クスリと笑う。
「あれで、照れ屋なんですよ。雨流様は。自分が術を使うところを余り見せたがらないんです。皆が騒ぎ立てるものですから」
「う、うん」
「逆に、そんなにひどい境遇ではない人がいたとして。仮にあなたの過去と比べたとしてもどちらがひどい、なんてことは言えるわけがないでしょう? だから、あなたも相手の言葉に耳を傾けてあげてください。自分を理解してもらいたいと思うなら、自分の話を聞いてもらうのと同じだけ、相手のことも知ってあげてください」
「うん……難しいな」
「相手に話をするのなら、相手の話もちゃんと聞いてあげましょうって、そういうことです。……さて、ここからが本題です。あなたと雨流様が共に行動して。琥美の嘘を織り交ぜた会話と比べ、雨流様はそんなに信用に値しない存在でしたか?」
「え、ええと……」
ここにきていきなり核心をついた質問を投げかけられて雷狼は戸惑った。しどろもどろになりながら、雨流と共に過ごした日々を振り返る。
「雨流は……俺が花琳国の兵士から追われてたとき、助けてくれたよ。それから王宮に乗り込んで義兄さんに嵌められていたことを見抜いて、俺の無実を証明してくれた」
あのときは誰一人雷狼のことを信用してはいなかった。王李皇帝の知り合いである雨流がいなかったら、雷狼の無実は証明できなかっただろう。
「それから、義父さんを捕まえるために一緒についてきてくれるって言ってくれた。……花琳国を出てからはいつも食事を作ってくれたし、自分はほとんど食べないのに、俺のためだけに腹が膨れるようにって、いろいろ……。石窟では俺のこと庇ってくれた。蘇緑に来たのだって、雨流の都合じゃない。俺の為にここまで付き合ってくれたんだ。それに俺、雨流に何も言わないで夜屋敷を抜け出して行ったのに……」
雨流は元々琥美のことを警戒していた。信じ切っていたのは雷狼の勝手な思い入れだ。それに、雨流が不在だったので勝手に琥美と石窟に行ってしまったが、よく考えれば書置き一つでも残すべきだった。たまたま雨流が逃げる琥美を見つけてくれたからこうして助かったものの、本来なら勝手に抜け出して心配をかけて、雨流に怒られてもおかしくなかったのだ。
そこまで考えて雷狼は気付く。
本当は雨流にも一緒にあの場にいてほしかったのだ。それが……十蓮と百臣だけだったので……何故雨流が来ないのかとがっかりした。
(いや、内緒にしてたくせに自分で何もできなくて、助けに来てもらうこと自体が情けないけど……)
しかしそれも随分と勝手な考えだったと思い知る。
「そうだ。俺、雨流に色んなことして貰ってる。何の見返りもないのに、俺のために危険な場所に行ったり、面倒事を引き受けたり。俺が勝手な行動してるのに助けにきてくれた……」
「それは、信頼に値するのでは?」
雷狼は俯いて頷く。
出会ってから今に至るまで、雨流は雷狼に数えきれないほどたくさんのことをしてくれた。
「俺、十蓮が来てくれたとき、嬉しかった。百臣が支えてくれたことも嬉しかった。でも、できたらそこに雨流もいてほしかったんだ」
ようやくたどり着いた答えを、ぽつりと零す。
「雷狼には見えなかったでしょうけど、雨流もちゃんとあなたのことを助けていたんですよ」
「あの場所にいなかったのに?」
「いましたよ勿論。霊が一斉に空に還っていったでしょう? あれは雨流様の術ですよ」
「し、知らなかった……でも、何で姿を見せなかったんだ?」
「それは……」
十蓮が少し目をそらし、クスリと笑う。
「あれで、照れ屋なんですよ。雨流様は。自分が術を使うところを余り見せたがらないんです。皆が騒ぎ立てるものですから」
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