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それから
10-01:事件のあと
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中宮大夫が配流になったと伝えられたのは、それからしばらく後のことだった。
弾正大弼に至っては、拐かしの一件に加えて五条大橋の火事の件についても、罪が問われることになり、厳しい処置が下されたと聞く。
弾正大弼は輝く君より優位に立ちたかった。中宮大夫は皇籍復帰して……ゆくゆくは現在の東宮に代わって自分が帝として即位したいとの思惑があった。
その為には現東宮も、そして内親王も邪魔でしかない。もしも弾正大弼が内親王と結婚すれば、内親王は降嫁する事になる。そうすれば、自分を邪魔する者は居ないと考えたに違いない。
何にしても愚かな話だと思う。
どちらから話を持ち掛けたのかは定かではないが、結果的に二人とも破滅してしまったというわけだ。他にも目論みに加わっていた数名の公卿達も同様に厳しい処分が下ったという。
桜の――一の姫を引き取った時臣だが、姫が襲われて死んだかと思われていたにも関わらず「生きている」と言い張っていたこと、更には偽の縁談ではあったが、東宮の妃にという話が出た際も自分の姫を件の一の姫だと偽って差し出そうとしていたことなど、それ自体は罪には咎められないものの世間的な評判は著しく下がった。一の姫の身代わりになるはずだった三の姫も一命はとりとめたが、いまだ起き上がることも出来ない状態らしい。三の姫には気の毒なことだったと思うが、今となっては仕方が無いことだろう。
府君祭のあの時、桜の提案もあり「死んだ姫が生き返った」という筋書きを完成させる為、頼央や輝く君……そしてなし崩し的に加わった内親王とで話し合った。しかし公卿達を集めるとなれば、それなりの陰陽師が必要。そこで昂明は安倍晴明公に『振りだけの泰山府君祭』を行って欲しいと頼みに行ったのだ。
「府君祭を行うことは構わないのだが、そこまでやるというのなら、昂明。お前が私の名代として泰山府君祭の祭祀を行いなさい」
泰山府君祭といえば安倍氏が取り仕切るもの。世間的にその印象は大いにある。だから流石に自分が行うなど無理だと言ったのだが、
「大丈夫大丈夫、何とかなる。昂明、お前は子供の頃からここぞという時は上手くやる子供であった。代わりに私も府君祭に参列するから、やってみなさい」
などと言われてしまった。
「知っているのだぞ。巷では『如何様兄さん』と呼ばれているそうじゃないか。折角ここまで自分達で調べ上げたのだ。締めは盛大な如何様をやってやると良い」
しかもあろうことか、どこからか昂明が『如何様兄さん』と呼ばれていることまで引き合いに出してきたのだ。謎の公卿も大概だったが、皆一体どこからその情報を仕入れてくるのやら。
晴明公としては、どのみち『振りだけ』なのだから、昂明に花を持たせてやろうという思いがあったのだと思う。お陰で他の陰陽師――賀茂光栄公まで見物にやってきてしまったのだから困ったものだ。
しかし、何度思い返してもやはり荷が重過ぎたと思う。
「内親王さまは、何故東宮さまの代わりに東宮さまの振りをしたんだろう」
銀が疑問に思うのも無理はない。
元々頼央から事の次第と嘘の泰山府君祭の祭祀を行うことを帝に奏上してもらった際、帝はそれならば清涼殿で祭祀をと言ったのだが、最悪中宮大夫達が暴れた場合、清涼殿が穢れることもありうる話だった。それで名代という形で頼央の邸での祭祀にしてもらったのだ。
東宮も相当乗り気で泰山府君祭に参加する気ではあったのだが、内親王が「自分に任せて貰えないか」と帝と東宮を強引に説得した。
昂明にはなんとなく、その理由が分かる。そして恐らく、帝も内親王の意図に気づいたのかもしれない。
「たまには内密に藤壺を訪ねてくると良い。私は歓迎するぞ」
頼央の邸を後にするときに内親王はそう言った。あれは恐らく、銀に向けての言葉だったのだろう。
「多分、内親王さまは銀が兄妹だって気づいたんだ。だから銀と同じ顔の東宮さまが右大将さまの邸に行くよりも自分が行った方が良いと思ったんだ」
「えっ!?」
まさか気づかれているとは露知らず。銀は目を丸くして驚いている。
弾正大弼に至っては、拐かしの一件に加えて五条大橋の火事の件についても、罪が問われることになり、厳しい処置が下されたと聞く。
弾正大弼は輝く君より優位に立ちたかった。中宮大夫は皇籍復帰して……ゆくゆくは現在の東宮に代わって自分が帝として即位したいとの思惑があった。
その為には現東宮も、そして内親王も邪魔でしかない。もしも弾正大弼が内親王と結婚すれば、内親王は降嫁する事になる。そうすれば、自分を邪魔する者は居ないと考えたに違いない。
何にしても愚かな話だと思う。
どちらから話を持ち掛けたのかは定かではないが、結果的に二人とも破滅してしまったというわけだ。他にも目論みに加わっていた数名の公卿達も同様に厳しい処分が下ったという。
桜の――一の姫を引き取った時臣だが、姫が襲われて死んだかと思われていたにも関わらず「生きている」と言い張っていたこと、更には偽の縁談ではあったが、東宮の妃にという話が出た際も自分の姫を件の一の姫だと偽って差し出そうとしていたことなど、それ自体は罪には咎められないものの世間的な評判は著しく下がった。一の姫の身代わりになるはずだった三の姫も一命はとりとめたが、いまだ起き上がることも出来ない状態らしい。三の姫には気の毒なことだったと思うが、今となっては仕方が無いことだろう。
府君祭のあの時、桜の提案もあり「死んだ姫が生き返った」という筋書きを完成させる為、頼央や輝く君……そしてなし崩し的に加わった内親王とで話し合った。しかし公卿達を集めるとなれば、それなりの陰陽師が必要。そこで昂明は安倍晴明公に『振りだけの泰山府君祭』を行って欲しいと頼みに行ったのだ。
「府君祭を行うことは構わないのだが、そこまでやるというのなら、昂明。お前が私の名代として泰山府君祭の祭祀を行いなさい」
泰山府君祭といえば安倍氏が取り仕切るもの。世間的にその印象は大いにある。だから流石に自分が行うなど無理だと言ったのだが、
「大丈夫大丈夫、何とかなる。昂明、お前は子供の頃からここぞという時は上手くやる子供であった。代わりに私も府君祭に参列するから、やってみなさい」
などと言われてしまった。
「知っているのだぞ。巷では『如何様兄さん』と呼ばれているそうじゃないか。折角ここまで自分達で調べ上げたのだ。締めは盛大な如何様をやってやると良い」
しかもあろうことか、どこからか昂明が『如何様兄さん』と呼ばれていることまで引き合いに出してきたのだ。謎の公卿も大概だったが、皆一体どこからその情報を仕入れてくるのやら。
晴明公としては、どのみち『振りだけ』なのだから、昂明に花を持たせてやろうという思いがあったのだと思う。お陰で他の陰陽師――賀茂光栄公まで見物にやってきてしまったのだから困ったものだ。
しかし、何度思い返してもやはり荷が重過ぎたと思う。
「内親王さまは、何故東宮さまの代わりに東宮さまの振りをしたんだろう」
銀が疑問に思うのも無理はない。
元々頼央から事の次第と嘘の泰山府君祭の祭祀を行うことを帝に奏上してもらった際、帝はそれならば清涼殿で祭祀をと言ったのだが、最悪中宮大夫達が暴れた場合、清涼殿が穢れることもありうる話だった。それで名代という形で頼央の邸での祭祀にしてもらったのだ。
東宮も相当乗り気で泰山府君祭に参加する気ではあったのだが、内親王が「自分に任せて貰えないか」と帝と東宮を強引に説得した。
昂明にはなんとなく、その理由が分かる。そして恐らく、帝も内親王の意図に気づいたのかもしれない。
「たまには内密に藤壺を訪ねてくると良い。私は歓迎するぞ」
頼央の邸を後にするときに内親王はそう言った。あれは恐らく、銀に向けての言葉だったのだろう。
「多分、内親王さまは銀が兄妹だって気づいたんだ。だから銀と同じ顔の東宮さまが右大将さまの邸に行くよりも自分が行った方が良いと思ったんだ」
「えっ!?」
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