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それから
10-04:再逢の約束を携えて
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「桜も知っての通り、僕は厄介な身の上だ。きっとこの先も普通に生きることは難しいだろう。僕自身には何の力も富もない。それでも僕が僕らしくいられるのは、この刀岐の邸にいる皆や、支えてくれる人達の優しさがあってこそのもの。……それだって、確実に永遠に続くものとは限らないだろう」
銀は続ける。
「どこまで生きられるのか分からない。あと数年かもしれないし、数十年かもしれない。けれどその時自分が今と同じ環境で生きて行けるのかも分からない。僕という存在はとても不安定なものなんだ」
常にその不安は頭の中にあったのだろう。
今こうして暮らしていられる己の環境は、少しの変化で脆く崩れてしまうもの。例え出自がどのようであったとしても。いや、だからこそかもしれない。
それを銀は、よく分かっているのだ。
淀みない銀の心からの言葉。昂明も頼央もその言葉に聞き入った。
「仮に――何年か先、たとえ誰かと一緒になる事ができたとしても、その先にあるのは希望とは限らない。そもそも許されるのかも分からない。大げさかもしれないけれど……最悪山でひっそりと身を隠しながら暮らすことになるかもしれない。自分が思うように生きたいと思えば、刀岐の世話になる事は出来ないだろう。きっと不自由もする。それがどれ程のものか……正直想像もつかない」
その言葉に反して、銀の表情は暗くはない。不思議な事に、微かに笑っているようにすら昂明には見えた。
「それでも。裳着を済ませ一人前になった頃。もしも、まだ桜が望んでくれるのならば……僕は必ず桜のことを迎えに行く」
桜は驚いたまま、暫く何も言えない。
期待と戸惑いの混じった顔を両手で覆う。あわあわと銀の顔を何度か見た後で、おずおずともう一度視線を銀へと向けた。
「……ほんとに?」
「本当だ、約束する」
目を見開いた桜は涙を堪える。
泣きはらしたというのにその表情は晴れ晴れとしており、憂いも曇りもそこには無かった。
「だから勇気を出して、右大将さまの所に行っておいで」
既に散ったはずの桜の花がひらりひらりと飛んで行ったように思えた。
もしかしたら似た別の花びらだったのかもしれないが。
ともかく――ようやく桜は首を縦に振り、その後頼央の元へと旅立って行ったのだった。
「あのね、昂明さま。府君祭のとき、私の為に左衛門督さまのこと、怒ってくれたでしょ? わたし、とっても嬉しかった。……有り難う、昂明さま」
別れ際、恥ずかしそうに桜が言った言葉がずっと耳に残っている。
「大好き! 銀の次に!」
嬉しいが、実に正直な娘だと思う。
牛車へ乗り込む桜の姿を、苦笑いしながら昂明は見送った。
桜が頼央の元へ行ってしまった後。
刀岐の邸には静けさが戻ってきた。静けさと言えば聞こえがいいが、単に心寂しくなっただけだ。結局何をする気も起きず、気づけば数日が過ぎた。
ぼんやりと夕日を見つめながら、昂明と銀は階に腰かけている。
ぽっかりと心には穴が開いたような気持ちもあったが、思い起こせば多少の達成感もあった。
「顔のいい式神さんのとびきりの呪。見事なもんだったな」
「茶化すな」
「茶化してはいるが感心しているんだぜ。あの桜が二つ返事で――あれほど嫌がっていた右大将さまの所に行くことを決めたんだからな」
ずっと考えていたんだろ、と昂明が言うと銀は笑って「ああ」と答える。
心からの桜への言葉。
銀のその気持ちが桜に伝わったのだ。
「裳着を終えたらすぐにでも戻ってくるんじゃねえか」
「さあ」
銀はそう言って寂し気に笑う。
「邸の外に出たら、色んな出会いもあるだろう。僕のことなんてすぐに忘れてしまうさ」
あそこまで言っておいて、この式神は本気で思っているのだろうか?
昂明には分かっている。
桜は絶対に銀のことを忘れたりなどしないだろう。
そのことに銀が気づくのはいつになるのやら……。
銀は続ける。
「どこまで生きられるのか分からない。あと数年かもしれないし、数十年かもしれない。けれどその時自分が今と同じ環境で生きて行けるのかも分からない。僕という存在はとても不安定なものなんだ」
常にその不安は頭の中にあったのだろう。
今こうして暮らしていられる己の環境は、少しの変化で脆く崩れてしまうもの。例え出自がどのようであったとしても。いや、だからこそかもしれない。
それを銀は、よく分かっているのだ。
淀みない銀の心からの言葉。昂明も頼央もその言葉に聞き入った。
「仮に――何年か先、たとえ誰かと一緒になる事ができたとしても、その先にあるのは希望とは限らない。そもそも許されるのかも分からない。大げさかもしれないけれど……最悪山でひっそりと身を隠しながら暮らすことになるかもしれない。自分が思うように生きたいと思えば、刀岐の世話になる事は出来ないだろう。きっと不自由もする。それがどれ程のものか……正直想像もつかない」
その言葉に反して、銀の表情は暗くはない。不思議な事に、微かに笑っているようにすら昂明には見えた。
「それでも。裳着を済ませ一人前になった頃。もしも、まだ桜が望んでくれるのならば……僕は必ず桜のことを迎えに行く」
桜は驚いたまま、暫く何も言えない。
期待と戸惑いの混じった顔を両手で覆う。あわあわと銀の顔を何度か見た後で、おずおずともう一度視線を銀へと向けた。
「……ほんとに?」
「本当だ、約束する」
目を見開いた桜は涙を堪える。
泣きはらしたというのにその表情は晴れ晴れとしており、憂いも曇りもそこには無かった。
「だから勇気を出して、右大将さまの所に行っておいで」
既に散ったはずの桜の花がひらりひらりと飛んで行ったように思えた。
もしかしたら似た別の花びらだったのかもしれないが。
ともかく――ようやく桜は首を縦に振り、その後頼央の元へと旅立って行ったのだった。
「あのね、昂明さま。府君祭のとき、私の為に左衛門督さまのこと、怒ってくれたでしょ? わたし、とっても嬉しかった。……有り難う、昂明さま」
別れ際、恥ずかしそうに桜が言った言葉がずっと耳に残っている。
「大好き! 銀の次に!」
嬉しいが、実に正直な娘だと思う。
牛車へ乗り込む桜の姿を、苦笑いしながら昂明は見送った。
桜が頼央の元へ行ってしまった後。
刀岐の邸には静けさが戻ってきた。静けさと言えば聞こえがいいが、単に心寂しくなっただけだ。結局何をする気も起きず、気づけば数日が過ぎた。
ぼんやりと夕日を見つめながら、昂明と銀は階に腰かけている。
ぽっかりと心には穴が開いたような気持ちもあったが、思い起こせば多少の達成感もあった。
「顔のいい式神さんのとびきりの呪。見事なもんだったな」
「茶化すな」
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銀のその気持ちが桜に伝わったのだ。
「裳着を終えたらすぐにでも戻ってくるんじゃねえか」
「さあ」
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そのことに銀が気づくのはいつになるのやら……。
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