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第五話:嵐がやってきた
5-4:ヴァンパイアハンターとヴァンパイア
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「あ……」
僕の顔を掴んでいた手が離れた後、僕はその場にへたり込んだ。
「大丈夫!?」
ヴィクターが駆け寄ると、僕とその人の間に割って入る。
いや……もはや『その人』ではなく、僕の祖父、だ。
「思い出したか、聖弘よ」
祖父が僕を見下ろしている。その眼はやっぱり冷たいものだった。
「そんな、お爺、さま……」
それだけ、やっとの思いで僕は言葉にした。
アインさんのお店に、『ビストロ・ノクターン』に転がり込んだのは偶然ではなかった。しかもただ転がり込んだだけじゃない。
『相手が油断した所を……』
酷くショックだった。
これから先もずっと働いていきたい、そう思った素晴らしいあの場所を。
壊すために自分がそこに行かされたという事実に僕は絶望した。
「計画が狂ってしまったが仕方ない。暗示自体は完全に解いたわけではないのだ」
僕の意志など無視するかのように、祖父は尚も話を続ける。
耳を塞いでしまいたかった。全部聞かなかったことにして、忘れてしまいたかった。
もう一度。
「やめて貰えますか? きょっぴーの親族の方みたいだけど……嫌がってるじゃないですか!」
ヴィクターが強い口調で、祖父に怒った。
祖父は微動だにせず、視線のみをヴィクターに向ける。
「ふん、人造人間如きが口出しするな。私の敵はヴァンパイアのみだが、邪魔だてするなら貴様も容赦はしない」
その言葉にヴィクターが一歩、後ずさりする。
駄目だ、ヴィクターに戦わせるわけにはいかない。
僕は知っている、祖父は無茶苦茶に強い。
……でもそれよりも。
初めて会った日に嬉しそうに僕に握手を求めてくれたヴィクター。
初めて僕がホールスタッフをする時に、要領の悪い僕に何度も丁寧に接客を教えてくれた。
祖父は本気だ。
もしも戦いあうことになったなら、喧嘩レベルじゃ済む訳がない。
一緒にホールで沢山笑いあったヴィクターに命がけの戦いなんて、そんな事をさせたくはないんだ。
「っ……お爺様! や、やめてください!」
僕は祖父を止めようとしがみ付く。ジロリと一瞥した後で祖父に振り払われて僕は尻もちをついた。
「きょっぴー!」
ヴィクターの叫ぶ声が聞こえる。
「ヴィクター、逃げて! アインさんに知らせて下さい!」
まだ起き上がることの出来ない僕は、とにかく逃げて欲しいと力の限りヴィクターに叫んだ。
「駄目だよ、きょっぴーを置いてなんて……!」
尚もそう言ってとどまるヴィクターの元に一歩ずつ祖父が近づいていくのが分かる。
僕は力を振り絞ってもう一度祖父の足にしがみ付いた。
「聖弘、いい加減にしろ!」
「やめてください、お願いです……!」
絶対に足を離すわけにはいかないと、何度蹴られても僕はしがみ付き続ける。
自分でも驚くほど、怖いという感情よりも止めたいという感情の方が勝っていたのだ。
「いい加減にしないと……!」
祖父の手が僕の首根っこを掴んだ。
「うちの従業員に手荒な真似をするのは……止めて頂けますか?」
荒ぶる風の中から、確かに聞こえたその声。
はためく布のような音を頼りに僕は背後を振り返ると、そこにその人はいた。
「アイン、さん……!」
正直に言えば、来ないで欲しかった。
来たら危ないと思ったからだ。
でも、その姿を見て酷く安心したのも事実だった。
アインさんはふわりと僕たちの横に立つと、驚くほどすんなりと僕の手を取って自分の方へと引き寄せる。
そのあまりの自然な動作に誰一人動くことが出来なかった。
「どうして……?」
僕達がこんなことになっているなんてわかるわけないのに。
「うん、……じつは僵尸の一味の一人がうちの店に飛び込んできたんだよ。君たちが今変なやつに絡まれている、ってね」
爽やかな笑いと共にウインクで、アインさんは答えた。
よく見たら、マントのようなものを身に着けている。……台風であおられているのに大丈夫なんだろうか。
「ああ、もしかしてさっきの……。そっか、店長に知らせてくれたんだ」
ヴィクターがほっとした顔をする。
さっき僕達が助けたあの人が……意外に良いところもあるんだなとちょっと感心してしまった。
「ふん、まさかお前の方から来るとはな。しかし決着を着けるには丁度いい」
祖父はアインさんを前にしても、全く動揺しない。
「ダンピールでありながら、ヴァンパイアに助けられるとは情けない、本当に滑稽だ」
祖父は僕の方を見て、心底軽蔑するような顔をする。僕はその眼に怯え、アインさんの腕にしがみ付いた。
そんな僕を見て、アインさんの顔は曇る。
「うちの大切な従業員を愚弄するのは止めて頂けますか」
僕を庇いながら、アインさんが祖父に言い返す。
「ふん、お前になど、こいつの事など何一つ分かるものか」
「……いいえ、分かりますとも」
祖父の言葉にきっぱりと、アインさんは言い切った。
その後で少し目を閉じ、そしてもう一度見る。
「あなたの息子さんと私の妹が海に沈んだ、あの事故の時以来ですね。……お久しぶりです、神宮寺・アルベルト・理仁さん」
「えっ……!?」
「嘘!?」
僕も、ヴィクターも驚いて思わず声を出してしまった。
だって、まさか二人が知り合いだなんて……。
それに、アインさんの妹さんが亡くなった原因ってもしかして。
「ふん……」
祖父は何も答えない。
「お爺様! どういう事なんですか! アインさんの妹さんが無くなる原因を作ったのは……」
「黙れ、聖弘!」
言いかけた僕の言葉を打ち消すように、祖父は怒鳴る。
そのあまりの剣幕に、僕は堪らず身を竦めた。
「神宮寺さん……」
悲痛な顔でアインさんは祖父を見つめている。その先に見える感情は何なのだろう。
妹さんが亡くなったショックでお店も開けられなかったアインさんの事を思うと、僕は胸が締め付けられるような思いだった。
「戯言はそこまでだ。聖弘、やれ」
祖父の指が僕に向く。
「え……?」
一瞬何が何だか分からずに祖父の顔を見た瞬間、再び僕の意識は暗闇の中に落ちた。
僕の顔を掴んでいた手が離れた後、僕はその場にへたり込んだ。
「大丈夫!?」
ヴィクターが駆け寄ると、僕とその人の間に割って入る。
いや……もはや『その人』ではなく、僕の祖父、だ。
「思い出したか、聖弘よ」
祖父が僕を見下ろしている。その眼はやっぱり冷たいものだった。
「そんな、お爺、さま……」
それだけ、やっとの思いで僕は言葉にした。
アインさんのお店に、『ビストロ・ノクターン』に転がり込んだのは偶然ではなかった。しかもただ転がり込んだだけじゃない。
『相手が油断した所を……』
酷くショックだった。
これから先もずっと働いていきたい、そう思った素晴らしいあの場所を。
壊すために自分がそこに行かされたという事実に僕は絶望した。
「計画が狂ってしまったが仕方ない。暗示自体は完全に解いたわけではないのだ」
僕の意志など無視するかのように、祖父は尚も話を続ける。
耳を塞いでしまいたかった。全部聞かなかったことにして、忘れてしまいたかった。
もう一度。
「やめて貰えますか? きょっぴーの親族の方みたいだけど……嫌がってるじゃないですか!」
ヴィクターが強い口調で、祖父に怒った。
祖父は微動だにせず、視線のみをヴィクターに向ける。
「ふん、人造人間如きが口出しするな。私の敵はヴァンパイアのみだが、邪魔だてするなら貴様も容赦はしない」
その言葉にヴィクターが一歩、後ずさりする。
駄目だ、ヴィクターに戦わせるわけにはいかない。
僕は知っている、祖父は無茶苦茶に強い。
……でもそれよりも。
初めて会った日に嬉しそうに僕に握手を求めてくれたヴィクター。
初めて僕がホールスタッフをする時に、要領の悪い僕に何度も丁寧に接客を教えてくれた。
祖父は本気だ。
もしも戦いあうことになったなら、喧嘩レベルじゃ済む訳がない。
一緒にホールで沢山笑いあったヴィクターに命がけの戦いなんて、そんな事をさせたくはないんだ。
「っ……お爺様! や、やめてください!」
僕は祖父を止めようとしがみ付く。ジロリと一瞥した後で祖父に振り払われて僕は尻もちをついた。
「きょっぴー!」
ヴィクターの叫ぶ声が聞こえる。
「ヴィクター、逃げて! アインさんに知らせて下さい!」
まだ起き上がることの出来ない僕は、とにかく逃げて欲しいと力の限りヴィクターに叫んだ。
「駄目だよ、きょっぴーを置いてなんて……!」
尚もそう言ってとどまるヴィクターの元に一歩ずつ祖父が近づいていくのが分かる。
僕は力を振り絞ってもう一度祖父の足にしがみ付いた。
「聖弘、いい加減にしろ!」
「やめてください、お願いです……!」
絶対に足を離すわけにはいかないと、何度蹴られても僕はしがみ付き続ける。
自分でも驚くほど、怖いという感情よりも止めたいという感情の方が勝っていたのだ。
「いい加減にしないと……!」
祖父の手が僕の首根っこを掴んだ。
「うちの従業員に手荒な真似をするのは……止めて頂けますか?」
荒ぶる風の中から、確かに聞こえたその声。
はためく布のような音を頼りに僕は背後を振り返ると、そこにその人はいた。
「アイン、さん……!」
正直に言えば、来ないで欲しかった。
来たら危ないと思ったからだ。
でも、その姿を見て酷く安心したのも事実だった。
アインさんはふわりと僕たちの横に立つと、驚くほどすんなりと僕の手を取って自分の方へと引き寄せる。
そのあまりの自然な動作に誰一人動くことが出来なかった。
「どうして……?」
僕達がこんなことになっているなんてわかるわけないのに。
「うん、……じつは僵尸の一味の一人がうちの店に飛び込んできたんだよ。君たちが今変なやつに絡まれている、ってね」
爽やかな笑いと共にウインクで、アインさんは答えた。
よく見たら、マントのようなものを身に着けている。……台風であおられているのに大丈夫なんだろうか。
「ああ、もしかしてさっきの……。そっか、店長に知らせてくれたんだ」
ヴィクターがほっとした顔をする。
さっき僕達が助けたあの人が……意外に良いところもあるんだなとちょっと感心してしまった。
「ふん、まさかお前の方から来るとはな。しかし決着を着けるには丁度いい」
祖父はアインさんを前にしても、全く動揺しない。
「ダンピールでありながら、ヴァンパイアに助けられるとは情けない、本当に滑稽だ」
祖父は僕の方を見て、心底軽蔑するような顔をする。僕はその眼に怯え、アインさんの腕にしがみ付いた。
そんな僕を見て、アインさんの顔は曇る。
「うちの大切な従業員を愚弄するのは止めて頂けますか」
僕を庇いながら、アインさんが祖父に言い返す。
「ふん、お前になど、こいつの事など何一つ分かるものか」
「……いいえ、分かりますとも」
祖父の言葉にきっぱりと、アインさんは言い切った。
その後で少し目を閉じ、そしてもう一度見る。
「あなたの息子さんと私の妹が海に沈んだ、あの事故の時以来ですね。……お久しぶりです、神宮寺・アルベルト・理仁さん」
「えっ……!?」
「嘘!?」
僕も、ヴィクターも驚いて思わず声を出してしまった。
だって、まさか二人が知り合いだなんて……。
それに、アインさんの妹さんが亡くなった原因ってもしかして。
「ふん……」
祖父は何も答えない。
「お爺様! どういう事なんですか! アインさんの妹さんが無くなる原因を作ったのは……」
「黙れ、聖弘!」
言いかけた僕の言葉を打ち消すように、祖父は怒鳴る。
そのあまりの剣幕に、僕は堪らず身を竦めた。
「神宮寺さん……」
悲痛な顔でアインさんは祖父を見つめている。その先に見える感情は何なのだろう。
妹さんが亡くなったショックでお店も開けられなかったアインさんの事を思うと、僕は胸が締め付けられるような思いだった。
「戯言はそこまでだ。聖弘、やれ」
祖父の指が僕に向く。
「え……?」
一瞬何が何だか分からずに祖父の顔を見た瞬間、再び僕の意識は暗闇の中に落ちた。
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